実際の営業の場面では、類似点が多くある顧客に会うことはそうありません。それでは、「類似性の法則」を用いて顧客のバリアーを取り除き、信頼関係を構築するにはどのようにすれば良いのでしょうか。
答えは意識的に類似点を創り上げることです。そのテクニックが「ペーシング」です。ペーシングとは、相手と同じ歩調に合わせることです。

顧 客  「やっぱり冬のスポーツといえばスキーだよね」
営業マン 「そうですね。スキーは最高ですよね・・・」

このようにペーシングとは、顧客と類似点を増やしていけば良いのです。実際にスキーができなくても構いません。スキーに興味を持っていることを示しても立派なペーシングになります。
逆に、ペーシングせずに顧客の話の腰を折ることを『ディスペーシング』と言います。

顧 客  「やっぱり冬のスポーツといえばスキーだよね」
営業マン 「そうですかねー。寒い冬は家で暖かい鍋物が一番だと思うんですけど」

顧客の立場で考えれば、このように営業マンに言われると面白くないはずです。このようなことは、実際の営業の場面でも起こりがちなことです。

顧 客  「コストがかかるよなぁ」
営業マン 「そんなことはありません。見てください。先ほどもご説明した通り・・・」

顧客の考えを無視して自分の言いたいことだけを言うのもディスペーシングとなります。いつも自分のペースで営業をしていても、顧客の幅は広がりません。まずは、顧客を知ることからペーシングは始まります。ペーシングにより顧客の幅が飛躍的に広がります。

ペーシングのテクニックを使うと、初めて会ったのに「まるで昔から良く知っている人のようだ」と感じてもらうことができます。これは、顧客に親しみを感じてもらい、信頼関係を築く強力なテクニックです。
ペーシングテクニックは以下の3つの要素で説明することができます。

ボディーランゲッジ 『B Body Language』
 
服 装 姿 勢 表 情 身振り 手振り
態 度 動 作 呼 吸 座り方 立ち方
手の位置 足の位置 身体の傾け度合いなど  
   
言葉・話し方 『W Word』
 
スピード 高 低 大 小 トーン 語 調
リズム 抑 揚 英 語(カタカナ言葉) 専門用語
形容詞 副 詞 擬態語 文の長短  
好んで使う言葉 など
   
ムード 『M Mood』
 
雰囲気(明るい/静か) エネルギー(多い/少ない)
感 情(喜び/悲しみ/怒り) テンション(高い/低い)
考え方(価値観/信念/思考/趣味/好み) など

(1)ボディランゲッジ
初対面の顧客には類似点が全くありません。そこで、『ボディランゲッジのペーシング(以下Bのペーシング)』で心理的バリアーを取り去ります。顧客の姿かたちを真似ることで『私たちは同類だ』と顧客へ伝えることができます。
Bのペーシングは、顧客の潜在意識へダイレクトに入力されます。姿かたちをペーシングされると、顧客の潜在意識は、自分と営業マンとの差異を探すことができません。自分と同じ姿かたちの人=信頼できる人となり、顧客のバリアーは取り去れます。
目から入る情報は80%と言われますので、強力なテクニックとなります。逆にペーシングが出来ていないと、営業マンは顧客の目にはどのように映るのでしょうか。

【服装・身なり】
年配の顧客が多い営業マンが、茶髪に長髪、ソフトスーツでは顧客は違和感を持ちます
最新のファッションを提案する営業マンが。どぶねずみ色のスーツでは、野暮ったい営業マンと思われます

姿 勢
椅子にきちんと腰掛けている顧客が、ラフに座っている営業マンを見ると、だらしなく見えます
ラフに座っている顧客が、きちんと腰掛けている営業マンを見ると、「妙に緊張した営業マンだなぁ。この人といると肩がこる」と言われてしまいます

動 作
動作の速い顧客が、動作の遅い営業マンを見ると鈍そうな営業マンに見えます
動作の遅い顧客が、動作の速い営業マンを見ると、落ち着きのない営業マンに見えます

このように、人間は常に自分は正しいと思っているため、自分と異なる他者を否定する傾向があります。そこで、顧客のバリアーを取り去るためにペーシングを使うのです。それではどのようにペーシングを図っていくかを見ていきます。

動作の速い顧客
  動作のスピードを顧客に合わせる
動作の遅い顧客
  動作のスピードを顧客に合わせる
身振り手振りの多い顧客
  身振り手振りを顧客に合わせる
表情が豊かな顧客
  喜怒哀楽を顔に出し、顧客に合わせる
テーブルの上に手を組んで座っている顧客
  テーブルの上に手を置く、組む
胸を張っている顧客
  背筋を伸ばし顧客に合わせる
足を組んで座っている顧客
  足首を交差させる程度で顧客に合わせる
腕組みをしている顧客
  片方の手でもう片方の腕をつかむ程度で顧客に合わせる
背中が丸く前かがみの顧客
  肩をやや落とし、顧客に合わせる

ペーシングは微妙な調整が必要です。100%顧客に合わせると、不自然になり、顧客に気付かれてしまいます。60〜70%程度に止めておきましょう。

(2)言葉・話し方
言葉・話し方のペーシングは、顧客の声や好んで使う言葉、業界用語、カタカナ語などに合わせることです。"言葉は魂"と言うように、言葉は顧客そのものなのです。言葉・話し方にペーシングすることで、顧客との一体感をさらに高め、信頼関係を築くことができます。
逆に言葉・話し方のペーシングができていないと、顧客からはどのような評価を受けるのでしょうか。

早口な顧客は、ゆっくり話す営業マンを鈍そうな人と評価します。仕事も話すペースと同じで遅いのだろうなと考えます
ゆっくり話す顧客は、早口の営業マンを見ると、何も考えずに押し捲るだけの人と評価します
大きな声の顧客は、小さな声の営業マンを自信のない人と評価します
小さな声の顧客は、大きな声の営業マンを見ると威圧感を感じると評価します
低い声の顧客は、高い声の営業マンをかん高く落ち着かないと評価します
高い声の顧客は、声の低い営業マンを暗い人と評価します
英語、カタカナ語を話すことの少ない顧客は、カタカナ語が多く出る営業マンをキザな人と評価します

それでは、言葉・話し方のペーシングはどのように行なっていくのかを以下に紹介します。

早口な顧客
  ペースを上げて話す
声の小さな顧客
  声のボリュームを押さえて話す
声の高い顧客
  半オクターブ上げ、顧客に合わせる
英語・カタカナ語の多い顧客
  英語・カタカナ語、顧客に合わせる
何回も同じ言葉を使う顧客
  会話の中にその言葉を使って顧客に合わせる
業界用語・専門用語の多い顧客
  業界用語・専門用語を使い、顧客に合わせる
大きな声で笑う顧客
  声を出して笑い、顧客に合わせる

(3)ムード
ムードは、非常に多くの要素が含まれています。その時々の感情や人間の信念、価値観までをカバーしています。ムードにペーシングできれば、高い信頼を勝ち取ることができます。
それでは、ムードのペーシングはどのようにすれば良いのでしょうか。ムードは目には見えません。したがって、話の内容や表情からその内面の気分や考え方を知り、そこにペーシングすることになります。ボディランゲッジや言葉・話し方を活用することによって、うまくムードにペーシングするのです。
人間は誰でもその時々の気分や感情がありそれに左右されて生きています。したがって、顧客の気分や感情をすばやく察知し、それにペーシングすることで違和感をなくし、心理的距離を縮めることができます。

次に価値観のペーシングについて見ていきます。たとえば、「高くても品質の良いものがいい」という営業マンと「安ければ品質にはこだわらない」という顧客がいます。どちらが正解でしょうか?
正解は顧客です。顧客を論破し議論に勝ったとしても、「買わない」と言われてしまえばそれまでです。このような場合は、まず顧客の考えをいったん受け入れて、なぜそのように考えているかを聞き出すことが重要です。すると、顧客は自分の意見を受け入れた営業マンに信頼を寄せ、営業マンの主張に耳を傾け始めます。
ポイントは、順序を間違ってはいけないということです。まずペーシングし、それから自分の主張を述べます。これで、営業マンの話を受け入れてくれる確率が格段に高まります。