単年度の事業計画はしっかりと立てている施設は多いのですが、その一方で、単年度計画の元となるべき「中・長期計画」を立てていない施設が案外多いのが実情です。社会福祉法人は本来、理念を持っており、その理念の実現に向けて中・長期的に活動を継続していくことが求められています。単年度の計画に対し、単年度の決算状況を振り返るだけでは、中・長期的な視点で経営状況を判断していくことができません。 単年度ごとの経営状況を正しく判断するためにも、中・長期計画の立案は社会福祉法人にとって必要不可欠な取り組みであると考えられます。

（１）社会福祉法人の抱える課題
��将来資金への不安
自介護保険制度、支援費制度の導入や、補助金の減少により、収益状況は明らかに悪化してきています。さらに、設備資金借入金等、修繕、建替資金を調達することが難しくなってきています。
社会福祉法人は、事業を存続させなければならない社会的責任があります。そのため、将来費用を見越した経営を行う必要がでてきました。

��法改正への対応
24年度介護保険法改正により「24時間対応型定期巡回・随時対応型サービス」、「複合型サービス」等の新サービスが創設されました。また、経管栄養やたん吸引等、医療的ケアの実施が、介護職にも一部、規制緩和されるなど、法改正により介護施設を取り巻く環境はめまぐるしく変化していきます。
また、障害分野においては、障害者自立支援法で再編された新サービス体系へほとんどの施設が移行しました。しかし、自立支援法に対する違憲判決等を踏まえ、障害者自立支援法が障害者総合支援法に代わり、その先も制度の落ち着く先が見えない状況です。
保育所についても、子ども・子育て新システムの実現にあたり、幼保一体化や直接契約制など、施設経営の根幹を揺るがしかねない法改正が控えています。
このような法改正を受け、それぞれの事業所において、好むと好まざるにかかわらず、事業再編の必要性が増してくることが予想されます。そこで、改めて自法人の位置付けと進むべき事業の方向性を決める必要がでてきたという訳です。

��浸透しないあいまいな理念
社会福祉法人等の非営利組織にとって、理念は、営利組織の利潤にあたる部分である。利潤を追求するのが、株式会社であれば、社会福祉法人は、理念を追求するものと言えます。
定款の事業目的の欄は、モデル定款のコピーを使っている法人が多い状況であり、理念も設立当初のものを何十年も掲げています。社会福祉の歴史上、ここにきて、行政の業務請負から自立した組織の変革が求められている中で、理念というものの重要性が増してきました。

��求められている自立経営
今まで行政が舵取りを担当していたため羅針盤を持たずに航海へでても問題がありませんでした。しかし、行政の関与は年々薄くなり、航海の範囲（枠組み）を示すのみとなってきました。そうなると法人自らが方向をさだめ航海にでるために、羅針盤を持つ必要性がでてきました。

��職員の意識改革
経営改革を効果的に進めていくことができるかどうかは、職員の変革意識が大きくかかわってきます。そのため、改革の方向性と成果を具現化するための計画が必要になってきた訳です。

（２）中期経営計画の体系
��福祉施設における中期経営計画とは
社会福祉法人・施設においては、永続と安定した経営が求められています。中期経営計画とは、その永続性や安定を確保するための計画を策定することにあります。
具体的には、3年ないし5年の中期的な視点で、施設のありたい姿を明確に描いて、それを実現するための各施策を打ち立てていく、それが施設経営の中期経営計画となります。


中期経営計画

��なぜ中期経営計画が必要なのか
多くの施設で毎年の経営計画は策定されていますが、1年ごとの経営計画では実現できることは限られています。また、経営環境変化の激しい時代においては、行き当たりばったりの成り行き経営に陥る可能性があります。
これからの時代に求められるのは「全天候型＝環境適合型の経営」です。すなわち、好況・不況にかかわらず、それぞれにとるべき経営戦略（施策）を実行することが求められます。
景気が良いときは先行きが読みやすいため中期経営計画も立てやすく、実行もしやすかったのです。しかし、不況になると先行きは不透明であり、なかなか読みにくくなっていきます。しかし、読みにくいからこそ先を読まなければならないのです。
そのためには、中期経営計画を立て、3〜5年後にはどういう施設にしたいのか、利用者、業界の動向等を読み取りながら3〜5年後の到達目標を掲げ、それに向けてきっちりと年度計画を消化していくことです。
まず、到達目標があり、そこから逆算して今期中はここまでやり切る、という経営に転換することが重要なのです。従来の積み上げ方式から発想する経営計画ではなく、「ありたい姿」を前提にした経営計画にするために、ときには前年実績をはるかに上回る年度目標になることもあります。
そこで必要なのは、「できる」「できない」ということではなく、どうすれば実現するのかという思考回路に切り替えることなのです。

10年後

短期計画では、目先の事象への対応になり、環境変化を読み取れなくなります。また、新規事業、設備投資等は複数年にわたるため、中長期で準備と実施を進める必要性があります。さらに短期計画は、現状延長になりがちですが、中期計画ではあるべき姿を設定し、そこから現在へ引き直すため、経営改革につなげることができます。
中期経営計画を毎年見直しする、しないについてはそれぞれ一長一短がありますが、いずれにせよ「絵に描いた餅」にならないようにしなければならなりません。

● ローリングプラン（毎年見直しする）
（長所） 環境変化を適宜織り込むことが出来る
（短所）2年目以降の中期計画が楽観的になりやすい
● フィックスプラン（計画を固定する）
（長所）立てた目標に対する執着心が強くなる
（短所）外部環境変化などによる目標の形骸化、現実との乖離が大きくなる

（３）中期経営計画で実現すべき本来の経営
本来の経営のあり方は、下図のような5つのサイクルをバランスよく回していく姿にあります。そのため推進ツールとして中期経営計画があると考えるべきです。

1） 5サイクル経営の実現
法人理念・ビジョン→経営戦略（施策）→経営計画→実行→経営管理
2） 3〜5年先の未来を読み目標を設定し、今何をすべきかを検討する
3） 法人・施設の存立をおびやかす環境変化への対応策の検討・立案（戦略・施策形成）
4） コスト（特に人件費）の上昇に対する対応策の検討・立案
5） トップと職員が理想とする法人ビジョンの実現


経営戦略


（１）経営理念見直しの必要性
自法人の現状を分析していく中で、法人活動の最高規範である経営理念を見直す必要性が出てくる場合があります。
どの組織にも設立の精神があり、経営理念は形を変えながらも存在するはずです。ただ、古い言葉で書かれていたり、内容が時代にそぐわなくなってきているものもあります。
そのため、自法人・施設の経営理念を見直す必要がないかどうか確認することは重要です。特に、昨今は経営環境が大きく変わってきており、経営理念の形骸化を防ぐためにも、時代にあったものであるかを再度確認し、必要に応じて見直しを図ることは重要といえます。
その場合は、自法人の経営理念を分析し、新しい経営理念を創造する。これは経営者のみが行うことのできるものです。

（２）経営理念の具体化
経営理念は具体化され、職員1人1人の行動基準に反映されなければなりません。そこで経営理念の見直しは行わない場合でも、行動基準は設定する必要があります。 これは幹部や管理者が行います。内容についてはできるかぎり、誰にでも分かりやすいものを作成します。 以上のように経営理念を見直し、または行動基準を見直した結果、それを「経営理念」にまとめます。
● 経営理念
法人経営を行う上での活動のよりどころとなる考え方。組織の存在意義を普遍的な形で表したもので、組織にとっての基本的価値観といえるもの。（価値観をバリューに切り分けるケースもあります）
● ミッション
直訳すると「使命」という意味になり得ます。個々人はもちろん、組織にもその生まれてきたことの意味があります。法人が何のために存在し、何を行っていくべきなのか、その使命すなわち存在価値を表します。（理念と統合されるケースもあります）
● ビジョン
将来への展望を意味し、その法人の目指す将来の具体的な姿を示します。（将来とは3年〜5年後）

■ミッション作成のメリット
● 部に対し、自法人の大目標を示す。明確なミッションを定めることで組織の目標を定義する。
● 目標を明確化し、目的の共有化がなされる。
● 組織内外の関係者に対し、プラスの効果がある。

■ビジョン作成のメリット
● 現実的で、信頼性が高く、魅力的な組織の将来像を示すことができる。
● 職員に、よい戦略（計画）を立案し、それを達成する意欲を与えることができる。

経営理念・経営方針やミッション・ビジョンは経営戦略立案や事業計画策定のよりどころとなるものです。また、外部の関係者も目にするものであるため、以下の点に留意し策定することが望まれます。

● 法人の思いを明確に表現するもの
● シンプルでわかりやすいもの
● 今後進むべき方向を明示するもの

また、ミッション策定に当たっては利用者の視点を考慮し作成することが必要となります。

（１）中期経営計画の体系
経営計画は、下記の2つの基準で体系化することができます。

経営戦略


（２）中期経営計画の構成（例）
1. 表　紙
2. 目　次
3. 経営計画基本方針
（１） はじめに〜外部経営環境、経営改善に取り組む決意、支援・協力依頼
　　　　　　　 ※反省も含む
（２） 経営の現状と課題〜自施設の財務内容・収支状況、経営管理状況、経営悪化、
　　　　　　　　　　　　　 当施設の経営課題
（３） 経営方針〜経営理念、ビジョン等
経営課題解決のための基本方針、基本方針実現のための運営方針
（４） 経営目標〜経営課題を解決するための具体的数値目標
4. 中期経営計画
（１） 中期収支計画（前2〜3期実績、今後3期間の予算）
（２） 中期計画貸借対照表（前2〜3期実績、今後3期間の予想）
（３） 借入金返済計画表（前2〜3期実績、今後3期間の計画）
（４） 部門計画〜経営改善のための個別計画
組織・人員計画、業績管理システム構築、人事制度再構築計画、固定資産処分計画等
5. ○○期経営計画〜短期経営計画
（１） ○○期経営方針、○○期経営目標
（２） ○○期収支計画
（３） ○○期収支計画の月別展開予算表
（４） ○○期予想B/S
（５） ○○期資金計画〜資金計画、借入金調達・返済計画
（６） ○○期行動計画〜中長期の行動計画で○○期に実施するもの
�ー�益性改善計画〜固定費削減（人件費、事務費・一般管理費等）
�⊆�入計画
※その他必要なものがあれば、追加する。


（３）中期経営計画策定の流れ
矢印   1） 自法人・施設の変遷の分析
⇒自法人・施設の歴史と特質
   
2） SWOT分析
⇒外部環境分析・内部環境分析
   
3） 経営理念の見直し
⇒法人理念に追加・削除するものはないか
   
4） 経営ビジョン・中期経営目標の設定
⇒3年後の「ありたい姿」「目指すべき目標」を描く
   
5） 現状と目標のギャップの認識・測定
6） 経営戦略（施策）の策定
⇒ビジョン実現のため「何をするか」
7） 定量目標の設定
⇒中期収支計画等
8） 資金計画の策定
9） 部門計画の策定
10） 個別計画の策定
11） 年度計画の策定
⇒活動計画（計画を活動レベルに落とし込む）


（１）自法人・施設の歴史を振り返る
中期経営計画策定の第一歩は、自法人・施設の創業から現在までの歴史を分析することから入ることです。どの法人・施設にも創業の精神というものがあり、園是や園訓という形で表現されていることが多いと思われますが、これが現在までどのような紆余曲折を経て受け継がれてきたのか、今後はどう受け継いでいけばいいのかを再認識した上で経営計画策定に入ることは、大変有意義です。

（２）環境分析で方向性を再確認する
経営計画を策定するためには、経営環境分析を行い、自法人の置かれている位置を正確に把握する必要があります。
経営環境分析の代表的な手法が「SWOT分析」です。SWOT分析では経営環境を外部環境と内部環境に区分し、縦軸に外部環境と内部環境（経営資源）をとり、横軸に好影響と悪影響をとり、マトリックスを作ることで自法人の環境を客観的に分析します。

��ＳＷＯＴ分析の観点
分析結果を整理するための代表的なフレームワークにSWOT分析があります。
SWOT分析とは、外部環境分析から事業の機会（Opportunity）、脅威（Threat）を、内部環境分析から自法人・施設の強み（Strength）、弱み（Weakness）を整理し、それぞれのファクターの組合せで自法人・施設の採るべき戦略や施策の検討材料を明らかにするための手法です。

イ） 機会
外部環境における事業機会は何か、自施設との関連性は強いか、という観点で外部環境分析の結果を整理します。
機会の例として、公立施設の民間委譲の動き、市区町村によるサービス基盤整備などが上げられます。
  ロ） 脅威
外部環境における事業上のリスク（不確実性）は何か、自法人・施設との関連性は強いか、という観点で外部環境分析の結果を整理します。
脅威の例として、障害者自立支援法施行、地域を越えた他法人の事業展開などが上げられます。
  ハ） 強み
自法人・施設にとっての強み、すなわち他法人・施設に比較して勝っている部分は何か、という観点で内部環境分析の結果を整理します。
強みの例として、豊富な人材、地域や自治体との良好な関係、保護者からの信頼などが上げられます。
  ニ） 弱み
自法人・施設にとっての弱み、すなわち他法人・施設に比較して劣っている部分は何か、という観点で内部環境分析の結果を整理します。
弱みの例として、離職率の高さ、リスク管理体制の弱さ、高コスト体質などが上げられます。

 
機会（Opportunity）
脅威（Threat）
外部環境
分析
外部環境における事業機会は何か？
自法人・施設との関連性は強いか？
・公立施設民間委譲の動き
・市区町村によるサービス基盤
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　など
外部環境における事業リスクは何か？
自法人・施設との関連性は強いか？
・障害者自立支援法施行
・地域を越えた他法人の事業展開
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　など
 
強み（Strength）
弱み（Weakness）
内部環境
分析
自施設にとっての強みは何か？　他施設に比較して勝っている部分は何か？
・豊富な人材　・保護者からの信頼
・地域や自治体との良好な関係
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　など

自施設にとっての弱みは何か？　他施設に比較して劣っている部分は何か？
・離職率の高さ　・高コスト体質
・リスク管理体制の弱さ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　など

自施設の強み・弱みを再認識し、強みを伸ばすためにも環境分析は重要です。分析の種類は以下の通りです。

��外部環境を分析する
外部環境分析は福祉業界にとってはなじみが薄いかもしれませんが、地域を限定すればその重要な変化を捉えることができます。
また、重要なことはその変化が二度と元に戻ることのない構造的変化なのか、サイクル性のある循環的変化なのかを判断し、自法人・施設が活用すべき変化（機会）と克服すべき変化（脅威）に分けて考えることです。
さらに、外部環境をマクロ環境とミクロ環境とに分解し検討します。現在の事業分野に対する影響を分析し、経営課題を決定するのであればミクロ環境分析のみでよいですが、中長期にわたり現在の事業分野だけでなく、事業構造を変革するための経営戦略（施策）を策定するのであればマクロ環境分析も必要となります。

■外部環境分析
マクロ環境分析 政治的要因 法規制、規制緩和など
経済的要因 景気動向など
社会的要因 労働力や出生率、年齢分布の変化など
文化的要因 生活慣習の変化、価値観の多様化など
ミクロ環境分析 市場環境分析 市場の規模、成長性・収益性など
競合分析 シェア、競合の動向など

イ） マクロ環境分析
マクロ環境分析では、政治、経済、社会、技術といった分野について事業や市場に影響を与える情報やデータを分析します。
ただし、業種、規模等からみて影響度が弱い分野については簡単な分析としてもかまわないし、場合によっては省略してもかまいません。

A）政治的環境要因
政治的環境要因を調査する際は、法規制や税制の見直し等を調査します。事業に関連した規制緩和がどのようなスケジュールで進行しているか、規制緩和後にはどのようなビジネスモデルが可能か等の視点で分析します。
とりわけ社会福祉法人は、政治の動向に大きく影響をうけるため、状況の把握は重要になってきます。

B）経済的環境要因
経済的環境要因を調査する際は、景気動向、デフレまたはインフレの進行、為替、金利といった情報やデータが対象となります。
社会福祉事業収入のもとである社会保障財源は、景気の影響を大きくうけます。

C）社会的環境要因
社会的環境には2つの要素があります。
第一の社会的環境は人口統計学的環境です。この変化は特定の種類のサービスに対する需要に影響を与えることは当然ですが、経済全体を長期的に考察する指標でもあります。
第二は利用者のニーズです。明らかに利用者のニーズに変化が起こる際、それを事前に予知している組織は対処する準備ができているといえます。逆に潜在的なニーズを組織が新サービスによって顕在化させる場合もあります。社会的環境要因を調査する際は、人口動態、世論調査等を調査します。
労働集約的な産業である社会福祉事業にとって、労働力の確保は常に課題として挙げられます。また、出生率や、高齢化率は、社会福祉事業の市場動向を左右する大きな要因となるため、詳細な把握が必要です。

D）文化的要因
文化的要因は一見無関係に見えるが、生活全般を扱うことの多い社会福祉事業にとって、市場ニーズの変化を捉えるためにも重要になることがある。
また、その他のマクロ環境要因として、技術的要因などもあります。

●政治的要因
　・法令、条例の制定、改廃
　・為替相場の変動
　・諸外国の動向
　・政界の動向 		●経済的要因
　・経済成長率、国際収支
　・消費動向、失業率
　・物価水準、在庫水準
　・金融動向、設備投資動向
　・地価動向、物価指数
●社会的要因
　・人口動態の変化
　・労働力の変化
　・出生率の変化
　・人口の高齢化 		●文化的要因
　・生活慣習の変化
　・価値観の多様化
　・教育水準の高さ
　・消費スタイルの変化
　・男女差の変化

  ロ） ミクロ環境分析
A）市場環境分析
業界の成長率、業界の供給能力、代替サービス、ニーズの変化について分析することを言います。
市場環境分析では、下記のような視点で、自法人・施設が属する業界や、自施設サービスの市場規模および今後の見通し等を調査、分析します。

● 現在の市場規模と潜在的な市場規模
● 市場の成長性・収益性
● コスト構造　等

B）競合分析
競合分析では、他法人との差別化の可能性を探るために、他法人のサービスや、戦略展開を把握します。ほとんどの社会福祉法人は、競争という認識が弱く、近隣法人を競合と捉えていません。競合イコール民間企業という位置づけが多いが、差別化という視点から考えれば、近隣法人の動向も加味した把握が必要になります。
競合分析では、競合他施設との差別化の可能性を探るために、「市場シェア」「収益性」「動向」を調査、分析します。

■市場シェア
業界全体の事業活動収入の推移、自施設の事業活動収入推移、競合他施設（数施設）の事業活動収入推移等を視覚的に表現し、大きな視点で見て、このまま行くとどうなりそうなのか、自施設の競争上の地位は客観的に見るとどうなのか等を検討することが重要です。

■収益性
業界全体の平均収支差額率の推移、自施設の収支差額率の推移、競合他施設（数施設）の収支差額率の推移等を視覚的に表現し、市場シェアを見る時と同様に、大きな視点でみて、このまま行くとどうなりそうなのか、自施設の競争上の地位は客観的にみるとどうなのか等を検討します。
次に、収支差額率の差の要因を変動費比率、固定費比率、労働分配率等の指標から探り、収益性の改善に取り組みます。

■競合他施設の動向
競合他施設の動向に職員が常に意識する風土と情報等を共有化できるしくみを持つことが大切です。
他施設の動向として、以下のような点に注目します。
●経営戦略（施策）の方向
●設備等に対する投資計画
●プロモーションの新しい展開　等

C）地域的要因
社会福祉法人の経営環境において、地域性によって大きな差がある場合が多いです。特に地方自治体の方向性や、周辺環境で特徴的なポイントを捉えることができなければ、事業の方向性を大きく誤る可能性があります。 顧客（利用者・地域）に関しては、下記のような視点で、自法人・施設を取り巻く地域福祉の動向や、地域の福祉ニーズ等を調査、分析します。

��内部環境を分析する
外部環境とともに、自法人・施設の持つ経営資源についての分析を行います。組織マネジメント、財務、サービスプロセス、利用者等に関し、ヒト、モノ、カネ、情報及び管理システムの点から分析します。
同時に経営分析を行って、自法人・施設が目標とすべき優良施設や業界平均の経営指標との比較を行い、財務的観点から自法人・施設の強みと弱みを把握します。

■内部環境分析
内部組織分析 組織マネジメント、人事マネジメントなど
財務分析 過去期間の決算書を基に、収益性・生産性等の各項目を分析するための比率、指標の推移表を作成、他法人・施設標準値（ベンチマーク）を入れることにより、財務における経営課題を抽出。
事業内容分析 法人・施設事業、利用者確保力、サービスケア・技術など

イ） 内部組織分析
● 組織マネジメント分析のポイント
・管理層の指導力は備わっているか
・職務権限と責任は明確になっているか
・内部監査による法人・施設内牽制体制ができているか
・経営目標達成につながる個人目標が設定されているか　等
● 人事マネジメント分析のポイント
・人材配置は適切か
・人材育成に力を注いでいるか
・人事考課は業績を反映させているか　等
● 財務マネジメントシステム分析のポイント
・収支差額計画に基づく資金計画を立てているか
・月次決算制度により、業績管理を行っているか　等

  ロ） 財務分析
過去3期間の決算書を基に、収益性・生産性等の各項目を分析するための比率、指標の推移表を作成します。この際、他法人・施設標準値（ベンチマーク）を入れることにより、この表から自法人・施設の財務における経営課題を抽出します。

  ハ） 事業内容分析
● 法人・施設事業分析のポイント
・自法人・施設事業は何か（主力部門、不採算部門、成長部門）
・他施設と比較し競争力があるか
・不採算部門が全体業績を圧迫していないか（縮小・撤退の必要性の検討）等
● 利用者確保力分析のポイント
・競合施設を攻略する強みがあるか
・他事業との連携体制はとれているか　等
● サービスケア・技術分析のポイント
・質の高いサービスを提供しているか
・優れた専門スタッフを抱えているか
・ＩＴ化を進めているか　等

    外部環境分析から抽出した「機会」「脅威」、内部環境分析から抽出した自施設の「強み」「弱み」を下図のようなマトリクスで整理し、基本戦略（施策）を立てます。

 
機会（Opportunity）
脅威（Threat）
強み
（Strength）
機会と強みを生み出す戦略は何か？
強みを保存したまま、脅威を回避する戦略は何か？
弱み
（Weakness）
弱みを解消して、機械を活かす戦略は何か？
弱みを最小化し、脅威を回避する戦略は何か？

��外部環境分析・内部環境分析に職員の視点を反映させる方法
以上のような環境分析において職員の視点を反映させる方法の一つとして、「機会・脅威記入シート」「強み・弱み記入シート」を職員（いずれの階層まで含めるかは、施設の考え等により異なります）に配布し、思いつくままに法人・施設における機会・脅威・強み・弱みを上げてもらうことが上げられます。
一部の経営層のみによる環境分析では、抽出される諸要因について量・質の両面から自ずと限界があり、環境分析を行う職員の対象を拡げることで、様々な視点からの諸要因を抽出することも可能となります。特に、内部環境分析においては、経営層が認識していないような要因や、経営層とその他の職員間で認識レベルにギャップが見られる要因等を把握することも可能となり、環境分析以後の経営戦略（施策）の検討・策定等を行う上でも、有用と考えられます。

��戦略、中期経営目標の策定
経営環境分析により抽出した、強み、弱み、機会、脅威をもとに、基本的な方向性を検討します。 理念、経営ビジョンを念頭に置きながら、中期経営目標として具体的な数値目標を掲げます。また、ビジョンを達成するための経営課題をまとめ、機能別の取り組みを明確にします。

��中期経営計画
機能別に取り組むべき項目は、全体計画として、3年もしくは5年間で各年度ごとの取り組み項目へと分解されます。この時点で重要なポイントは、成果を明確にすることです。具体的成果を明確にしなければ、計画の進捗管理、及び達成度の評価を行なうことができないためです。