(1)職務役割等級制度の概要
等級制度とは、組織内で働く職員を職制(役職制度)とは別に、職員の職務範囲に対応した職務遂行能力や役割等級の基準と格付け運用を定め、職員個々の能力に応じた人材活用を通じて、働き甲斐と公正処遇を追求します。つまり、等級制度によって、職員の等級に応じた役割や能力の範囲を明確にするとともに、職員に対する期待像を明示することになります。
この等級制度が中心軸となり、人事考課制度や目標管理制度さらに処遇制度を含めた人事管理(昇格、昇進、配置)の基本設計を行っていきます。また、等級制度に基づいた人事考課制度や目標管理制度の結果が給与体系の中に評価として反映されることになります。
職務役割等級制度とは、保有能力別に等級分け(資格等級)し、その各々の等級に職員を格付けし、人事処遇を行う制度です。
具体的には、
①職種別等級別に
②必要とされる仕事の基準を策定した等級基準を設定し、処遇の要とします |
その全体像を表す能力等級フレームは以下のようになります。
(2)職務役割等級制度の運用ルール
職務役割等級制度の運用には4つの原則があります。
■政策としての人事制度に求められる条件
①昇給原則
②能力の育成と公正評価の原則
③昇進の原則
④同一資格同一処遇の原則 |
①昇給原則
職能資格等級における「昇格の原則」とは、
現在在級している資格等級の職能要件、つまり要求される知識、技能、業績、経験などを十分に満たした場合に、上位等級に上がる。 |
という原則です。
いわゆる「卒業方式」です。
つまり、現在の必要条件を十分に満たし終わった段階で昇格が行われることになります。
たとえば、
5等級の職員が、6等級に必要な知識、技能を身につけた後に6等級に昇格する。 |
のではなく、
5等級に必要とされる能力条件を満たし終わった後に6等級に昇格する。 |
させることになります。
従って、5等級に求められる必要能力条件を満たし終わらない限り、昇格は絶対にあり得ないことになります。
逆に、必要能力条件を満たし終わったのであれば、6等級の欠員の有無に関係なく昇格させなければなりません。
つまり、職務役割等級制度には定員制がなく、降格の考え方も存在しないことになります。
■昇格の基本的な流れ
昇格の基本的な流れは、上記の図のようになります。
昇格は、その等級に求められる能力を身につけたか、役割を果たしたかという人事考課結果、現在の役割・仕事内容等を踏まえて、決定することになります。
■昇格基準例
②職員に周知徹底されていること
職務役割等級制度には、資格等級別に職能目標(等級基準)を設定し、その目標達成のための能力開発、能力活用を図っていこうとするねらいがあります。
しかし、昇格した時点では、現在の等級で必要とされ、期待される能力は、ほとんど身につけてはいないはずです。
つまり、
のではなく、
6等級の能力を身につけることが、期待され、要求されるから、6等級に昇格する。 |
のです。
したがって職務役割等級制度においては、
●各等級の職能要件を明示し
●各職能要件に対し、職員各人がどの程度の期待能力を満たしているかを検証把握し、
●不十分であれば期待能力充足のための能力育成が行われ、
●十分であれば、上位等級に昇格させ、さらに高い目標に向かっての能力開発が行われる。 |
という仕組みで運用されることになります。
③昇進の原則
5等級に昇格した後、5等級相当の職能要件をある程度身につけた段階で、5等級に対応する役職位や仕事に就く。これが昇進です。
昇格と昇進の主な違いを表で示すと以下のようになります。
昇 格 |
昇 進 |
●定員無し
●卒業方式
●降格無し
●事後評価 |
●定員有り
●入学方式
●降職有り
●事前評価 |
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④同一資格同一処遇の原則
たとえば同じ5等級の職員であっても、役職に就いている職員、就いていない職員が1つの組織の中に混在することになります。
しかし、職務役割等級制度のもとでは、まったく問題とはなりません。したがって、職能給や、組織内におけるステイタスでは全く同じ処遇を実現すべきです。これが同一資格同一処遇の原則です。
これまで多くの福祉施設で運用してきた年功型人事制度から人事考課制度を活用した制度の改定・運用において、「評価が不公平になる」、「失敗ばかりを見られてしまう」など否定的な意見も見られます。
人事考課制度は、その職員個人の性格や人間性を評価するものではなく、等級フレームや課業一覧表が客観的な基準となり、職員個々の役割・責任の遂行度、能力の高まり度合いや法人・施設に対する貢献度を評価する制度であり、仕事とは関係のない人間的な側面は関係がないということを理解する必要があります。
人事考課は部下育成とコミュニケーション活性化のツール |
■人事考課の目的
①人材育成を促進できる
②管理指導職のマネジメント能力が強化できる
③上下間のコミュニケーション向上が期待できる
④公正処遇に結びつけ、モチベーションが喚起できる
⑤組織活性化が図れる |
①人材育成を促進できる
人事考課制度は職員一人ひとりを観察し、指導・育成し、評価することであり、その結果として、個々の職員の得意・不得意や特徴さらには意識が明らかになります。さらに、等級制度上での期待像等と照らし合わせ、職員一人ひとりの育成点が明確となり、職員個々に適した個別の育成が可能となります。
②管理指導職のマネジメント能力が強化できる
多くの福祉施設では、実質的に管理職という機能を有しているのは、施設長や事務長といった上級の役職者に限られており、現場での責任が明確になっていなかったり、現場のリーダーがいたとしても、本来有すべき部下管理や指導育成などマネジメント能力が発揮できる状況ではありませんでした。
そこで、等級制度で求める役割や能力、責任を基に、人事考課という機会を通じて、現場のリーダー職員のリーダーシップ能力や部下指導育成能力、部門管理能力など現場管理者としてのマネジメント能力を強化させることが可能となります。
③上下間のコミュニケーション向上が期待できる
多くの福祉施設では、ミーティングや会議等においてコミュニケーションをとる場があります。しかし、このようなミーティングや会議は連絡事項やその場その場で直面している問題点の対応検討に追われているのが実態であり、部下と上司が一対一で話し合う機会を持つことは事実上不可能だといえます。
人事考課制度では、単に評価するだけでなく、評価結果をフィードバックすることが重視されます。このフィードバックの機会を通じて、上司と部下が話し合い、お互いに育成点を話し合ったり、次に取組むべきテーマの共通認識を得る場として活用し、さらには仕事上の希望や不満を話し合うことでコミュニケーションを密にすることができます。
④公正処遇に結びつけ、モチベーションが喚起できる
多くの福祉施設で運用されていた従前の年功型人事給与制度においては、「仕事をやってもやらなくても同じ」、「仕事の取組みが給与に反映されない」といった不満の声を聞きます。しかし、この人事考課制度を導入し、評価結果を処遇に反映することで、職員の意識改革や不満の解消を図り、職員のモチベーションを喚起することが可能となります。
⑤組織活性化が図れる
人事考課を通じて、上司と部下のコミュニケーションが活性化されることにより、組織そのものが活性化してきます。
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