(1)事実をベースに行われるのが人事考課
人事考課制度の基本的な考え方
育成に主眼を置いた人事制度とは、あくまで絶対評価であるべきです。
絶対評価とは、部下の一人ひとりを見つめる人事考課といえます。誰かと誰かを比較する(相対評価)のではなく、部下一人ひとりについて、どこが優れ、どこが問題で、今後どこを伸ばせばよいかを見つめるものです。

■政策としての人事制度に求められる条件
期待像の明示
事実を通した評価
能力開発へのフィードバック
考課者訓練の定期的実施

絶対考課成立の要件の1つである期待像とは、考課基準を意味します。
職能要件書に基づく等級基準が1つの考課基準であり、また、その法人が置かれた環境(時・場所・機会等)における、個人別に設定される職務基準がもう1つの考課基準です。
さらに、その法人において組織人として働く心構えとして必要となるマインド基準があります。

絶対考課成立の要件の1つである期待

(2)公正・透明・納得を担保する方法
人事考課が成果を上げるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

■絶対考課成立の要件
絶対考課成立の要件

公平性
考課者の主観や部門・職種間の不均衡がないように、人事考課は明確な基準を有し、その基準に基づいて公正に運用される必要があります。そのためには、以下の要件を満たす必要があります。

人事考課要素及び考課基準を明文化すること
考課者による主観を排除するために、多段階評価とすること
考課者による不均衡を排除するために、徹底した考課者研修を行うこと

透明性
職員に人事考課を受け入れてもらうためには、人事考課制度を構築する際、その過程を職員に公表する必要があります。そのことが、次に述べる納得性の確保にもつながることになります。
また、人事考課表や考課基準を公表することにより、施設が職員に何を期待しているかを明示することにもなります。

納得性
被考課者が納得できる人事考課であることが望ましいといえます。
納得する人事考課を実施するためには、面接の際に、上司と部下とが納得のいくまで話し合うことが必要です。

(3)人事考課制度の仕組み
3つの考課区分
人事考課は、通常下記の3つの考課区分によって捉えます。

成績考課・・・仕事(本業)の結果をみる事考課要素及び考課基準を明文化すること
情意考課・・・仕事への取組み姿勢及び社会人・組織人としての常識をみる
能力考課・・・仕事の結果に影響を与えたであろう本人の保有能力をみる

成績考課は仕事の結果が、情意考課は取組姿勢や努力が対象となり、能力考課は基本的修得能力と習熟能力がその対象となります。
成績考課や情意考課は、あくまでも一定の期間における職務を通じた行動の結果(遂行度)であり、能力考課は、その成績考課を通じて、ある一定時点における職員の能力の高さと内容を捉 えることになります。

人事考課表
職員育成を主眼とする人事考課制度では、人事考課表において法人・施設が求める職員像、評価・育成のポイント(基準)を着眼点としてまとめ、明示する必要があります。

考課要素
人事考課は、職務を介して行うものであり、職務の遂行過程と結果に表れた行動一切が、いわば評価の対象となります。そこで数ある職務遂行行動のうち、どのような行動がどの要素に結びつくものであるかを、前もって整理し、着眼点として整理しておくと考課がやりやすくなります。

■情意考課・絶対考課の考課要素例
情意考課・絶対考課の考課要素例

■階層別考課要素例
階層別考課要素例

■着眼点事例
着眼点事例

(4)評価の具体的な進め方
■3つの具体的行動
人事考課の精度を高めるためには、以下のように3つの判断行動を順序よく、正しく行う必要があります。

3つの具体的行動

行動の選択(人事考課で取り上げる行動の範囲)
人事考課で取り上げる行動の範囲は、あくまでも職務遂行行動に限られます。

顕在化した行動(事実)を取り上げる
職務遂行上の行動を取り上げる
考課期間中の行動を取り上げる

職務遂行行動を取り上げるにあたっては、まず、部下の行動について、よく観察する必要があります。人事考課は顕在化された行動について評価するものであるため、部下の観察が人事考課の第一歩となります。

■観察記録・指導記録ノート例
観察記録・指導記録ノート例

人事考課では、人事考課表が配られて、初めて行動を思い出すという方法を取ってはなりません。人間の記憶力には限界があることから、部下が人事考課で取り上げるべき行動をとった場合、 適時それを記録しておく必要があります。また、その行動については、考課者による解釈を加えることなく、事実そのものを見る必要があります。

要素の選択
人事考課の対象となるべき行動、取り上げるべき行動が把握されたならば、次はその行動をどの考課要素で評価していくかを判断します。これを「要素の選択」といいます。
まずその取り上げる行動をはっきり捉え、次にその行動を情意で捉えるか、あるいは能力で捉えるか、さらには情意の中でも規律性で捉えるか、責任性で捉えるか・・これが要素の選択といわれる判断行動です。

■階層別考課要素
区 分 一般職能層 中間指導層 管理職能層
成 績
考 課
仕事の量 やったか、やらなかったか 仕事の量 仕事の量
仕事の質 出来栄え
(各人のレベルを考慮)
仕事の質 仕事の質
指導・育成・監督 管理・統率・調整
情 意
考 課
規律性 ルールを守ったか 規律性 責任性
責任性 役割を果たしたか 責任性 積極性
積極性 チャレンジしたか 積極性 協調性
協調性 手伝ったか 協調性 経営意識
能 力
考 課
・各施設で必要とする能力項目
・等級定義を具体的にしたもの
・●●力という形で表現される
知識・技能 知識・技能
判断力 決断力
企画力 開発力
折衝力 渉外力
指導監督力 管理統率力

■要素選択上のルール
要素選択上のルール

段階の選択
「行動の選択」から「要素の選択」へと進んだら、次はいよいよ「段階の選択」です。
部下に期待し求める基準に対し、期待通りであったか、頑張りが足りなかったかを、あらかじめ決められたいくつかの評価尺度のうち、いずれを当てはめていくかについて判断することが段階の選択となります。

■各考課区分における段階の目安〜成績考課の場合
各考課区分における段階の目安〜成績考課の場合

■各考課区分における段階の目安〜情意考課の場合
各考課区分における段階の目安〜情意考課の場合

■各考課区分における段階の目安〜能力考課の場合
各考課区分における段階の目安〜能力考課の場合

通常、考課区分によって3〜5段階で評定を行い、それぞれの考課要素ごとに点数を配分します。また、考課区分によって評価段階の基準が若干異なります。
また、評価段階の決定では、基準(バーの高さ)に対してどうであったかがポイントとります。法人・施設が職員個々に期待し求める基準(期待水準)に対して、クリアすることが「B」つまり標準レベルの評価であるということになります。
したがって、この「B」に対するしっかりとした認識がされていないと、公平な評価を行うことはできません。

■「段階の選択」における留意点
a)成績考課の場合

チャレンジ
  絶対基準による絶対考課という建て前からすれば、部下がその位置づけや能力レベルからみて、まずまずの所に目標を置いた場合、相当挑戦的な所に置いた場合とを問わず、いったんそれを職務基準として設定したからには、それを基準として評価すべきということになります。
   
配転直後
  配転直後の成績考課は、少なくとも下がることのないような基準を設定するよう、上司として配慮すべきです。成績考課は、職務基準に対してできたか、できなかったか(やったか、やらなかったか)が評価の際のポイントになります。しかも、職務基準はつど部下との話し合いで決め、確認し合うものでなければなりません。
   
異動直後
  職種の変更を伴う異動直後の成績考課は、職務基準いかんにより、異動前と同じか、もしくは上がることもあり得ますが、能力考課だけは下がることが避けられません。これは、能力考課があくまで等級基準に照らして行われるものであるからであり、この基準に照らして評価するかぎり、下がることもやむを得ません。
そこで、異動後の部下に対してはことさら育成に注力し、能力要件を満たすよう育成計画を綿密に立てる必要があります。

b)能力考課の場合
よく成績が良ければ能力的にも優れている、また、能力的に優れた人は良い成績を上げるといった見方をする人がいます。
確かに能力的に優れていれば、劣る人より良い成績を上げてもおかしくはありません。しかし、現実には当人の持てる能力(これを保有能力という)がすべて発揮されて、それが成績(結果)に結びつくということは少なく、多くの場合、能力発揮を妨げる要因が働いています。
人事考課では、人々の能力発揮を妨げる要因のことを「中間項」といいます。

■中間項
中間項

c)情意考課の場合
情意考課に「S」評価があり得るか
  情意考課は、組織の一員として期待し求められるものに対してどうであったかをみますが、この場合、求められることを守って当たり前ということになります。そのため、実際問題として情意考課には「S」は存在しえないと考えられます。申し分なくて「A」、どうにかルールを守り、組織に対しても、まわりの人たちに対しても迷惑をかけるほどの支障がなくて「B」という考え方に立つのが一般的です。特に規律性については、『「A」も考えられない』、つまり遅刻や無断欠勤がなくて当たり前、決められたことを守って当たり前ということになります。
   
帳消し考課
  帳消し考課とは、協調性(必要条件)で「A」の評価を得るには、責任性(絶対条件)で「A」または「B」以上の場合に限るという考課上のルールです。
このルールは、まさに組織が求める絶対条件と必要条件の関係を表したものといえます。組織の中で仕事をしていると、よく問題になるのが、責任性(自分の守備範囲)と協調性(他人の守備範囲)の関係です。

(5)人事考課制度運用上の留意点
考課回数、時期の検討
成績考課と情意考課は夏期、冬期賞与支給時に行い、能力考課は昇給・昇格の時期に年間評価を行うのが、一般的です。

a)成績・情意考課の場合
  成績と情意は、考課期間内における成績や情意がどうであったかについて、分析、評価することが求められます。そして、その期間終了とともに、集計、精算するという考え方になります。つまりその期間が終われば、いったん白紙の状態に戻し、次の期間の評価をしていくということになります。
   
b)能力考課の場合
  能力のレベルアップは比較的長期間を要し、短期間では、伸長が目に見えにくいものです。つまり、2年〜3年がかりで変化がようやく認められるといった傾向を示します。そこで能力考課については、連続性の中で分析、把握していく必要があり、この点が成績考課、情意考課と大きく異なるところです。
したがって、能力考課は一定期間が経過しその期間が終了する時点で、到達度や充足度をみていくものとしなければなりません。

■考課時期例
考課月 支給月 目 的 考 課 期 間 評 価 対 象
3月 6月 夏期賞与 10月1日〜3月31日 情意、成績
9月 12月 冬期賞与 4月1日〜9月30日 情意、成績
3月 4月 昇給・昇格 4月1日〜3月31日 情意、成績、能力

階層別配点ウエイト
階層(等級)ごとに求める期待像は異なります。そのため、考課区分ごとに配転ウエイトを設定する必要があります。例えば、一般職について、仕事の結果よりも仕事に対する取組み姿勢を重視するならば、情意考課の配分を高く設定します。

■配点ウエイト例
配点ウエイト例

考課における留意点
人事考課は、日々の部下育成の記録を基にして評価する仕組みであり、観察記録・指導記録ノートを活用することにより、考課者は育成の視点を明確にしていきます。

■考課期間における日々のOJTとその記録(観察記録・指導記録ノート)
ノートは日々のOJTの記録である
考課エラーを減少させ公正な評価を行うことを目的として、事実を記載していく
ノートには、考課者が部下に対して具体的に褒めたり、指導した上で記録し、併せて評価も行う
指導したこと、評価できる(した)こと、印象深い行動、等について記載する
内容は考課者自身が思い出せればよく、メモ程度でも可
本人(被考課者)に公開しても構わない、人事考課はオープンなものである(その場での共通認識が大切)

■期末考課時の留意事項等
評価対象は職務行動についてのみ、学歴・性別・家庭の事情などは入れない
いくつかの事実のみの積み重ねから傾向をとらえる
評価の統一性を図るため一気に仕上げる
多面的・分解的評価をする(人物の好き嫌い、物事の一端のみで判断しない)
定められたライン以上は秘密厳守とする
考課エラーの排除

  内 容 対 策
ハロー
効果
何か一つ優れている、あるいは劣っている特性があると、その特性に眩惑されて何もかもが優れている又は劣っていると判断してしまう傾向をいう。
被考課者に対する感情、先入感、偏見を取り除く
場面、状況別に被考課者を観察する
具体的事実、要素ごとに評価する
寛大化
傾向
(人の判断は甘辛が生じることが多いが、)部下への評価がどちらかというと甘くなる傾向をいう。
具体的評価基準、評価根拠を的確に把握し、自信のある評価を行う
義理人情の評価では正しい部下の育成は困難であることを認識し公正な評価を行う
厳格化
傾向
部下への評価が一般に辛くなる傾向をいう。
寛大化傾向と表裏をなす
対比
誤差
自己の専門的事項(強み)については要求レベルが高く、非専門的事項(弱み)については低くなる傾向をいう。
考課者自身が、自らの能力・特性について再認識し、自己を評価の基準に置かない
客観的事実を基に、各特性を切り離して評価する
中心化
傾向
考課結果が一部に集中し、優劣の差が出ない傾向。考課者が極端な評価差を出すのをためらう場合、評価に対する自信の欠如による場合、被考課者についてよく知らない場合に生じ易い。
被考課者の日常の行動をよく観察し、観察した事実に基づいて評価する

人が人を評価する人事考課には、必ず考課エラーが存在します。
考課エラーは、犯すべくして犯すといったものではなく、ほとんどが知らず知らずのうちに犯してしまうものであるだけに事はやっかいです。
人事考課上、犯してしまうエラーは、段階の選択を狂わせます。そうならないためにも、エラーにはどのようなものがあるかを理解しておく必要があります。

■考課表における公正評価の実践法
考課表において評価をする際、事実の裏づけを押さえておくことが有効です。部下の仕事ぶりとそれらを示す裏づけ、それが観察記録・指導記録ノートなのです。<br>つまり観察記録・指導記録ノートに考課表における評価理由の証が必ず記録されている必要があります。
従って記録がない評価項目はB、記録のある評価項目のみA、C等と評価していきます。
人事考課制度の導入(改定)にあたっては、以下のような流れで進めることが一般的です。場合によっては、いくつかのステップを並行して進めることもありますし、前のステップに戻ったり、といったこともよくあります。
いずれにしても、以下の要点は抑えておく必要があります。

■人事考課制度導入(改定)の流れ
人事考課制度導入(改定)の流れ

(1)人事考課制度導入に向けた準備
現状分析の狙いとその手法
人事考課制度の導入にあたって、まずは現状の人事制度がどのようなものなのか、課題があるとすれば何なのか、正しく把握する必要があります。
現状、どのような制度になっているのか、確認することはもちろん大事ですが、それよりも実際の運用状況とそれに対して職員がどのように捉えているか、職員はどのような制度を望んでいるのか、確認することが重要です。
そのための手法として、職員の意識調査があります。

■職員意識調査
職員の給与や仕事に対する意識レベルを調査し、経営サイドとのギャップを認識し、人事考 課制度導入(改定)への方向性検討のための材料とします。

■調査項目例
給与について
仕事・職場への満足感について
教育制度、能力開発について
就業規則、福利厚生について     等々

■職員意識調査結果事例
職員意識調査結果事例

職員の本音を引き出すためには、第三者に集計を依頼するなど、完全な匿名性が担保さ れるような工夫が必要です。

ミッション(理念)・ビジョン(目標)の再確認
人事制度は、法人理念の実現に向け、職員を育成・活用していくためのものです。
そのため、人事制度の構築(改定)にあたっては、ミッション(理念)、ビジョン(目標)の確認が不可欠です。
理念を持ち合わせていない法人は少ないと思いますが、残念ながら明文化されていないケースも多く見受けられます。
職員への浸透を考えても、また人事制度の構築(改定)の方向性を定めていくためにも、明文化することが必要です。

自施設における人事戦略・方針の決定
現行の制度における課題や、施設の理念が明確になれば、それに基づき人事戦略や方針を策定することが出来ます。
戦略・方針としては、以下のような観点について考慮する必要があります。

今後の人材採用の見込みと方針(新卒か中途か、経験者か未経験者か、等)
現在の職員に対する今後の育成方針(リーダー層の育成等)
職員のモチベーションアップの施策 等々

(2)求める人物像の設定と制度への落とし込み
育成に主眼を置いた人事制度の構築にあたっては、求める人物像の設定が非常に重要です。
求める人物像が明確でないと、職員を育成するにしても、どのような方向に職員を育てていけばよいのか、分かりません。特に、育成は施設長一人が行うといったたぐいのものではありませんので、トップから中間指導層、そして育成されるべき職員自身までもが、施設が求める職員増について熟知している必要があります。
これも確実に浸透を図るためには、理念同様、何らかの形で明文化する必要があります。
一般に、人事考課制度の導入にあたっては、以下の3点によって、施設が求める職員像を明確にしていきます。

等級フレーム
課業一覧表(職能要件書)
人事考課表

等級フレームの策定
等級フレーム作成に当たり、決定すべき項目は以下の通りです。
(イ)階層 :法人・施設全体の大きな役割と責任の区分
(ロ)等級数 :階層をさらに明確にしたもの
(ハ)資格概念 :等級毎の役割や能力の概念
(二)等級定義 :等級毎に求められる役割や能力を定義付けしたもの
(ホ)標準滞留年数 :法人・施設で求める成長像
(ヘ)対応職位 :等級と法人・施設内の職位の整合性

等級フレームは、人事制度全体の枠組みを示したものであり、法人・施設が職員に求める役割や能力を明確にしたものになります。
この枠組みに沿って人事考課や給与等の制度を組み立ていくので、定義づけをしっかりと行うことが必要となります。

■等級フレーム(例)
等級フレーム(例)

■階層ごとの役割・能力・責任範囲
階層 役割 求める能力 責任範囲
管理職 部門管理、統括
収支差額確保、
組織活性化
経営管理 施設、部門
中間
指導職
サービス統括
職員指導・育成
業務管理・改善
リーダーシップ チーム
一般職 サービス提供
日常業務推進
専門知識
一般常識
個人

組織は、一般的に大きく3つの役割(階層)に分かれていると言われています。その3つとは、管理職、中間指導職、一般職です。この3つの階層におけるそれぞれの役割は明らかに違います。
管理職は、経営全体を統括する立場であり、経営の成果(業績)についても責任を負う立場になります。評価の視点としては、法人・施設の業績が最も重視されます。
中間指導職は、現場のまとめ役として円滑に業務運営ができるよう、業務管理を行う他、部下指導という重要な役割も担っています。評価の視点としては、業務遂行とリーダーシップが重視されます。
一般職は、基本姿勢および業務遂行が重視されます。

そして、上記の組織の3つの階層をさらに細分化したものが等級です。この等級別の定義・要件を明確に示すことで、等級ごとに施設が職員に何を期待しているのかを明確にします。
等級別要件設定のポイントは、施設が職員に何を期待するのかを明らかにし、職員の成長の道標になるようなものであることです。

等級制度(等級フレーム)はこのようにして構築を進めていきますが、その際、各等級に対応する役職についても、併せて検討・明示します。役職(対応職位)については、現在の組織体制のみならず、今後の事業展開等に基づく組織体制等を見据えた検討・設定が望ましいといえます。

■等級フレーム設計時の留意点
上述したように、等級制度では職員に対する役割や能力等の基準を段階的に明示しますが、等級フレームにおける各等級で求められる要件を定義することで、期待される役割や能力を認識することができます。

(イ)階層、(ロ)等級数
等級数は法人・施設の規模に合っているか
役職数との整合性はあるか

■等級数の目安
職員数 等級数
1,000人以上 10〜13
300〜999人 9〜10
100〜299人 8〜9
30〜99人 7〜8
29人以下 5〜6

■等級数が多いことによるメリット・デメリット
メリット デメリット
等級数が多いと昇格の機会が多くなり、職員の動機づけやきめ細かい育成が可能となる。 等級数が多いと、各等級間の要件の違いを明示することが難しくなり、各等級の定義が曖昧になり、昇格の運用も曖昧になる危険性がある。

(ハ)資格概念、(二)等級数
資格概念・定義を決定する際の留意点としては、以下の3点があります。

等級別の職務役割・責任(求める職員の期待像)を明確にする

福祉サービスという基準や品質が曖昧で、職員個々の自由裁量余地が大きい職務を標準化し、 各等級に求める役割と責任を明確にすることが求められます。

組織での位置づけを明確にする

仕事の内容や手順など職務遂行上の役割や責任を明確にした後、各等級に求める組織としての位置づけや組織の中でのあり方を含むことによって、職員の組織に対する意識醸成を図ることを可能とします。

人事考課制度に結びつけ、人材育成を可能にする

人事考課制度において評価する際には、評価の基準が必要となり、この資格概念・等級定義が一つの基準となります。さらに評価後の職員一人ひとりの育成の方向性決定が可能となるようにします。

(ホ)標準滞留年数(モデル経験年数)・・・上位の等級に昇格するのに要する平均的な年数)
法人・施設が求める成長過程は明示されているか

■参考:年数決定の考え方
例1 : チーフ(役職)の役割・能力を身につけるためには大よそ○年程度かかる。そこから年数を当てはめていく
例2 : 現在の施設職員の経験年数を勘案して年数を当てはめていく

仕事の内容や手順など職務遂行上の役割や責任を明確にした後、各等級に求める組織としての位置づけや組織の中でのあり方を含むことによって、職員の組織に対する意識醸成を図ることを可能とします。

(ヘ)対応職位
対応職位を決定するにあたり2つの方法があります。

a)直接対応型 b)範囲対応型

a)直接対応型
この方法は、等級と役職位が完全に対応するというものです。
例えば4等級=主任職と決定するものであり、主任職のポストが3つあったとすると4等級の職員も3人ということになります。この方法を選択した場合、制度としては非常にシンプルであり理解しやすいものとなりますが、制度が硬直したり、役職位重視の考え方や年功序列が再び浸透する恐れがあります。

b)範囲対応型
この方法は、例えば4等級の対応職位を主任と設定すると、4等級以上の職員の中から主任が選ばれるというものです。
この方法を選択した場合、制度の弾力的な運用が可能となりますが、役職数によっては、同等級の中でも役職者に役割・責任が偏る可能性があります。

課業一覧表の作成(職務調査の実施)
課業とは、職員が役割を果たすために行う職務を構成する単位の仕事のことです。
課業一覧表は等級基準を具体化するために、課業を集約し、各々の課業がどれくらいのレベルで何等級に該当するのかを整理したものです。
さらに各課業で必要な能力やその能力を習得するための方法を明示することになります。

■課業一覧表作成の目的
職種(部門)別課業の明確化とレベル設定
課業の明示による必要能力の洗い出し
能力修得の方法を明確にし、育成の目安とする
業務分担に関する問題点の可視化
サービス標準化の推進、業務マニュアルとしての役割
キャリアパス形成のための目標設定基準としての活用

■課業一覧表作成のポイント
(イ)課業の洗い出し
課業一覧表は、職務調査を行い作成していきます。
職務調査は課業(仕事)の洗い出しから始めますが、課業には例えば「食事介助」という単位から「水分補給」という単位まで、とらえ方の大きさに違いが出ます。
そこで調査を進めるに当たり、この課業単位をどの程度の大きさで実施するか、決めておく必要があります。
課業の大きさは、?これ以上分割・分担されない大きさ、?1課業1難易度評価ができる大きさが基準となります。

(ロ)難易度・習熟度指定
課業の洗い出しを行った後、課業の難易度と習熟度(深まり、高まり、広がり)を確認します。実際問題としては、等級と等級の間で課業は重複していますが、同じ課業でも習熟度の違いという形で各々の等級と対応させます。
難易度はA〜Eの5段階、習熟度は完全習熟・独力習熟・援助習熟の3段階で設定します。

■課業の習熟区分
課業の習熟区分

■課業の一覧表〜保育士例
課業の一覧表〜保育士例

(ハ)修得能力・修得方法の設定
修得要件とは、「この仕事をこなすためには、この知識や技能をこの勉強や研修を通じて、につけて欲しい」という能力開発の具体的指針を与えるものです。
自己の能力を今後、どこまで、どのような方法で高めていくことが必要とされるのか、その期待レベルと内容を明確に指し示すような設定が必要となります。

■参考:年数決定の考え方
修得能力・・・知識、技術、技能、資格免許
修得方法・・・研修、書籍名、OJT、通信講座、認定試験

人事考課表の作成
職員育成を主眼とする人事考課制度では、人事考課表において法人・施設が求める職員像、評価・育成のポイント(基準)を着眼点としてまとめ、明示する必要があります。
人事考課表には、様々なフォーマットがあり、インターネットや書店などで購入することもできますが、一般的なフォーマットやよその施設の考課表を流用することはお勧めできません。
なぜなら、施設が目指す理念や方向性も施設によって異なるはずであり、施設が求める人物像も施設によって異なるはずです。せっかく人事考課制度を導入するのであれば、施設オリジナルの考課表を作成すべきです。
また、人事考課表の作成方法も様々なものがありますが、職員の理解を促進し、早期の新党を目指すのであれば、職員を巻き込んで作成することも一つの方法です。
以下では、自法人・施設に合った人事考課表を職員を巻き込んで作成する方法について見ていきます。

■職員参加型オリジナル人事考課表作成方法の流れ
職員参加型オリジナル人事考課表作成方法の流れ

【ステップ1】人事考課表策定チームの結成
全職員で作成することも一つの方法ですが、現実的かつ効率を考えると、ある程度メンバーを絞り込んで実施することが望ましいといえます。
メンバー選定のポイントは以下の通りです。

施設のキーマンを外さない
全ての部門から最低1名は参加させる
出来れば、一般職員も参加させる

【ステップ2】着眼点の抽出
メンバーが集まったら、まずは理想の職員に求められる要件(着眼点)の抽出を行います。「いつも笑顔で挨拶が出来る」とか、「書類の提出期限を守る」といった単純なことから、「子どもの成長段階にあわせ的確な保育計画を立てることが出来る」といった高度な内容まで、思いつく限りたくさんあげてもらいます。
この時のポイントは、「質より量を重視する」ということです。
あとで、整理し取捨選択しますので、この段階で内容について是非を問うことはせず、とにかく数多く抽出し、抜け漏れを防ぐことに主眼を置いてください。

【ステップ3】着眼点の整理
ステップ2で抽出した着眼点について、整理を行います。
まずは全く同じ内容のものは一つにします。また、似た内容については、同じカテゴリーに分類します。その際、それが人事考課の考課要素(規律性、責任制など)のどこに該当するかも考慮します。

【ステップ4】着眼点の文章化
ステップ3でカテゴリー分けした着眼点を一つの文章に整理していきます。
「明るい」「笑顔」「挨拶」といった項目をまとめて、「笑顔で明るい挨拶が出来ているか」といった具合に着眼点の文章としてまとめます。
この時のポイントは、一つの文章にまとめられないものは、要素としては別であると判断して、それぞれで文章化を行うことです。また、「〜しているか」といいったような形で疑問形にすると、考課表における着眼点らしくなります。

【ステップ5】着眼点の絞り込み
最後に、ステップ4で文章化した着眼点から、実際に考課表に掲載する着眼点を選択していきます。考課表に掲載する着眼点は、職員が理解し日常心掛けることができる程度の数に絞り込むことが望ましいといえます。
施設長としては、あれもこれも入れたくなるものですが、自施設にとって本当に大事なことだけに絞り込んだ方が、職員に対してもメッセージが明確に伝わります。

(3)人事考課制度の成否を担う「考課者研修」
考課者研修の目的・必要性
人事考課を公正に行っていくためには、継続的な考課者研修が不可欠となります。
新任考課者・次期考課者候補も含め、すべての考課者を対象に、定期的に考課者研修を行っていくことが、考課者による評価の不均衡を排除し、被考課者の納得性を高め、人事考課制度の定着化を図る上で非常に重要です。
考課者研修の主な目的としては、

考課ルールの理解
考課者間の価値・評価基準の統一

が上げられます。

人事考課において、考課者それぞれが評価に甘い、辛いなどのバラツキがあると評価自体の信頼性が薄れたり、不公平な評価となります。そのためにも、考課者は人事考課の理論やルールを理解し、法人・施設内での統一の評価、つまり誰が評価しても同じ評価ができる様に研修を実施し、継続しなければならないのです。それによって、はじめて効果的な運用が可能になるといえます。
また、考課者研修では、管理指導者としての部下育成スキルの養成や、面接におけるフィードバック手法の習得、コミュニケーション能力の向上等、人事考課面だけの効果ではなく、管理指導者としての指導力をはじめとする能力向上を図ることが重要となります。

考課者研修の進め方
考課者研修の最大の目的は、「考課者間の価値・考課基準の統一」です。考課ルールについて、理解させることももちろん重要ですが、こちらは人事考課マニュアル等の文書を配布し、懇切丁寧に説明すれば何とか理解はしていただけます。ですが、「価値・考課基準の統一」は、一度の研修でそれが実現できるほど容易なものではありません。
最も確実な方法としては、実際の事例を通じた演習を何度も繰り返し行うことです。
理論ばかりをいくら学んでも、実際の現場では、様々なケースが発生しており、その背景なども考え合わせると、全く同じケースは皆無です。
「このケースの場合は、こう評価する」といったことを、一つ一つ研修していったのでは、時間がいくらあっても足りません。それよりも、考課にあたっての基本的な価値観、考え方を共有する事で、様々なケースに対して、全ての考課者が同じ評価を行えるようになります。
具体的には、次のような流れで演習を進めていきます。

■演習の進め方
演習の進め方

また、人事考課制度の最大の山場である面接に備え、面接訓練を実施する事も重要です。
面接前には、人事考課表の作成を行いますが、作成してそのまま面接に望むのはあまりにも危険な行為です。特に、始めての面接にあたっては、十分な事前準備を行うことが、面接の精度を高める第1条件となります。
事前準備とは、面接時のシナリオを描くことです。部下との面接上の会話を想定し、予め聞きたいことや言いたいことをまとめておくことが大切です。特に育成面接時は部下の自己評価と上司の評価のすりあわせを行うので、評価のギャップがある際は原因を追究し、部下に気付かせるようにシナリオを描くことが重要です。また、観察記録・指導記録ノートを活用することも有効な手段だといえます。面接のトレーニングにもやり方は多数ありますが、以下のようなやり方が比較的取組みやすいといえます。

■面接トレーニングの進め方
面接トレーニングの進め方