税理士、嶋会計事務所所長、株式会社ノースアイランド代表取締役、ＣＦＰ®認定者、ＮＰＯ法人日本ＦＰ協会理事、同志社大学講師など、多くの肩書きを持つ嶋敬介先生。嶋先生は、税理士として、そしてＦＰ業界の牽引役として、現在、大阪と東京に拠点を置き、日本全国を飛び回っている。普段は見た目通りの落ち着いた雰囲気を醸し出すダンディな紳士の嶋先生だが、大阪出身で数々のセミナー講師やマスコミの取材などをこなしてきただけあって、一旦話し出すと、一気に嶋ワールドに引き込まれてしまう、非常に魅力的な方だ。 不景気な時代にも多忙を極める嶋先生に、これからの事務所経営のヒントにつながる貴重なお話を、色々とお聞きした。 嶋先生が税理士をめざしたきっかけは、会計事務所を経営されていたご尊父の影響が大きいようだ。 大学卒業後、嶋先生はコンピュータ関連の企業に就職しプログラム開発などに従事していた。しかし、サラリーマンは自分に向いていないと感じ、税理士としてのご尊父の姿を長年見続けてきた嶋先生は、一念発起し、税理士を目指すことに決めた。嶋先生が24歳の年のことだ。がんばってみて30歳までに受からなかったら諦めようと決意し、税理士試験に望むようになった。 そして嶋先生が29歳の時、見事、税理士試験に全科目合格したのだ。長年目指してきた税理士試験合格という大きな夢を達成してしまい、ふと、これからどうしようかと考えたのだそうだ。 「昔の税理士業務というと、もう終わってしまった数字をただ計算して申告するだけという、どちらかというと後ろ向きなイメージが私の中にはありました。そのような業務を行っていくことに若干の疑問を感じていましたので……」 熱く高い志を抱いていた嶋先生は、晴れて税理士となり税理士の業務に、これだけで良いのだろうかという疑問を抱いていたのだ。そんな時、新聞の小さな記事が嶋先生の目に留まった。紙面には「ファイナンシャルプランナーが日本に導入される」と書かれており、それを見た嶋先生は、「ファイナンシャルプランナー(以後ＦＰ)って何だ？」と思い、すぐに新聞社に掲載されていた連絡先に問い合わせたのだ。すると、記事の掲載元であったダイヤモンド社の担当者は「ぜひご紹介させてください」と言ってきた。ＦＰがいったい何なのか気になっていた嶋先生はすぐにでも話が聞きたかったので、東京まで説明を聞きに行こうとしていたら、「いえいえ、私が説明に伺います」と、ダイヤモンド社の担当者がわざわざ大阪まで説明にやってきてくれたのだそうだ。 説明にやってきたのはダイヤモンド社の取締役の方で、その方が中心となって、アメリカからＦＰというものを日本に導入しようとしているとのことだった。担当者はＦＰについて色々と説明してくれたのだが、嶋先生は、正直、良く分からなかったそうだ。するとダイヤモンド社の取締役の方から「アメリカへ視察に行くので一緒に行きませんか」と誘われ、嶋先生は迷わずとアメリカ視察を即決したそうだ。 アメリカ視察には嶋先生の他、何人かのメンバーがおり一緒にＦＰの視察を行った。視察によってＦＰとはどういうものかが分かった嶋先生は、その魅力を見出し「これや！」と思ったそうだ。 税理士になるという大きな目標を達成し、将来に対して色々考えていた時期に、たった数行の小さな新聞記事に目を留めたことによって、嶋先生の人生を大きく変えるＦＰと出会うことになった。 今から24年前、嶋先生が29歳の時にＦＰは日本に導入され、ダイヤモンド社と一緒にアメリカ視察に行ったメンバーで、日本への普及活動が始まったのだ。「当時、これは日本でブレイクするぞと確信していましたが、全然しませんでした」と、笑いながら語ってくれた嶋先生。ＦＰが日本に導入されてから10年ぐらい経った頃に、その当時の仲間と再会したら、「まだやってるの？」と言われたそうだ。 しかし、それから7〜8年すると日本の経済環境はガラっと変わり、急に日本の経済が衰退してきてからはＦＰが必要だと言われだした。嶋先生は、「やっと注目される時が来たのかな」と思ったそうだ。当時の仲間の「まだやってるの？」という言葉が物語るように、当時日本には存在しなかったＦＰを普及させていくこと、ましてやＦＰ業務で生計を立てていくことは非常に困難な道のりだった。 ＦＰが世に注目されるまでの間、嶋先生は税理士業務と並行して、さまざまなことに取り組んできた。嶋先生は、当時、日本オリベッティーより発売されていた経営計画システムをいち早く導入し、経営計画を策定していた。しかし、ただ数字だけをいじっているだけで何の裏づけもない、実現出来るかどうかわからないシミュレーションだと、多くの経営者が受け止め成就しそうもないと感じたそうだ。 そのような状況に疑問を感じていた時期に、日本ＬＣＡというコンサル会社が会計事務所を組織化し、中小企業のコンサルに乗り出した。会計事務所が中小企業を助けないでどうするんだという思が一致し、コンサル会社を立上げ、嶋先生はコンサルタントに傾注していったのだ。立ち上げたコンサル会社は、多いときは職員が12〜13人までの規模になるほど成長を遂げていた。しかし、コンサル会社もしばらく続けてはみたが何か違うと感じ、職員に暖簾分けという形で株式を譲り渡した。 当時の最先端を行く経営計画システムの導入や、コンサルタント業務など、さまざまな取り組みを行ってきたが、嶋先生を熱くさせるものには巡りあえなかった。しかし、ＦＰへの取り組みだけは違ったのだ。ＦＰはなかなか世間に浸透せず、顧客が増えない状況にあっても、ＦＰの素晴らしさ、必要性を信じていた嶋先生の情熱は衰えることはなかった。 その当時のＦＰとしての嶋先生の取組みは、ＦＰの実務者としてではなく、先駆者としてＦＰを日本に広めていく指導者の立場だった。世の中には、まだＦＰとはいったい何なのか良く分かっていない状況だが、これからやった方がいいという機運にはあった。会計などを中心にＦＰに対する興味と、資格を取ってみたいという要望が高まっていた。その流れを受け、教育ビジネスが始まった。土日に集中して、東京と大阪でセミナーが開催されるようになったが、当時はＦＰの講師を務められる人は、嶋先生をはじめとする先駆者の先生方数名しかいなかった。そのため、多くの講師依頼を受けるようになり、知名度も上がっていった。 ■ノースアイランド(代表取締役 嶋 敬介)の歩み
 ノースアイランドは現在、東京の中心地・丸の内に豪華な事務所を構え、東京に9名、大阪に7名のスタッフを抱えている。関西出身の嶋先生は、若い頃、多くの関西出身者が抱く思いと同様に、東京に対してある種コンプレックス(対抗心？)を抱いていたそうだ。しかし、ビジネスを行っていくうえで、東京の方が断然マーケットが大きいということと、企業は東京意思決定社会で何かあったら打合せは東京で行われていたこともあり、東京への進出は必然なのかと嶋先生は感じていた。 同事務所は本格的な東京進出として、浜松町駅近くに東京支店を設立した。浜松町の約15坪の事務所からのスタートだった。 その後、社名を現在のノースアイランドに変更するのだが、ノースアイランドの名前の由来は、嶋先生の盟友、北山氏との業務提携を始めたことによる。北山氏とは、株式会社キャピタル・アセット・プランニングの代表取締役である北山雅一氏のことで、税理士・公認会計士でもあり、一緒にアメリカへＦＰ視察に行った仲間なのだ。 北山氏は当時からパソコン関係に対して非常に興味を抱いており、マルチプランという表計算ソフトが日本に初めて入って来たときに真っ先に購入したり、日本にまだ入ってきていなかったロータス1−2−3を購入してきて、日本向けにプログラミングしなおしたりするような方だった。 そして、ソニー生命が日本で始めてライフプランソフトを導入した際、そのソフト開発にも携わったのが北山氏だった。北山氏は日本で始めてライフプランソフトを開発した方であり、今や北山氏の会社は、生損保15社、証券会社全て、銀行7社にシステムを納入するまでに成長したのだ。 浜松町に東京支社を構えたばかりの頃、北山氏はよく嶋先生の元に訪れてきていた。北山氏がいつ訪ねて来ても、嶋先生の元にはいつも大勢のお客様が相談に来ていたのを見て、北山氏は「是非うちのソフトを使てくれ」と言ってきたのだそうだ。北山氏の会社ではＦＰソフトを制作し、多くの金融機関に納入していたが、作っているのは技術者でＦＰの専門家ではなかった。だから自分たちが製作しているソフトはどうなのか、実際に使っている現場の声を聞きたかったのだ。そのような経緯から、嶋先生と北山氏は業務提携を行うようになり、ノースアイランドが誕生したのだ。それと同時に、ノースアイランドへの相談者も増えてきたため相談ルームが不足するようになってきたので、事務所の移転を行うことになった。 移転を機に、社名をエフピーアイランドからノースアイランドに変更し、現在に至っている。  嶋先生が移転先に選んだのは、現在ノースアイランド東京本社が事務所を構える丸の内のビルだった。東京駅からも有楽町駅からも徒歩で行ける好立地にあり、事務所内は落ち着いた雰囲気だが、相談に来たお客さんが緊張せずに入って来れるような工夫が随所に施されていた。同時に複数のお客様の相談にのれるように設置された相談ルームや、一般やＦＰ向けに頻繁に行われるセミナーに使われるセミナールーム。セミナールームからは皇居が見渡せるという、素晴らしい事務所なのだ。ノースアイランドの事務所からは、嶋先生のこだわりが感じられる。嶋先生が事務所にこだわるのには、理由があるのだ。 以前、遠くからわざわざ嶋先生のもとに相談に来られたお客様がいたので、「地元にもＦＰはいるでしょう」と尋ねたことがあるのだそうだ。するとそのお客さんは、地元にもＦＰの広告を出していた人がいたので予約して行ってみたそうだ。約束の日に事務所に行ってみると、そこはオフィスではなく、普通のマンションの一室だったそうだ。それを見て、そのお客さんはＦＰの事務所に入るのを躊躇してしまい、そのまま帰ってしまったのだ。 
その当時、店舗を構えてお客様に相談に来てもらう対面型でやっているＦＰは、ほとんどなかったそうだ。事務所を構えるだけの収益を上げているＦＰはほとんどいなかったからだろうと、嶋先生は考える。その時のお客様の言葉から、しっかりと店舗を構えることにより、お客様に安心感と信頼を与えるのだと嶋先生は気付づかされたのだ。ＦＰはお客様からの信頼を得て初めて成立する仕事。お客様からの信頼性を得るためには、しっかりとした事務所を構えなければいけないと痛感し、現在のような立派な事務所を構えるに至ったのだ。 |