 東京都大田区を拠点とするサイトウアソシエイツ・グループは、代表者の齊藤司享（さいとう もりたか）先生を中心に現在、さいとう税理士法人、株式会社サンガアソシエイツ、さいとう経営センター株式会社、株式会社ベネフィックス・エフピーを展開している。昨今、製造業や飲食店、小売業も廃業や縮小を迫られ、会計事務所でも「顧問契約は決算だけにしてほしい」「顧問料を下げてほしい」などと言われる厳しい時代である。その中で会計事務所が生き残り、なおかつ勝ち残っていくためには、何が必要なのか。経営計画の策定といったサービスを提供することも大切だが、会計事務所が継続して成長していくためにはお客様が信頼してださり、そして「あなたがいてくれて良かった」と言ってもらえる会計事務所でなくてはいけないと齊藤先生は考えている。つまり、今一番大切なことは、「お客様との関係性」をどのように強化するかということだ。 「お客様との関係性」とは、例えば、酒屋の場合、お酒は大きなスーパーで買っても酒屋で買っても同じだが、その中で勝てる要素は、「価格の安さ」や「配達」などがある。しかし、「今までのあの人の対応だったら、あのお店の前に他のお店で買った商品が入った袋を持って通ることなんかできない」「少々の値段の差だったら、あの親父さんがいつも親切にしてくれているのだから、あの酒屋で買ってあげよう」というような、昔から言われる「義理堅い関係性」になることである。そのような関係性こそが、我々会計人にとって求められているマーケティングであり、「お客様との関係性」を強化するためには、お客様の心地良さをいかに実現するかの１点にあると齊藤先生は言う。 同グループが目指す経営のメインテーマは、この「お客様の心地良さの実現化」である。お客様との関係性を強化し、「あなたがいてくれてよかった。あなたがいる限り、おたくの事務所はやめないよ」と言っていただける職員を育成し、お客様に必要とされる事務所となることが重要だと言う。 齊藤先生の考えるお客様の心地良さとは、以下ようなものだ。
同グループでは、上記のようなお客様の心地良さを実現するために、職員教育に力を入れており、その成果は着実に表れている。 同グループの関連会社に、中古ゴルフクラブ販売のフランチャイズ店がある。中古ゴルフクラブ店に取り組むようになり８年目になるが、つい最近まで赤字続きだった。しかし、新しく赴任した４人目の店長で、急に黒字へと転じたのだ。齊藤先生も、その店長が今までの店長とどこが違うのだろうと疑問に思ったそうだ。しかし、店長の言動を見ているうちに、その理由がわかったのだ。 その店長がこれまでの店長と異なった点は、圧倒的にお客さまに好かれているということだ。 店長がお客様から絶大な信頼を受けている理由は、常にお客様のことを最優先に考えているからだろう。例えば、齊藤先生との打ち合わせ中にもよく、「今からクラブを取りに来てよ。君だったら売ってあげるから」といった電話がお客様からある。店長はお客様からの電話を受けて、申し訳なさそうに齊藤先生に「お客様のところに行ってよろしいでしょうか……」と言ってくるのだそうだ。お客様を大切にし、すぐにお客様のもとへ駆けつけようとする店長の姿勢を見て齊藤先生は、「早く行っておあげなさい」と笑顔で送り出すのだそうだ。 お客様を大事にしてすぐに行動する、齊藤先生が求めるお客様の心地良さを、その店長は自然に作りだしていたのだ。 同様なことが会計事務所においても言え、顧問先のお客様に試算表を説明する際、どんなに丁寧に説明してみても、お客様に心地良さは伝わらない。私はあなたのことを知りたい、あなたの会社のことをよく知りたいという、担当者の思いをお客様に伝えることが重要になってくる。そのためには、担当者１人ひとりが試算表からお客さんの会社の問題点を読み取り、お客様の会社のことを知ろうと努力し、お客様のために何ができるかを考えることが大切になる。つまり“お客様の心をノックする”ことが重要だと齊藤先生は言う。 「お客様の心地良さを実現したら、お客様が顧問料を上げてくれるかもしれないし、別のお客様を紹介してくださるかもしれない。そこに会計事務所としての喜びがあり、そうなることが会計事務所の発展だと思います」と齊藤先生は語ってくれた。 ■サイトウアソシエイツが目指す経営とは
 昭和27年にお父様の齊藤監太朗氏が、齊藤会計事務所を開業。昭和32年には齊藤経営センターを発足し、昭和42年にさいとう経営センター株式会社となった。 そのお父様が、昭和54年に56歳の若さで亡くなられ、齊藤司享先生が齊藤会計事務所、さいとう経営センター株式会社を継承することとなった。齊藤先生が32歳の時であった。 今でこそ、地元でも有数の会計事務所である同グループだが、先代から事務所を引き継いでからの31年間は、決して順風満帆ではなかった。 先代は「中小企業が伸びていくためには、経営のコンサルティングが大切であると」という考えの持ち主で、昭和42年という早い時期からコンサルティングに取り組んでいた。しかし、コンサルティングというのは俗人的な能力が必要であるため組織的に行うのは難しく、当時、所員数12名ほどの事務所で、お父様１人がコンサルティング業務を行っていたのだそうだ。 しかし、齊藤先生が事務所を継承した当時、コンサルティングを行える人材がいなかったため、コンサルティング業務からは撤退し、会計事務所業務に専念することにしたのだ。 ■サイトウアソシエイツ グループ沿革
齊藤先生が事務所を引き継いで５年ほどが経ち、事務所の経営も落ち着いてきた頃に、事務所がさらなる成長を遂げるにはどのようにしたら良いのかと考えるようになった。そして、会計事務所が継続的に発展していくためには、「お客様が喜ぶ商品を有償提供すること」が必要であると考え、経営計画の策定や決算診断、相続等のコンサルティングサービスを提供するために、齊藤先生は高額なシステムを色々と導入していった。 しかし、齊藤先生が思い描いた通りにはいかず、どれも定着させることができなかったのだ。 「取り組んだサービスが受入られなかったのは、こちらとしてはお客様の役に立つという考えて提供していたものが、お客さまに必要なものを提供しているとは限らなかったのかもしれません。例えば経営計画は必要だから、全てのお客様にも導入しようと提供したのですが、当時は右肩上がりの時代で、経営計画を策定しなくてもやっていけたんですね。経営計画策定や決算診断だけがコンサルティングだと思っていましたが、もしかしたら、お客様が求めていたものはもっと別のサービスだったかもしれませんね」と、当時のことを齊藤先生は振り返っていた。 また、巡回担当者が兼務で行っていたことも、コンサルティング業務を継続して行えなかった理由の１つであると考えた齊藤先生は、専任の担当者を置き、業務に集中させようと考えた。そして、ＦＰ会社である「株式会社ベネフィックス・エフピー」、ＭＡＳ会社である「さいとう経営センター株式会社」の２社を設立した。 先たん専担者を置き業務に専念させたところ、齊藤先生の思惑通り売上げを大きく延ばすことができた。今度こそは上手くいったと思いきや、しばらくすると次第に顧客は減少してしまったのだ。売上拡大は、一過性のもので終わってしまった。 しかし、業務が減ってしまったが、採用した選担者には給料を支払わなければならなかったので、コンサルタントたちに会計事務所の業務をやらせるようになった。その結果、一般の会計事務所職員と同様になってしまい、選担者ではなくなってしまったのだ。 「ＭＡＳやファイナンシャルプランニングが会計事務所業務を助けるものだと思って取り組んでいましたが、常に営業と商品開発を要求されるものであり、当時はそれに気付かずお客様のニーズに応えていくことができませんでした。常に新たな商品を提供することができなかったのが、失敗の原因でしょう」と齊藤先生は言う。 さまざまな失敗を経験した中で、同グループがここまで成長してくることが出来た理由について、齊藤先生は以下のように語ってくれた。 「従来の会計事務所の業務を職員たちが地道に一生懸命頑張ってきてくれたおかげでお客様が増え、顧問料が増えてくれたことにより、今までの失敗を穴埋めできていたのですね」。 そして、会計事務所が継続発展するためには、様々な商品を提供するということよりも、どのようにして顧問料を増額していくか、つまり「新しいお客様が増えること」や「既存のお客様から評価をいただいて顧問料を上げてもらうこと」だ。それが会計事務所の１番の良さであり魅力でもあり、どのように取り組んでいくかが大切であるということに、齊藤先生は気付いた。さらに、会計事務所の従来型の顧問料ビジネスが、世の中で一番素晴らしいビジネスモデルであると齊藤先生は言う。 「明日をも分からない時代において、来年の売上見込みなど予想出来ない業種がほとんどですが、会計業界は現状の顧問先の件数から売上高を80〜90％の確率で見込むことが出来ます。この差は非常に大きくて、こんなに素晴らしい商売は他にはなく、何故もっと早くこのことに気付かなかったのだろうと思いました。さらに、お客様に一度ご契約いただければ、よほどのことがない限り解約されることがない有難さが、顧問料ビジネスの中にはあります」 ■顧問料ビジネスの素晴らしさの要因
会計事務所の顧問料ビジネスが成立する要因には、我が国のすべての企業は、税務申告を行わなければいけないからである。そして、税務申告が行えるのは税理士だけと法律で守られているのだ。このように制度として毎年継続して業務が発生するビジネスは、他の業界には無いのだ。 会計業務だけを行ってきたら気付かないかもしれないが、さまざまな取り組みを行い、失敗を経験してきた齊藤先生だからこそ、会計事務所本来の業務の素晴らしさに気付いたのだろう。その気付きは非常に大きく、そのことによって、同グループは飛躍的な成長を遂げて行くことになった。 「会計事務所の商品は個々のサービスではなく、その業務を行う担当者が商品だと考えたら、全く違った世界が見えてくるようになりました」と齊藤先生は言う。 会計事務所の業務である税務申告は、他の業界のような営業努力を行わなくても継続して発生する。その中で他の事務所と差をつけるとするなら、お客様に信頼される担当者を育成することが重要だと、齊藤先生は考えた。 齊藤先生がそのように考えるようになったきっかけは、「今回の担当はいいよ！今までの担当とは全然違うよ」と、お客様から喜びの連絡を受けた時だそうだ。連絡を下さったお客様の会社は、クレジットカードや代引きなど決済方法が複数あり、手数料や消費税にそれぞれ違いがあった。新しく担当となった者は、その違いがどのようになっているのかを一生懸命に知ろうと、お客様に色々と質問を行ったのだそうだ。前任の担当者はそのようなことはなく、新しい担当者からは真剣に、お客様の会社のことを知ろうという姿勢が、良く伝わってきたのだそうだ。 「うちの会社のことをよく知ってくれていて、何かあったらすぐに飛んできてくれる担当者が一番良いんだよね」というお客様の声を聞き、齊藤先生はお客様から必要とされる担当者育成の重要さを知らされたのだった。 ■良い担当者・信頼できる担当者とは
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