実際に目標管理制度を施設で導入しようとする場合は、どのような手順で行えばよいのでしょうか。全体的な流れを以下に示しておきます。

■目標管理制度導入の手順
目標管理制度導入の手順
(1)キックオフミーティング
目標管理制度導入にあたっては、まずは何はともあれ、職員に告知することが必要です。制度導入にあたっては、職員に協力を求めなければならない場面も出て来ますので、予めトップとしての意思決定及びそこに至った経緯、導入の目的などを説明しておきます。

■キックオフミーティングで職員に最低限伝えておくべき内容
目標管理制度導入に関する意思決定
目標管理制度の説明
不況の長期化による消費マインドの冷え込み
具体的なスケジュールや役割分担            等々

(2)理念の再確認
既に明確な理念があり、職員への浸透が図られているのであれば、この項目は必要ありません。理念があいまいだったり、この際、きちっと見直しておきたい、ということであれば、ここから始める必要があります。
理念については、法人や施設の専権事項ですから、理事長や施設長がお一人で考えられても差し支えありません。別に創業者がいるのであれば、創業者から創業の想いを改めてお伺いするというのも、よいでしょう。
職員への浸透を重視するのであれば、見直し段階から職員を参加させると効果的です。しかし、関わる人数が多くなればなるほど、時間も手間もかかりますので、まずは目標管理制度の導入が目的なのであれば、ここはそれほど拘らなくてもよいでしょう。

(3)施設目標の設定
どのような施設でも単年度の事業計画はあると思いますが、目標というより方針のようなものに留まっている場合が多いと思います。目標として具体化できそうなものを事業計画からピックアップし、施設の目標としてもよいでしょう。
また、中期経営計画等をしっかりと整備している場合などは、それを目標として差し支えありません。

(4)求める職員像の明確化
職員の成長を目標管理の主目的として捉えるのであれば、施設目標よりもこちらの方が重要です。
これについては、職員も巻き込んで、共に作り上げて行った方が、現場の実情にあった具体的なものができ上がります。
KJ法というブレーンストーミングの手法を活用した「理想の職員像」の作り方を以下に示しておきます。

■KJ法を活用した「理想の職員像」作り
KJ法を活用した「理想の職員像」作り

理想の職員像を思い浮かべる
まずは、ぞれぞれの職員が理想とする職員像を思い描きます。それは架空の人物でもいいし、実在の先輩職員、あるいは過去に在籍していたカリスマ職員でもかまいません。まずは各自が理想的と思える職員像を明確にイメージします。

理想の職員について思いつく要件をあげていく
「笑顔で挨拶が出来る」とか、「利用者の気持ちに配慮できる」など、理想の職員に求められる要件について、思いつく限り、片っ端から上げてもらいます。後で作業しやすいように、一つずつ付箋に書いてもらうとよいでしょう。
また、ここで重要なのは、「大事な要素」を漏らさないことです。そのためには、質よりも量をとにかく出すことがポイントです。作業に取りかかる前に、以下のブレーンストーミングにおける4つのルールを徹底しておきましょう。

■ブレーンストーミングにおける4つのルール
批判禁止 … 発言内容の良し悪しを評価しない
自由奔放 … 既成概念にとらわれない自由な発想を歓迎する。夢物語でもよい
質より量 … 内容よりも量をとにかく多く出す
便乗歓迎 … 他人のアイデアに便乗したり、組み合わせたりして発想することを歓迎する

また、「理想の職員について思いつくことをあげてください」と言っても、なかなか職員から意見が出てこない場合は、ある程度の枠組みをこちらから与えてあげる必要があります。

■ブレーンストーミングにおける4つのルール
施設の理念や目標に関すること ルールやマナーに関すること
チームワークに関すること ルールやマナーに関すること
コミュニケーションに関すること 指導・育成に関すること
改善に関すること 自己研さんに関すること
法令遵守に関すること 施設運営に関すること
人事・労務に関すること 地域や関係機関に関すること
利用者に関する事 安全に関すること
計画に関すること 記録に関すること        等々

ただし、あまりこちらから枠組みを与え過ぎると、その枠の中でしか発想できなくなり、要素に漏れが生じてしまう可能性があります。

似たもの同士集めて整理分類する
ある程度数が上がってきて、もうこれ以上は出てこない、という状況になったら、出てきたワードを同じような要素別に分類していきます。

■ワードのカテゴリー分類例
ワードのカテゴリー分類例

似たようなものを集めてカテゴリーに分類したら、それにタイトルを付けて行きます。タイトルは、グループ全体を表す一言をつけるようにします。一言で表せない場合は、異なる要素を含めてしまっている可能性があるので、グループ分けを再度検討します。

■タイトルの付け方の例
タイトルの付け方の例

カテゴリーごとに文章にまとめる
最後に、カテゴリーごとに文章にまとめていきます。上記の例で言えば、以下のようになります。

自己啓発 社会情勢に興味を持ち、本を読んだり研修に参加するなど、自己啓発に努めている
協調性 他部門との情報共有に努め、他人の仕事を自発的に手伝っている

優先順位に基づき取捨選択する
理想の職員像なので、あれもこれも入れたくなる気持ちも分かりますが、全てを含めてしまうと、法人や施設が本当に大事にしたい項目が埋もれてしまい、メリハリの無いありきたりな職員像となってしまいます。
そのため、出て来た項目全てを残すのではなく、優先順位を付けて、本当に大切なものに絞り込む必要があります。

(5)部門目標の設定
施設の目標が決まれば、自ずと各部門が果たさなければならない責任(目標)が見えてくるはずです。これについては、経営層が一方的に各部門に目標を課すのではなく、施設目標を踏まえた上で、各部門に自発的に目標を設定してもらいます。その際も部門長が一人で決めるのではなく、部門のメンバーと話し合って決めるとよいでしょう。 (1)目標設定の仕方研修
初めて目標を設定する場合、あるいは、これまでしっかりとした目標をたててこなかった施設は、各職員に目標設定をさせる前に、目標設定の仕方についてしっかりとした研修を行う必要があります。
ここでは研修の大まかな内容と、ポイントを簡単に整理しておきます。

目標設定の仕方研修の大まかな内容
最後に、カテゴリーごとに文章にまとめていきます。上記の例で言えば、以下のようになります。

1.なぜ目標を設定するのか
  (1)施設を取り巻く環境変化
(2)目標設定による人材育成の仕組み
2.目標設定の仕方
  (1)目標とは何か
(2)目標設定の前に確認しておくべきこと
(3)目標の種類と設定例
(4)目標設定にあたっての注意点;
3.今後のスケジュール

目標設定のポイント
(イ)目標の定義・条件
■目標の定義
ある一定期間に成し遂げるべき成果を具体的に描いたもの

■目標の条件
業務そのものでなく、業務をとおして成し遂げること
例)新しい管理職研修プログラムを調査し、研修計画を作成し、トライアルを実施する。
⇒人材委員会で承認されるレベルの管理職研修プログラムを立案する。

抽象的なあいまいなものでなく、具体的結果イメージ
例:予実管理の徹底。 ⇒月次実績の予算との乖離を±5%にする。

目標は、後でそれが達成出来たのか、出来なかったのか、誰が見ても客観的に分かるものでなければなりません。

(ロ)目標設定の基本
目標設定は、職員の自主性を重視し、取り上げるテーマは職員自らの判断で決定できます。その推進も自己管理、自己統制に任されます。主役は上司ではなく、一般の職員なのです。
しかし、目標は、単なる目標(スローガン)のみを言うのではなく、具体的な方策や手段が必要となります。この先、半年、1年間の自分の仕事について、結果だけでなく手段、方法を含めて、そのストーリーを描きます。目標設定の基本形を守らせ、目標に具体性を持たせることができないと事実評価は不可能です。

■目標の3要素
目標項目(何を)…成果を何で見るか
達成水準(どれだけ)…どこまで達成すれば目標を達成したことになるか
期限(いつまでに)…いつまでに目標を達成するのか

上記3要素に、達成手段である「どのようにして」と、決意を表す「〜する」を加えた5つを目標設定の基本形といいます。

■目標設定の基本形
「何を」 状況、指標
「どのようにして」 手段、方法
「どれだけ」 水準、等級基準
「いつまでに」 期日
「〜する」 遂行のための計画


また、この他、目標は以下の4つの要件を満たさなければならないとされています。

■目標の4要件
目標の4要件

■目標設定シート記入例
目標設定シート記入例


(ハ)目標設定の着眼点
目標は場当たり的に目標設定シートに書くのではなく、何を目標として設定するのか十分に検討することが大事です。
目標設定に当たっての検討事項の整理・把握には、次の視点から整理します。

環境変化
上位方針、上位目標
主要業務(自分の役割)
施設内外関係者からの期待
現状の問題点、前期の反省点

環境変化
職場を取り巻く環境の変化とそれが職場に及ぼす影響(外部環境だけでなく、内部の変化についても捉える)を整理します。

上位方針、上位目標
上位方針や上位目標をしっかり把握し、自分の属する組織、自分の業務において期待されていることを整理します。上位目標と連鎖した目標を設定するための重要な視点といえます。

主要業務(自分の役割)
自分の業務内容や、自分の属する組織における自分の役割を整理し、確認します。このような
機会に自分の役割として変化したものがないか確認します。新しい業務の担当になった、部下ができたなどです。

施設内外関係者からの期待
施設内・施設外の関係者(上司・部下・同僚・後輩・他部門、関係組織、利用者など)から期待さ れていることを整理し、確認します。「期待されていることは何か」の視点から、主な担当業務の目的を再確認します。

現状の問題点、前期の反省点
自分の属する組織、自分の業務における問題点や前期の反省点を整理し、把握します。

(ニ)目標の種類と設定例
結果目標とプロセス目標の違い
目標設定で意識すべき目標の性質として、結果(目的的)目標とプロセス(手段的)目標、定量目標、定性目標があります。この2 軸でマトリックスを作ると、目標の性質は4 種(定量的結果目標、定性的結果目標、定量的プロセス目標、定性的プロセス目標)になります。

■結果目標
広い概念で、P/L、B/Sに表される数値項目のうち担当組織の分担部分を目標としたものを示します。ここでは、担当組織が直接的に責任を負っている成果(定量、定性を含む)をいいます。判断基準はそれを成し遂げれば組織の責任が全うされるかどうかです。

■プロセス目標
結果目標を達成するための手段的な目標をいいます。一次手段的なものだけでなく、二次的、三次的なものもあります。

■目標の区分
目標の区分

定量目標の設定例
■定量目標の例
通所利用者数―現在の平均20 名から平均25 名に上げる
ベッド稼働率―95%
時間外業務の短縮―20%削減
○○設備の修繕費用―前年実績5%削減を行う
□□集計表作成時間―エクセルを活用することにより現行の3 時間から1.5 時間に短縮する

■定量目標における目標項目と達成水準の表現例
No 目標項目 達成水準
収入 ○○円
経費削減 ○○円
未収金回収率 ○○%
正職員構成比率 ○○%
新規利用者件数 ○○件
訪問件数 ○○件
△△の事務処理・ミス回数 ○○回
利用者満足度 ○○ポイント
○○の資格取得人数 ○○人
外注先業者選定数 ○○社

■ゼロ目標の考え方
ゼロ目標の例 クレーム0、トラブル0、不良0、ミス0、事故0 など
実現可能な範囲内で目標設定: クレームを前年比1/2(10 件)にするなど
「ゼロ」にするための手段方法を目標設定: 水安全パトロールの実施など

定性的目標設定の切り口とその例
■定性目標における目標項目と達成水準の表現例
No 目標項目 達成水準
就業規則を改定する 改正労働基準法の内容が盛り込まれている
○○比較表を作成する どのブランドが良いか判断できる
電話対応マニュアルを作成する 新人パート社員が読んで電話対応ができる
アセスメントシートを作成する 現場から役立つと評価される
法人内ネットワークシステムを開発する ネットワークの基礎構想まで
○○業務の改善 作業時間を半減させる施策が入っている

■達成水準を鮮明に描くポイントの例
期待される仕様を明らかにする 上記例 ①と②
実現したいレベルを明らかにする 上記例 ③
どのような評価を得られればよいかを明らかにする 上記例 ④
到達すべきステップを明らかにする 上記例 ⑤
どのような効果があるかを明らかにする 上記例 ⑥

成長目標の種類と目標項目、達成水準
成長目標とは、業務に必要な能力の開発・向上を目標としたものです。各種能力のアップ、業務 に関する資格の取得、業務マニュアルの習得などがあります。本人の成長のためと、組織の成果 創出に間接的に役立てる意義があります。

■能力開発目標の種類
業務に関する能力のレベルアップ
業務に関する資格の取得
業務に関するマニュアル、知識の習得
研修や通信教育の受講
専門書の購読

■成長目標の着眼点と目標項目、達成水準
着眼点 目標項目 達成水準
業務能力のレベルアップ 認知症に関する知識のレベ
ルアップ
○○大会でのプレゼン用資料作成から説明まで独力でできる
マニュアルの習得 入浴介助業務マニュアルの習得 ・法人内テストで80点以上
・他部門からの問い合わせ
に、スムーズに回答できるレベル
勉強会の開催 嚥下に関する勉強会の開催 開催回数
2ヶ月に1回、合計年6回
通信教育の受講 介護福祉士に関する通信教育の受講 6ヶ月後の2月末日までに
修了する

(ホ)目標にはチャレンジ要素を含める
目標には必ず、チャレンジ要素を含めることが重要です。特に一般職に関しては、伸び盛りの職員が多いため、有効となります。職員一人ひとりがチャレンジを意識したかどうかを確認し、目標の具体性、実現可能性をチェックします。

■主なチャレンジ要素
主なチャレンジ要素

(ヘ)評価基準の設定
定量目標
目標設定時に「達成」や「大幅達成」の評価基準をあらかじめ設定しておき、それに基づいて評価します。

スケジュール基準⇒
「いつまでに○○を終える」など、期限を基準に度合いを示す
状態基準⇒
「一度の説明で、パート職員にも薬効を理解させられるようになる」
「主任が了解した保育となるように計画する」など、目指す状態を度合いとして示す

定性目標
定性目標では、達成水準が言葉で表現されているため、どれだけやれば達成になるのかがはっきりしません。従って、定性目標は目標設定時に評価基準について、上司と部下でイメージを共有しておくことが必要となります。

数値基準⇒
「達成の成果の度合いを「数値」で表します。最も明確にすることができる基準ですが、達成度評価のランクを「SABCD」に分ける場合には、あらかじめ「○%〜○%」のゾーンを決めておくのが賢明です。

定性目標においては、以下のような考え方もできます。

「今まで」と「これから」で表現する⇒
達成基準として「今まで」と「これから」の2つに分けることも有効です。目標設定時に両者を比較することでチャレンジ性の判定が楽になるばかりでなく、部下も安易な達成基準の設定がしづらくなるという利点があります。
・「今まで」利用者の記録はすべて紙ファイルに保管・保存されている
・「これから」利用者の記録はすべて電子データで補完・保存する(年度末まで)
能力レベルの表現を工夫する⇒
・〜ができるようになっている
・〜の資格取得
・〜の問い合わせに応えられるようになる
・〜のセミナーを受講し、レポートにまとめ、発表する
例えば「○○の企画を立案する」という目標の場合、どのような状態か、どのような質かを表すことで基準はわかりやすいものになります。質を表すためにはその状態を表示することが必要です。例えば「給食材料費削減の提案書提出」ではレベルはわかりませんが。「給食材料費を3%削減する提案書を作成する」という目標であれば達成基準はより明確になります。

■例)目標:新入職員向けの業務マニュアルを作成
例)目標:新入職員向けの業務マニュアルを作成

(2)目標添削・解説会
目標設定の仕方研修を実施して、目標の立て方を職員に伝えても、これまでスローガン的な目標で許されてきた施設では、どうしても曖昧な目標が上がってきてしまいます。やはり上がってきた目標に対し、具体的に指導しないと本当の意味での理解はできません。そこで、弊社がお手伝いする場合、最初に立てて来た目標に対し、添削し、解説を加えています。
実際には、リーダーが個別にチェックし、目標面接時に口頭で指導していくことになります。
公正な評価結果を導くためのチェックポイントは次の通りです。

■部下の目標に対するチェックポイント
目標設定の基本形が守られているか(5W1H)
具体性があり、結果をイメージすることができるか
自部門における役割は明確か
目標は組織目標にどう結びつくか。(成果目標)
目標は、各人の等級基準や能力とかけ離れていないか
責任の所在が不明確な目標はないか

また、目標をあいまいにしてしまう言葉がいくつかありますので、以下のような文言で目標をあいまいにしていないかチェックします。

■目標設定NGワード例
NGワード 修正方法 改善例
努力する
徹底する
頑張る
目指す
目標は達成するために設定するので、努力目標をにおわすような表現は使わない ○○まで達成する
○○を実現する
支援する
協力する
管理する
助言する
調整する
目標達成の主体が他力本願になりがちな表現は使わない (助けることではなく、自分自身が主体になって行う目標を記入する)
など 目標の範囲を曖昧にさせる表現は排除する ○○と○○を実行する
極力
なるべく
必要に応じて
可能な限り
できるだけ
どれだけできればよいのかが不明確な表現は避ける ○○を△まで達成する
積極的に
臨機応変に
迅速に
強調して
気持ちを表現することにより、達成度を曖昧にさせる表現は削除する。こうした表現は、記述から外しても、実施内容は変わらない  
効率化する
明確化する
安定化する
共有化する
具体的内容が記述されていれば構わないが、漠然と「○○化する」と書いてあるだけで、どう○○化するのかが不明確な場合は表現を変える ×手続きを効率化する。

○帳票を50%削減する。

(3)目標設定面接(トレーニング)
通常、部下から上がってきた目標を上司が事前にチェックした上で、目標面接を実施します。しかし、これまで面接をしたことがないリーダーにいきなりやれと言っても出来ませんので、目標面接の目的や基本的な進め方について、レクチャーする必要があります。
ここでは、目標面接で実際にリーダー達に伝えている内容について、ポイントを絞ってお伝えします。

目標面接とは
目標面接は、施設・部門の今期ビジョン等情報の共有化を図った上で、部下の向こう6ヶ月間(1年間)の目標(職員に対する期待像)を話し合い、確認する場です。また、目標設定を通じて、本人の挑戦と創造を引き出しながら意識づけ、成果責任の明確化を行います。

目標面接で必要な4つの合意
(イ)目標の合意
(ロ)達成手段の合意
(ハ)達成水準の合意
(ニ)支援の合意

(イ)目標の合意
部下が考えている目標と上司が期待している目標を照らし合わせ、両者の間にギャップがある場合は、問題点を明確にし、解決策を共に考えます。話し合いの結果、両者が納得、合意することが最も重要となります。

(ロ)達成手段の合意
設定する目標は、原則として「現状を超える目標」であるため、部下にとっては能力以上の目標への不安を抱くこととなります。目標達成への不安が解消しなければ、部下は意欲的に目標に取り組むことができません。部下が不安に感じている部分を明確にし、アドバイスを与え、勇気づけることが上司の役割となります。目標達成手段に不安がある状態では、部下は目標を低く設定してしまい、上司の期待目標と食い違うこととなってしまします。

(ハ)達成水準の合意
「ここまでできたら評価はBとする」というような目標の達成基準も必ず合意しなければなりません。達成基準が合意すれば、上司は迷うことなく評価でき、育成面接の時にも、部下との間で評価に対する解釈の違いが発生することがなくなります。そのためにも、目標は具体的に表現し、可能な限り数値化して表現することがポイントとなります。

(ニ)支援の合意
「現状を超える目標」に対して部下は不安を抱きます。その不安を解消するためには上司からどのようなバックアップが欲しいか、また、上司としてどのような支援ができるか、可能なことを部下と約束することが大切です(できないことは言わない)。上司は目標を与えるだけではなく、達成するための支援を必ず行い、部下を孤立させないことが重要です。

目標面接の前に準備すべきこと
(イ)個人情報の把握
(ロ)目標設定の背景の把握
(ハ)目標のギャップの把握
(ニ)面接の進め方の検討
(ホ)支援計画の検討
(へ)励ましの言葉の用意
(ト))育成ノートの作成

(イ)個人情報の把握
前期の評価結果や行動から、部下がどんな力を発揮したか、どこに改善の余地があったかなどを十分に把握しておく必要があります。改善してほしい部分が今期も改善されないようでは、上司の指導力に問題があると判断されてしまいます。

(ロ)目標設定の背景の把握
上司の考える期待目標の背景を確実に把握して、わかりやすく説明できるようにしておきます。

(ハ)目標のギャップの把握
「目標設定シート」の提出によって目標面接前に部下の目標を把握し、上司の期待目標と部下の目標のギャップを考えておくことも必要です。部下は、上司の期待目標よりも低い目標を申告してくる場合もあるので、面接時のための説明材料を用意しておきます。

(ニ)面接の進め方の検討
様々な情報を分析した結果、この部下にはどのような流れで面接を進めればよいかを考え、適切な面接の進め方を準備しておきます。

(ホ)支援計画の検討
上司の期待目標に対し、どのような支援やバックアップができるか、支援計画を準備します。部下は一人ではないので、全体の管理を通して一人の下にどの程度の支援ができるかをしっかり考えましょう。自分ができない支援はしてはなりません。また、一人ひとりのレベルの違いを考慮すべきです。

(へ)励ましの言葉の用意
部下を勇気づけて意欲的にさせるには、上司からの励ましの言葉が有効です。部下を孤立させない、部下を認めているなどの気持ちを伝えるような言葉を用意しますが、部下の個性に合わせて準備することが肝心であり、ワンパターンにならないように工夫します。

(ト)育成ノートの作成
実際の面接をどのように進めるか、シートにまとめて面接に臨みます。行き当たりばったりでは質の高い面接はできないので、しっかり準備します。

目標面接の進め方
目標面接は、通常6ヶ月間(1年間)の個人目標や目標課業について話し合い、確認する場です。従ってこの面接では、上司と部下がどのように話し合い、目標に同意していくのか、そのステップが重要になります。

■定量目標における目標項目と達成水準の表現例
手順 ポイント 会話例
STEP1
リレーション作り
部下が何でも話せる雰囲気を作る。部下に関心を持っていることを伝える。また、目標面接の目的を伝える。 「最近〜はどうですか」
「○○さんはいつも〜だね」
「先日の報告書は大変わかりやすかったよ」
STEP2
部下の目標確認
部下の目標や達成方法、その目標に取り組む理由について確認する。
部下の意見を積極的に受け入れる。
「今日は○○さんと〜について話し合いたい」
「今期の目標について○○さんの考えを聴かせてほしい」
STEP3
期待目標の明示
部門目標や方針、そして上司として、部下に期待することを説明する。
部下の役割や等級を考慮した上で、上司としての考えを説明する。
「今期の○○さんの目標を私はこのように考えています」
「この目標は○○さんにとって〜の意味があるのよ」
STEP4
目標のすり合わせと具体化
部下の目標と上司の期待を近づけ、決定する。チャレンジを促し、お互いに合意する。具体性、到達レベル、チャレンジ性を含めた目標設定となっているかチェックする。一方的な押しつけはしない。
目標の合意
客観的に評価することができるか
達成基準の合意
到達するまでの取り組みと達成時点での結果を明確にする
達成手段の合意
完了までのスケジュールを確認
目標の合意
「期待目標について○○さんの考えを聴かせてくれない?」
「この問題が解決されれば、目標について合意できるということね」
達成基準の合意
「どうしたらよいか2人で具体的に考えてみましょう」
「ここまで達成したらA評価と考えます」
達成手段の合意
「目標達成への方法を具体的に聴かせてくれない?」
「それはいい案ですね、私も賛成です」
STEP5
上司からの
支援方法の合意
部下の役割と取り組むべきこと、指導援助者としての上司の立場を明確にする(支援の合意)。能力開発についての部下の意欲を喚起させる。 「私に支援できることはないかしら?」
「どんなサポートがあったら達成できますか」
「誰のサポートがほしいですか?」
STEP6
部下からの
要望事項を聴く
評価、目標管理、その他仕事に関して、上司への要望があれば、具体的に話させる。部下の要望事項に対しては、部下の意志を尊重する。
STEP7
クロージング
話し合った内容を部下にまとめさせ、今期の目標を再度確認する。励ましと期待を述べて、面接を終了する。 「二人で頑張っていきましょう」
「〜については中間報告をして下さい」
「あなたならきっと達成できるわ」
(1)進捗管理
目標は立ててしまえば安心というわけではありません。目標を達成するために、職員が具体的 にどんな行動を起こすのかが明確になっていなければ、決して目標が達成されることはありませ ん。したがって目標のほかに行動計画をまとめることが求められます。

■目標管理実施計画書例
目標管理実施計画書例

(2)期中における管理者の関わり
期中における管理者の役割も非常に重要です。管理者が部下に本当に成長して欲しいと願うの
であれば、目標は必ず達成させなければ意味がありません。しかも、自身の努力により達成できたと本人が感じなければ、成長には繋がりませんので、手取り足取りフォローすればよい、というわけでもありません。
期中における上司の役割をまとめると以下のようになります。

■期中における上司の役割
部下の目標に関心を寄せる
適度な声かけにより、目標を常に意識させる
努力を誉め、やる気を引き出す
相談に乗りアドバイスを送る
励まし、勇気づける

(3)中間面接
目標面接とは
目標面接で向こう6ヶ月間(1年間)の目標が確認されたなら、確実に達成できるよう、各人に対してフォローしていく必要があります中間面接の直接のねらいは、目標や期待水準を達成するための「問題の早期発見と軌道修正」にあります。目標達成を阻害する要因があれば、大事に至る前に排除することが重要です。
このため、面接の場で部下から報告を求めて進捗状況を把握したり、状況の変化を伝えたり、期待水準の見直しについて話し合い、部下とともに問題解決に当たることになります。

■中間面接の進め方
手順 ポイント会話例
STEP1
進捗状況を確認する
目標や業務に対しての遂行状況を確認する。
能力開発面の進捗状況についても確認する。
STEP2
指示・指導を行う
部下の努力不足と判断した場合は、目標を再確認させ、追加指示、指導を行う。
遂行方法や手段に誤りがある場合は、適切なアドバイスを与える。
STEP3
対応策を検討する
現状把握、問題点の発見の後、解決策を話し合い、検討する。
STEP4
部下の要望を聴く
目標達成に必要な部下の要望を聴く。
要望事項について、部下の意見を尊重する。
STEP5
激励して、
中間面接を終える
目標達成の期日を確認する。
励ましと期待を述べて、面接を終了する
(1)人材育成に主眼をおいた絶対評価
定量目標
絶対評価とは、職員の一人ひとりを見つめる評価方法です。誰かと誰かを比較する(相対評価)のではなく、職員一人ひとりについて、どこが優れ、どこが問題で、今後どこを伸ばせばよいかを見つめます。
つまり、絶対評価は職員一人ひとりの能力開発、育成がねらいとなります。目標管理制度を導入する際も、この絶対評価がベースとなります。

成果を正確に把握し、評価する
目標管理の評価では、まず本人が自己評価を行います。上司はその内容をよく検討し、上司としての評価案を決め、評価面接に臨む。評価の際は、事実に基づいて評価しなければなりません。

目標と成果の差異を分析し、必要な対策を検討する
評価で重要なことは、目標の達成要因・未達成要因の内容を分析して、必要な対策を検討することです。そして、その検討結果を次期の目標設定に反映させるようにします。

達成度評価を能力開発に反映させる
評価を踏まえて、能力的に不足している項目については、「どのような能力を」「どのレベルまで」「いつまでに」身につけるかを明確にし、次期に取り組ませることが求められます。また、不足している能力を開発するだけでなく、すでに高いレベルにある能力についても更に伸ばす取り組みが必要です。

■指標の4象限
指標の4象限

(2)フィードバック面接(トレーニング)
フィードバック(育成)面接についても、まずはしっかりとトレーニングを施すことが重要です。ポイントを以下に示しておきます。

フィードバック(育成)面接とは
フィードバック(育成)面接の目的は2つあります。
1つは、部下の目標達成度を評価し、部下自身の自己評価と合意することです。そのためには、組織のルール・規則に従って、客観的な事実に基づいて公正な評価をする必要性がありますが、目標面接の4つの合意が確実に行われていれば難しいことではありません。しかし、これらの合意が徹底されていないと、評価は困難となり、育成面接で部下ともめる原因となります。
もう1つは、評価結果を育成に結びつけることです。評価結果を育成に結びつけるためには、育成面接は有効な場であることを理解しましょう。

育成面接の前に準備すべきこと
(イ)職務行動を振り返る
今期の部下の職務行動の中で優れていた点を挙げておきます。

(ロ)改善点を明確にする
部下が改善を必要とする部分はどんなところであったかを挙げておきます。

(ハ)育成点を明確にする
部下の育成点を明確にし、今後の育成プランを作成しておきます。目標を達成できなかった場合でも感情的にならず、プロセスにおける良い点をしっかり把握しておきます。

(ニ)育成ノートを作成
実際の面接をどのように進めるか、シートにまとめて面接に臨みます。行き当たりばったりでは質の高い面接はできないので、しっかり準備します。
育成ノートを次ページに掲載します。

■育成ノート
育成ノート

育成面接の進め方
手順 ポイント 会話例
STEP1
リレーション作り
今までの業務を認め、部下に関心を持っていることを示し、最近の仕事の状況を聴くことから始める。例え、今期の働きぶりが良くなかったとしても、最初から脅かす態度、咎めるような態度があれば、部下は何も話さなくなる。 「1年間ご苦労様でした」
「最近〜はどうですか」
「〜の件は大変だったね」
「〜の処置は完璧でしたよ」
STEP2
部下の
自己評価を聴く
今期の自己評価を確認し、結果についての部下の考えを聴く。結果だけでなく、プロセスについても十分耳を傾ける。部下の優れている点や改善点について部下が気付いているところ、気付いていないところを把握する。 「〜について○○さんの考えを聴かせてほしい」
「この点については、どう考える?」
STEP3
上司評価の提示
このステップは、具体的事実と評価基準に基づいて、上司の評価をはっきり伝える。  
STEP4
優れていた点を
伝える
上司の評価を伝えた後、評価が低かったときでもプロセスに優れていた点があれば、積極的に認める。部下が自分の優れていた点に気付いていない点があれば、特に積極的にフィードバックする。上司は部下が努力したことも、当たり前と思いがちだが、当たり前のこともきちんと認めることが必要である。 「○○さんは〜について十分に力を発揮してくれたね」
「〜はよく頑張ってくれたね」
「あのやり方は非常に良かったので、これからもあの調子で頼みます」
STEP5
改善点を
明確にする
ここでは、評価結果から改善を促す点を明確にする。そして、どう改善していくかについて部下と十分に話し合いをする。この話し合いで留意しなければならないことは「こうしなさい」「ああしなさい」と指示・命令をするのではなく、部下自身に問題点を気付かせ、それをどう改善するか、そのためには何をするかを考えさせることである。 「○○さんに改善してもらいたい点は○点あります」
「〜についてはどう考える?」
「この点についてはどう思う?」
「〜の原因は何か、○○さんの考えを聴かせてくれない?」
STEP6
育成点を話し合う
ここでは、育成点について話し合う。この話し合いでは、上司の考えを押しつけるのではなく、あくまでも2人で考え、解決していくという姿勢を持つ。部下の優れた点を強化し、自己肯定感を持たせること、部下に改善の方向と具体的な方法を気付かせ、改善意欲を持たせること、そしていつからどのように始めるのか、具体的に合意することが必要となる。 「この点は自信を持っていいよ」
「どうしたらよいか、2人で考えてみよう」
「〜について○○さんの考えを聴かせてくれない?」
STEP7
クロージング
最後のステップは、今まで話し合ったこと、合意したことを部下にまとめさせる。上司からは期待していること、共に歩んでいくことを伝え、激励する。 「いつでも相談して」
「〜については中間報告をして下さい」

(3)処遇への反映
最終的に、達成度評価を処遇に反映させるわけですが、初めて実施する際には「トライアル(試行)」ということで、いきなり処遇に反映させるのは避けた方が無難です。
なぜなら、まだリーダーも職員も慣れておらず、試行錯誤をともないながら実施している状況ですので、その状態でいきなり処遇に反映させてしまうと職員から不満や疑問の声が上がって来ることがあります。
一度、トライアルを実施し、職員もリーダーも大まかな流れやそれぞれの役割等しっかりとイメージできてから、本運用に入るのが望ましいと考えます。
また処遇への反映方法ですが、次のようなものが一般的です。

■目標管理の処遇への反映方法
人事考課の一部に目標管理を含ませる
昇給・昇格は人事考課で、目標管理は賞与に反映させる
目標管理で処遇改善交付金に差をつける
昇給・賞与とは切り離し、目標管理を反映させる一時金を新たに設ける

人事考課の一部に目標管理を含ませる
既に人事考課を取り入れている施設の多くはこの方法で対応しています。
以下のように職階及び昇給・賞与ごとにウェイト付けを行う方法が一般的です。

■育成ノート
  人事考課 目標管理 合計
情意 成績 能力
一般職能層 昇 給 50% 20% 30% 0% 100%
賞 与 40% 30% 0% 30% 100%
中間指導職能層 昇 給 10% 30% 30% 30% 100%
賞 与 0% 50% 0% 50% 100%
管理専門職能層 昇 給 0% 50% 0% 50% 100%
賞 与 0% 30% 0% 70% 100%

昇給・昇格は人事考課で、目標管理は賞与に反映させる
一方、目標管理は昇給や昇格には反映させず、賞与にのみ反映させる方法をとる場合もあります。
その場合も上記と同様に、人事考課と目標管理の割合をウェイト付けして、運用する場合が多いです。まれに、人事考課は昇給・昇格、目標管理は賞与と完全に分けてしまっているケースもあります。

昇給・賞与とは切り離し、目標管理を反映させる一時金を新たに設ける
実際問題、賞与や昇給に目標管理を反映させる、ということになると、よほど厳密にしっかりとした制度運用を行わないと、不公平を生じる可能性が出て来ます。そうなると職員のモチベーションは逆に下がってしまう結果になります。
お勧めは「目標管理を成功させる7つのポイント」でお話ししたように、昇給や賞与とは切り離した一時金を全くの加算で設定することです。

目標管理で処遇改善交付金に差をつける
介護施設や障害者施設など、処遇改善加算を受けている施設ならば、目標管理の結果で処遇改善加算に差をつける方法もあります。
現状、一律均等割りで支給している施設が多いと思われますが、本来処遇改善加算はそのように人材育成に役立てるためのものですから、評価等の結果を反映して支給する事も認められています。せっかくの交付金ですから、単なる横流しではなく、少しでも職員のモチベーションが上がるよう工夫して支給することも一つの方法です。