社会福祉法人にも経営の多角化や新規事業への取り組みが求められる時代になりました。
その背景を考えると、以下の3点に集約されるように思われます。

��伸び悩む収入
��求められる自立経営
��多様化する利用者ニーズへの対応

（１）伸び悩む収入
��24年度介護報酬改定の影響
平成24年度の介護報酬改定において、改定率はプラス1.2％と言われていますが、処遇改善交付金が介護報酬本体に組み込まれたため、実際には0.8％のマイナスとなり、実質マイナス改定となりました。

■介護報酬改定率の推移
改定年度 平成15年 平成18年 平成21年 平成24年
全体 ▲2.3％ ▲0.3％
（▲2.4％） 		＋3.0％ ＋1.2％
（実質▲0.8％）
施設 ▲4.0％ 平均±0％
（▲4％） 		＋1.3％ ＋0.2％
在宅 0.1％ 平均▲1％
軽度　平均▲5％
中重度　平均＋4％ 		＋1.7％ ＋1.0％
※（　　）は平成17年10月改定分を含めた率

��国の財政難
あがらない報酬の背景には、以下のような要因が横たわっています。

●日本の国家財政の逼迫
●少子高齢化の進展
●右肩上がりの成長が期待できない経済の低迷

これらの要因は、“制度の改正”といった表層レベルの話ではなく、世の中の大きな流れであり、例え政権交代等によって、一次的に福祉の経営環境が改善されたとしても、これまでの厳格化の流れは変わらないと思われます。

（２）求められる自立経営
��運営から経営へ
平成18年8月に「社会福祉法人経営の現状と課題」と題する報告書が厚生労働省の社会・援護局と全国社会福祉施設経営者協議会の幹部、学識経験者などからなる「社会福祉法人経営研究会」から出されています。この報告書は今後の社会福祉法人の改革の方向性が盛り込まれており、法人生き残りの要件として課題設定のベースとなるものです。以下、骨子を示します。

■基本的方向性
●施設管理から法人単位の経営へ

■法人単位経営実現のための主要なポイント
イ）施規模の拡大
ロ）新たな参入と退出のルール
ハ）ガバナンスの確立、経営能力の向上
ニ）長期資金の調達
ホ）福祉産業政策の確立

��東京都の経営適正化事業の事例
東京都では、平成23年4月15日に、学識経験者、弁護士、公認会計士、コンサルタントなどから構成される「東京都社会福祉法人経営適正化検討会（委員長　平岡公一お茶の水女子大学教授）」より「東京都社会福祉法人経営適正化検討会報告書」が出されました。 その中で、以下のような提言が行われております。

�� 社会福祉法人の課題を早期発見できる財務指標を明らかにし、これに基づき、東京都が各指標における詳細な経営分析が必要と考えられる水準等を定め、指導するよう提言
�� 課題パターンに応じた処方箋（経営改善策）を策定し、東京都が活用するよう提言
�� 重大な課題が解決されない社会福祉法人に対し、東京都が「合併」「事業譲渡」「事業廃止」「役員交替」などの行政指導や「解散命令」などの行政処分をする場合の独自の仕組みを提言

（３）多様化する利用者ニーズ
急速に進展した都市化の動きは、家族を取り巻く状況や社会構造に大きな変化をもたらし、核家族を基本とした生活様式をさらに変貌させ、家事の外部化の進行や少子化・高齢化とあいまって多様な生活スタイルを生み出しました。 生活スタイルの多様化の進展とともに経済的豊かさを背景に、より高度で多様な福祉ニーズが供給サイドに求められるようになりました。
高度な介護ニーズの一般化や様々な生活スタイルや就労形態などに合わせた保育ニーズへの対応などのように、福祉サービスに対するニーズが多様化・高度化していくにつれ、限られた人に行政措置として「福祉」を一律に提供する既存システムは柔軟性と効率性の課題が顕在化し、システムそのものの改革が必要となってきました。 急速に進展する高齢化と福祉ニーズの多様化・高度化の流れといった社会の変容は、サービス提供システムを取り巻く環境に大きな影響を与えています。

（１）24時間対応型定期巡回・随時対応サービス
��24時間対応型定期巡回・随時対応サービスの概要
このサービスは、一日複数回の「短時間の定期巡回訪問」と、利用者からの通報により応対・訪問を行う「随時訪問」とを組み合わせたものとなり、「必要なタイミング」で「必要な量と内容」のケアを一体的に提供する新しいサービスです。
単身者や重度者をはじめとした要介護者ができるだけ在宅生活を続けられるように、日中・夜間を通じて、訪問介護と訪問看護が一体的、又は密接に連携しながら、サービスを提供します。
「定期巡回･随時対応型訪問介護看護」については、次の二つの類型が定義されています。

�� 一つの事業所で訪問介護と訪問看護のサービスを一体的に提供する介護・看護一体型
�� 訪問介護を行う事業所が地域の訪問看護事業所と連携をしてサービスを提供する介護・看護連携型（看護サービスのうち、居宅での療養上の世話・診療の補助は連携先が提供）
※いずれの事業形態においても、医師の指示に基づく看護サービスを必要としない利用者が含まれます。

■提供するサービス
��定期巡回サービス 訪問介護員等が、定期的に利用者宅を巡回しサービスを提供する
��随時対応サービス 利用者・家族等から通報を受け、オペレーターが対応するサービス
��随時訪問サービス オペレーターからの要請を受け、随時利用者宅を訪問しサービスを提供する
��訪問看護サービス 看護師等が医師の指示に基づき、利用者宅を訪問してサービスを提供する
※ 一体型定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業は��から��まで、連携型定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業は��から��までのサービスを提供する。

これまでの訪問介護では、１回の訪問ごとにサービス料金を支払う体系でしたが、このサービスでは、利用回数に制約はなく、１か月単位での定額制であるため、訪問回数や滞在時間に囚われることなく２４時間安心して利用することができるサービスと期待されます。
しかし、利用頻度が高い利用者が多くいる場合や、一度にたくさんの利用者が出た場合等、人員を確保することが困難になり、制度自体が維持できなくなる可能性もあるため、利用者側も節度ある利用が求められます。

��24時間対応型定期巡回・随時対応サービス運営のポイント
24時間対応型定期巡回・随時対応サービスを運営するうえでのポイントは以下の３点です。

イ）登録制雇用から常勤雇用へのシフトチェンジ
ロ）事業所のサービスマネジメント能力
ハ）医療機関との連携

  イ） 登録制雇用から常勤雇用へのシフトチェンジ
これまで、24時間対応の訪問介護の積極的な事業展開を阻んできたことの１つは、やはり人的理由にほかなりません。訪問介護を行っている事業者の雇用形態は、いわゆる登録型ホームヘルパーが多いのが実情です。登録者の都合優先という状況では、24時間のシフトを組むのは容易ではありません。
登録雇用から常勤雇用を定着させるために、事業者側はホームヘルパーに対するスキルアヅプやキャリアアップなど能力・技能を高めるための工夫が必須となります。他の産業と同様にスタッフの評価制度を取り入れることも雇用定着につながります。
評価制度を実施する利点は雇用定着だけにとどまりません。社内でスタッフのスキルを把握しておくことができます。これは利用者のニーズに適切に応えるためのチームづくりに大いに役立ちます。一方、スタッフにとってのメリットは仕事に対する共通認識を持てる点にあります。私たちが求める人材はプロとして定着する人材ではありますが、スタッフの多くは出産や育児など生活環境の変化を余儀なくされる女性が多いのが実情です。ある程度は勤務形態に柔軟性を持たせる必要があります。勤務形態にばらつきがあるなかで信頼を保つために、ホームヘルパーとしての共通認識を持ち、スキルの標準点を設けることで、介謹に携わるホームヘルパーの力量というものが全体的に底上げできるのではないでしょうか。

  ロ） 事業所のサービスマネジメント能力
24時間対応型定期巡回・随時対応サービスの制度化に対してケアマネジャーの反応は二極化しています。今まで在宅系の介護サービスにおいて給付管理と予約管理に追われていたケアマネジャーにとって、プランの全容をつかむことが難しくなると捉えられているようです。在宅サービスが今まで以上に多岐にわたることが予想されるため、今までの出来高という捉え方で管理していこうと思うと、給付管理だけで手いっぱいになり、事業所間の連携、連絡をとるところまでは手が回らないと思われがちです。しかし、場合によっては訪問介護と訪問看護についてのケアマネジメントの部分は、事業所側と共存できるということに気づいているケアマネジャーは、利用者にさらに充実したプランを提供できることに期待を寄せています。
実際、サービスを提供する事業者側にサービスマネジメントの技量が求められており、ケアマネジャーの負担軽減につながると思われます。なかでも利用者の環境、病状の把握をベースに的確にサービス配慮できるかという点でオペレーターの役割は大きいものがあります。
近年、介護保険適用外のサービスを組み合わせて利用するケースも増えてきています。介護保険の適用内容をめぐって混沌とした時期もありましたが、ある程度整理され、また把握されて、利用者も事業所のサービス内容のボリュームや質に目を向け、事業所を選定する時代になっています。このような状況から事業者に今後求められるものは、サービス提供の差別化をすることで他社との共存をも果たしていく仕組みづくりです。在宅を市場とする事業者の経営的な努力は、まさにそこが要です。つまり、サービス内容のアピールと利用者を把握したうえでサービスを提案していくマネジメント能力が今以上に求められることになります。

  ハ） 医療機関との連携
この｢24時間対応の巡回・随時訪問サービス｣は、要介護３以上の中重度の利用者が想定されています。多くの場合、定期的な訪問看護サービスが不可欠になると予想されますが、絶対的に医師も看護師も足りないのが実情で、これが在宅介護にあたるうえで一番懸念される事項となっています。それらのマンパワー不足を補う必要もあり、一定の条件のもと、在宅でも介護職員に−部の医療行為（たん吸引や経管栄養の実施）が行えるよう検討がされています。施設においてはすでに行えるようになりました。介護職員がさらなる知識を蓄え、技術を磨く機会が増えたことは非常に前向きなことで、看護師にとっても、医療者としてのそのほかの業務に時間をかけることができるようになるため、以前より改善が望まれていた事項でした。
ですが、問題は患者の意識です。病院を出て在宅で治療にあたることへの不安感が強くあります。その不安を払拭するための決定打に欠けているのが、医療機関との連携です。
病院側にしてみれば、早期退院の患者を引き受けてくれる受け皿を求めてはいますが、今は在宅介護というものが受け皿の機能を果たすには及ばない状況でず。退院を促さざるを得ない病院と、在宅で療養を強いられる患者、そして在宅介護を預かる事業所、これらをつなぎ、円滑な引き渡しを可能にする仕掛けがまだまだ不十分であり、整備が必要だと思われます。
病診連携、診診連携というように病院と診療所、診療所間の連携は以前より積極的に進められてきており、「かかりつけ医｣の意義を高めてきました。また、在宅療養を不安視する傾向を受けて、病院と介護付き有料老人ホームのパイプラインが強化され、退院を機に入居を考えるというケースも少なくありません。
しかし、在宅で医療面の手厚いサービスを提供できる仕組みづくりができればどうでしょうか。他の連携機関に後れをとりながらも、同じような仕掛けが今後かたちとしてできあがると考えられます。

（２）複合型サービス
��複合型サービス
小規模多機能型居宅介護と訪問看護など、複数の居宅サービスや地域密着型サービスを組み合わせて提供する「複合型サービス」が創設されました。
これにより利用者は、ニーズに応じて柔軟に、医療ニーズに対応した小規模多機能型サービスなどの提供を受けられるようになります。また、事業者にとっても、柔軟な人員配置が可能になる、ケアの体制が構築しやすくなるという利点があります。

  イ） 現行制度
小規模多機能型居宅介護や訪問看護など、それぞれのサービスごとに別々の事業所からサービスを受けるため、サービス間の調整を行ないにくく、柔軟なサービス提供がむずかしいものでした。
小規模多機能型居宅介護は、地域包括ケアを支える重要なサービスですが、現行の小規模多機能型居宅介護は、医療ニーズの高い要介護者に十分対応できていませんでした。

  ロ） 新サービス創設後
１つの事業所からサービスが組み合わされ提供されるため、サービス間の調整が行ないやすく、柔軟なサービス提供が可能になりました。
小規模多機能型居宅介護と訪問看護を一体的に提供する複合型事業所の創設により、医療ニーズの高い要介護者への支援を充実することが可能になりました。
今後は、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の組み合わせだけでなく、その他のサービス同士が組み合わさり、今以上に医療との連携を強化した「地域包括ケアシステム」が推進されることが期待されています。

  ハ） 複合型サービス
下記のサービスを二種類以上組み合わせることにより提供されます。

■居宅サービス
●訪問看護
●訪問入浴介護
●訪問リハビリテーション
●居宅療養管理指導
●通所介護
●通所リハビリテーション
●短期入所生活介護
●短期入所療養介護

■地域密着サービス
●定期巡回・随時対応型訪問介護看護
●夜間対応型訪問介護
●認知症対応型通所介護
●小規模多機能型居宅介護

��複合型サービスの運営ポイント
  イ） 人材確保と定着につなげる教育が急務
医療現場でさえ看護師不足にあえぐ昨今、看護師を介護の現場にいかに留まらせるかは非常に難しい課題です。社会貢献という想いだけでは人の心をつなぐことはできません。ケアマネジャーについては、能力の範疇を広げられるような後押しが必要になります。
スキルアップ志向が強く自己投資を好む看護師たちには、医療現場に触れている充実感と将来に目を向けられるような道筋をつくることが必要です。
ケアマネジャーについては、訪問看護のプランニング能力を高めるための研修を実施することが有効です。さまざまなケースをあげ、必要なプランをつくり、医療面との連携をどのように進めるのかを実践的に行います。ここには、社内連携の確立というテーマも隠されています。訪問看護も在宅介護も今は１つのチームであるため、横の連携をとる必要があります。そこでスーパーバイザーというセクションをつくり、会議（カンファレンス）を行い、この介護では訪問看護側の担当者と介護分野の担当者が議論します。職種間の壁を取り払うにはしっかりとカンファレンスを行うことが一番の打開策であることは確かです。看護も介護も必要とする−人の要介護者に向かい合えば、どうすれば在宅介護を維持できるのか突き詰めることになり、真剣に対応せざるを得ません。知識不足が生み出す苦手意識の克服を促すためには、会社による作り込みが鍵なのです。実際に社内の連携がとれなければ地域連携を目指すことなど、まず無理な話です。

  ロ） 社内完結ではなく地域内完結が理想
地域包括ケアを考える時、介護保険制度で本当に在宅介護サービスのみで生活を維持できるのか、小規模多機能型居宅介謹と訪問看護を連携させれば、本当に終末期まで在宅を 可能にするのか、本当に施設入居の必要がない介護ができるのか――こうした疑念を払う報告が少しずつだが増えてきています。
たとえば、パーキンソン病で要介護度４の独居のＡさんは、訪問介謹やデイサーピスなど複数の在宅介護サービスと訪問看護を組み合わせるなどして在宅で生活を続けることができるようになり、特別養護老人ホームへの入所希望をとりやめたという報告があります。また、要介護度５でリウマチを患っている高齢者のみの世帯で、多様なサービスを利用し、やはり当初は特別養護老人ホーム入所希望であったが、入所希望を見送るという答えを出しています。このほかにも、在宅生活を維持できるという事例が増えているのです。
サービスが揃い、それを一元管理するケアマネジャーがいて、要介護者の在宅での生活を叶えるために細やかに対応すれば、終末期まで在宅で過ごすサポートが可能であることは実証されたのです。さらに、日常生活圏域が５km（30分内）程度と極めて狭い要介護者に対し、圏域内でサービスを受けられる環境を整えることが望ましいといえます。今後は、活動圏域が狭まるなかで終末期までそのようなサポートで在宅生活を維持するにはどうするべきかを考えていかなくてはなりません。現時点では、その課題の解決を目指して一事業者が自社内完結させる傾向にあります。１つの地域にいかに点を密築させ地域内シェアを確立させ、圏域を並べていくかという手法です。
しかし、その手法には限界があり、これからは他事業者のサービスを組み込みつつ地域内の医療とも連携をとりながら復合型サービスを実現させていくべきです。日常生活圏域内で医療・介護の両面を完結できることは要介護者にとっては理想的な環境となります。今後は、こうしたネットワーク事業を地域で行い、要介護者のニーズに合ったサービスを提供することを可能にする統合力が事業者に求められるでしょう。

  ハ） 医療ニーズはどこまで求められているのか
介護給付費分科会資料によると「今般、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の複数のサービスを組み合わせた複合事業所を創設し、看護と介護サービスの一体的な提供により医療ニーズの高い要介護者への支援の充実を図る」（第76回資料より）とする一文があり、医療面の手厚いサポートが必須のように読み取れます。では、いったいどの程度の医療ニーズが必要とされているのか、ここで、要介護者の医療ニーズについて検証してみたいと思います。まず、小規模多機能型居宅介護事業所における医療ニーズの利用状況を見てみましょう。

■医療ニーズのある主な利用者の状況
利用者状況
※厚生労働省「第76回社会保障審議会介護給付費分科会資料」平成23年6月16日

何らかの医療ニーズがある利用者数は、登録利用者数の約66％であるとしています。この数字は高く見えますが、内訳は「服薬援助・管理」「浣腸・摘便」「接触・嚥下訓練」が上位にあがっています。「服薬援助」、「嚥下訓練」や「浣腸」の一部は今でも介護業務として介護職が担っており、医療職のみ関わる業務ではありません。では、医療行為として占める内容はというと、たとえばインスリン注射で2％という具合です。イメージする医療行為とは違って感じられます。
さらに、新規登録に至らなかった人数のうち、医療ニーズへの対応が必要だった人の割合は8.8％。そのなかで、たとえば｢吸引・吸入｣を必要とする割合はというと、9.8％。これは登録をお断りした8.8％のなかの割合です。これを見る限り、医療ニーズのある要介護者を積極的に受け入れたところで、それほどシェアが広がるわけではないと考えられます。もちろん受け入れられる体制は必要ですが、事業展開を考えるうえで急務とは捉えがたいといえます。（下表参照）

医療ニーズ対応
※厚生労働省「第76回社会保障審議会介護給付費分科会資料」平成23年6月16日