■税務
事業縮小に伴う役員退職金の支給
待山会計事務所   税理士  待山克典


(問)
 主にオフィスビルの保守管理を行ってきた株式会社A社は、ここ数年契約件数が減り、これ以上事業の継続の見通しが立たなくなったため、保守管理関係の事業から撤退し、以前からオフィスビルをいくつか所有しているため、あわせて行っていた不動産賃貸業のみを続けていくことにしました。
 A社の主な事業であった保守管理に従事していた従業員は解雇するため、残る従業員も数名となり、また、このような状況では役員報酬も今後支給できそうにもありません。そこで、A社の代表取締役甲は非常勤とし、多少の退職金は支払うことにします。
 甲はA社の事業立ち上げから20年あまり取締役として勤務しており、役員報酬は月額50万円から多いときで90万円ほど支給していました。その後代表取締役となったときに月額200万円になり、その2年後A社が不動産賃貸業に専念することになった時点で非常勤となり月額20万円としました。
 常勤の代表取締役であった甲に対する退職金の件ですが、保守管理事業から撤退した時点で甲に対して退職金を支給することは可能でしょうか。
 また、事業撤退後は以前と比べて役員報酬が大幅に減額していますが、今後の退職時においては、いわゆる功績倍率方式で計算しますが、そのときに事業撤退以前に対する部分を支給金額の計算の際に考慮しても差し支えないでしょうか。
 
(答)
 そもそも退職給与は、「従業員または役員がその退職に基因してその勤務先から支給を受ける給与」をいいますが、法人の役員の分掌変更や改選による再任などに際して、その役員に対して退職給与として支給した給与については、その支給が実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱ってもさしつかえないととされています。
 そして、この場合の「実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」ということはどのようなことかということになると、税務当局の取り扱いでは「常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、分掌変更後の報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したこと」が例として示されています。
 A社の甲代表取締役は、ビル保守管理事業からの撤退に伴い、常勤役員から非常勤役員になり、また、報酬額が200万円から20万円に激減しています。
 ただし、上記で紹介した取扱いによると、「役員が実質的に退職したと同様の事情にある場合」に限り、実際には退職していなかったとしても退職給与として認めるものです。その点、甲の状況を見ると、非常勤になった後も代表取締役にとどまるようですし、従来と変わらずA社の経営に従事しているものと考えられます。とすると、実質的に退職したと同様の事情にあるとはいえませんので、上記の取扱いは適用されないことになります。ここで甲へ支払う退職金というのは退職給与には当たらず、役員賞与に当ることになります。
 また、退職金額の算定方法は、いわゆる「功績倍率方式」の計算での可否を問うものですが、功績倍率方式とは「退職直前の役員報酬の額と勤続期間によって退職給与の適正額を算定する」方式で、この場合の退職直前の役員報酬の額は、「役員報酬の額がその会社の規模や業績等、さらにはその役員の会社経営に対する貢献の程度などを反映した合理的なもの」であることが前提です。
 質問のようにケースはその点、特殊な事情があり、単に退職直前の役員報酬の額のみによって退職給与の適正額を算定することは合理的ではないでしょう。そのため、保守管理事業撤退以前の役員報酬の額も退職給与の適正額を算定するためには加味してよいでしょう。