高齢者住まい法が改正されたことでサービス付き高齢者向け住宅（以下、サ高住）事業に追い風が吹き始めています。この事業環境の変化に事業者は敏感に反応しました。23年５月に各地で行われた国の鋭明会では参加応募が始まるとすぐに予約終了になるほど関心が高かったようです。

（１）ビジネスチャンスとしての「サービス付き高齢者向け住宅」
高齢者住まい法の改正で新たに創設されるサ高住の新登録制度がスタートしました。これまでの高専賃（高齢者専用賃貸住宅）や高円賃（高齢者円滑入居賃貸住宅）といった複雑な類型がサ高住に統一されたわけです。改正を検討する過程では有料老人ホームもこれに含める案が出ていました。それは今回は見送られたものの、条件を満たせば有料老人ホームもサ高住として登録できるようになりました。
高専賃は７年かけて５万戸が整備されました。それをサ高住は年６万戸のペースで整備しようという供給促進のための改革です。
サ高住は、入居者が負担する費用は有料老人ホームよりも低く、近隣集合住宅の家賃程度で「厚生年金で無理なく入居できる水準」というミドルゾーンを設定しています（下図参照）。従来の介護施設や有料老人ホームなどが手薄だったこのマーケットにサ高住を普及させ、ケアを必要とする高齢者の受け皿にしようというのが政府の目論みです。

自己負担可能額

現在、特別養護老人ホームの待機者は42万人以上といわれ、しかもこれから団塊世代の要介護者が増えていくことから待機者問題の解消はこのままだと困難です。また医療では病院が入院日数の短縮など経営上の課題を抱えており、退院患者の受け皿施設の整備が急務となっています。こうした背景もあり、サ高住を急ピッチで整備するため改正法には思い切った事業者支援策が盛り込まれました。
多くの事業者が注目しているのは、建設のための補助金・融資・税制優遇といった支援措置です。
サ高住に登録するには設備やサービスの要件を満たすことが条件になります（下図参照）。住宅（ハード）面では25�岼幣紂�台所やトイレなどの設置、基本的なバリアフリー対応など。サービス面では常駐職員による安否確認や緊急通報の体制があることなどですが、ハードルはかなり低く設定されています。
この要件を満たすと補助金などを申請できます（下図参照）。建設費については100万円／戸を上限に補助金がつきます。また療養病床などからの改修でも100万円／戸の補助が出ることから病床転換に踏み切れなかった病院にとっては耳寄りな話でしょう。さらに所得税や法人税などの税制優遇もあります。公共工事は減り、医療介護もマイナス改定ばかりが目立つ昨今、これはサ高住を整傭する事業者にとってはビジネスチャンスです。

＜高齢者等居住安定化推進事業：H23年度予算額235億円＞
高齢者単身・夫婦世帯の急増に対応し、高齢者が安心して暮らすことができる環境を整備するため、国土交通省・厚生労働省が連携して行う高齢者住まい法改正により位置づけられる「サービス付き高齢者向け住宅」の建設・改修費に対して、国が民間事業者・医療法人・社会福祉法人・NPO等に直接補助を行う。

＜要件＞
●住宅（ハード）に関する要件
・原則25�岼幣紂、╋ζ瑛�用の居間、食堂、台所等が十分な面接を有する場合は18�岼幣�
・原則、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室の設置
・原則3点以上のバリアフリー化（手すりの設置、段差の解消、廊下幅の確保）
●サービスの要件
・次のいずれかの者が常駐するなどにより、緊急通報及び安否確認サービスの体制がある
  こと
  社会福祉法人、医療法人又は居宅介護サービス事業者の職員　等
●その他
・賃貸借方式又はこれに準じた契約とすること（長期入院等を利用した退去を防止）
・前払家賃等を受領する場合の返還ルール及び保全措置の実施
・近傍同種の住宅の家賃の額と均衡を失しないこと　等
＜補助率＞
住宅： 高齢者生活支援施設：
新築　国　1/10（上限　100万円/戸） 新築　国　1/10（上限1,000万円/施設）
改修　国　1/3（上限　100万円/戸） 改修　国　1/3（上限1,000万円/施設）
※「平成23年度高齢者等居住安定化推進事業について」より

（２）「サ高住」運営における今後の取り組みと問題点
改正高齢者住まい法のファイナンスや税制面の支援を追い風に積極展開を始めたいところですが、もう1つ事業の行方を左右するファクターがあります。
それが介護保険法の改正です。なかでも改正の目玉施策である地域包括ケアで、サービス付き高齢者向け住宅を地域の福祉拠点として整備する計画です。
ここを拠点に24時間巡回型訪問介護などを実施するといいます。中学校区ごとに整備されれば、地域で住み続けられる現境として大きな前進となります。しかしその運営方法で気になる問題が浮上しています。
サービスを提供する地域密着型サービスの事業者は、市区町村が公募選考で指定するというのです。そうすると、サ高住を開発しても別の事業者がテナントとして入居するケースも出てくるでしょう。そうするとサービスの重複も出てきそうです。
たとえば、入居者が緊急通報サービスを指定事業者と契約したとして、夜間の急変時にその事業者が到着するまでの時間は倫理的に当該施設のホームヘルパーが対応することになる、といった運営の難しさが懸念されています。また指定事業者制はマーケットの囲い込みです。事業者間の競争が阻害され、サービスの質も低下しかねません。
しかし介護保険法の改正をすべて否定しているわけではありません。ある程度の規制は業界のマナーや秩序のためにも必要です。保険者はサ高住を上手に活用して地域の介護を整備したらよいでしょう。事業者は今改正から少なからず影響を受けることが予想されるので開発する地域の保険者の意向を確認し、連携しながらサ高住を整備することが欠かせないのではないでしょうか。

2011（平成23）年６月15日に可決された｢介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律｣（以下、「介護保険制度改正案｣）では、「地域包括ケア｣が大きなキーワードの一つになっています。地域包括支援センターを核にしつつ、１万人程度の中学校区を基本とした日常生活圏域において、介護予防・日常生活支援総合事業や24時間対応などの新しいサービスを加えたさまざまな在宅サービスを利用するなかで、高齢者が住み憤れた地域で尊厳あるその人らしい生活を継続できることを目指す仕組みです。
この章では、この｢地域包括ケア」と｢新しいサービス（特に介護予防・日常生活支援総合事業）｣について、取り組むぺき課題と今後の展開を考察します。

（１）「地域包括ケア｣の推進
��｢地域包括ケア｣について
「地域包括ケア」とは、「高齢者の生活を地域で支えるために、必ずしも介護保険の保険給付だけでは十分ではないことから、まず高齢者のニーズに応じ、��住宅が提供されることを基本としたうえで、高齢者の生活上の安全･安心・健康を確保するために、��独居や夫婦二人暮らしの高齢者世帯､あるいは認知症の方がいる世帯に対する緊急通報システム、見回り、配食等の介護保険の給付対象でないサービス、��介護保険サービス、��予防サービス、��在宅の生活の質を確保するうえで必要不可欠な医療保険サービスの５つを一体化して提供していく」という考え方である）。

■地域包括ケアシステム
ケアシステム

この｢地域包括ケア｣を推進する仕組みや体制が「地域包括ケアシステム｣であり、その考え方については、すでに2003（平戚15）年６月、当時の厚生労働省老健局長の私的研究会である｢高齢者介護研究会｣により、「2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜｣のなかで報告されています。
この報告書のなかでは、「個々の高齢者の状況やその変化に応じて、介護サービスを中核に、医療サービスをはじめとするさまざまな支援が継統的かつ包括的に提供される仕組みにおいて、在宅サービスの複合化・多機能化、新たな住まいの形などが必要である」として、「地域包括ケアシステム｣が提案されています。
また2005（平成17）年の介護保険制度改正においては、介護予防の推進とともに｢地域包括ケアシステム｣の構築が進められ、その一環として｢地域包括支擬センター｣が創設されています。
今回、2008（平成20）、2009（平成21）年度の老人保健健康増進等事業として実施された｢地域包括ケア研究会｣による報告書では、先をさらに−歩深めた形で｢ニーズに応じた住宅が提供されることを基本としたうえで、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常生活の場（日常生活圏域）で適切に提供できるような地域での体制｣と定義されています。
特に｢ニーズに応じた住まいの提供｣については、2011（平成23）年２月に閣議決定された｢高齢者の居住の安定確保に関する法律等の−部改正｣（高齢者住まい法の改正）を基に、厚生労働省と国土交通省の連携による｢サービス付き高齢者向け住宅｣の供給促進が進められています。
一方、2010（平成22）年７月には、厚生労働省社会・援護局に安心生活創造事業推進検討会が設置され、地域住民が｢見守り｣や｢買物支授｣を検討する安心生活創造事業が提案されています。
こうした流れは、高齢者を取り巻く環境の変化等に適切に対応し、高齢者が地域で暮らし続けられる｢真の地域包括ケア｣を実現していくため、地域の実情を踏まえて｢わが町の地域包括ケアシステム｣を構築することに他なりません。

��｢地域包括ケア｣に向けた課題
「わが町の地域包括ケアシステム｣の実現を踏まえれば、住み慣れた地域のなかで｢在宅介護の限界点をいかに伸ばせるか・高めるか｣が大きなポイントとなってくるとともに、解決しなければならない課題も出てきます。この点について、2010年度に実施された全国の地域包括支援センター管理者を対象とした｢地域包括ケア推進指導者養成研修｣などでは、次の７項目を課題としています。

■「地域包括ケアシステム」に向けた課題
�� 介護サービスの充実強化
⇒特養などの介護拠点の緊急整備・24時間対応の在宅サービスの強化
�� 医療との連携強化
⇒24時間対応の在宅医療、訪問看護やリハビリテーションの充実強化
�� 予防の推進
⇒できる限り要介護状態とならないための予防の取組や自立支擾型の介捜の推進
�� 高齢期になっても住み続けることのできる高齢者住まいの整備
⇒高齢者専用賃貸住宅と生活支扱拠点の一体的整備・持ち家のバリアフリー化の推進
   （高齢者住まい法の改正）
�� 多様な生活支援サービスの確保や権利擁護など
⇒一人暮らし、高齢夫婦のみ世帯の増加、認知症の増加を踏まえ、様々な生活支援
   （見守り、配食などの生活支援や財産管理などの権利擁護サービス）サービスを推進
�� 介護職員の資質の向上と処遇改善
⇒医療との連携促進、たんの吸引などを可能に
�� 自治体におけるニーズ把握とこれに基づく第５期事業計画の策定
⇒日常生活圏域の高齢者実態調査による生活実態の把握と第５期事業計画策定への
   活用定期巡回・随時対応型訪問介護看護

これらの課題解決のためには、�＿雜遏↓�医療、�Ｍ祝鼻↓そ擦泙ぁ↓ダ験荵抉腑機璽咼垢裡気弔了訶世任亮茲蠢箸澆�、包括的（利用者のニーズに応じた�　銑イ療�切な組み合わせによるサービス提供）、継続的（入院、退院、在宅復帰を通じて切れ目ないサービス提供）に行われることが必須となってきます。 この包括的・継続的な仕組みを考えることは、日常生活圏域の介護サービス基盤を考えるにもつながり、次項以降に述べる｢新たなサービス」判断の大きな要素となります。また、地域のどの圏域にどのようなニーズをもった高齢者がどの程度生活をしているのかといった現状の把握も重要なポイントとなってきます。

（２）「介護予防･曰常生活支援総合事業｣の創設について
��「介護保険制度改正案」の内容について
「新たなサービス」（ここでは、介護予防・日常生活支援総合事業のみについて）の創設については、まず、法案に盛り込まれた内容から確認します。

■「介護保険制度改正案」の内容１
第一　改正の趣旨
第二　介護保険法の一部改正
第三　老人福祉法の一部改正
第四　社会福祉法の一部改正
第五　健康保険法等の一部を改正する法律の一部改正
第六　社会福祉士法及び介護福祉士法の一部改正
第七　社会福祉士法及び介護福祉士法等の一部を改正する法律の一部改正
第八　福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律の一部改正

■「介護保険制度改正案」の内容２
第二 介護保険法の一部改正
一 国及び地方公共団体の責務
二 認知症に関する共団体の責務
三 新たなサービスの創設
四 指定都道府県事務受託法人に関する制度の創設
五 市町村及び都道府県による主体的な取り組みの推進
六 介護サービス事業者の労働法規の順守に関する事項
七 介護サービス情報の公表に関する事項
八 介護予防・日常生活支援総合事業の創設
九 地域包括支援センターの機能強化
十 市町村介護保険事業計画及び都道府県介護事業支援計画の見直し
十一 財政安定化基金の特例
十二 その他

■「介護保険制度改正案」の内容３
八 介護予防・日生活支援総合事業の創設
  1 市町村は、介護予防及び日常生活支援のための施策を総合的かつ一体的に行うため、厚生労働省令で定める基準に従って、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うことができるものとすること。この場合においては、市町村は次に掲げる事業のすべてにつき一括して行わなければならないものとすること。
  （一） 居宅要支援被保険者に対して、介護予防サービス等のうち市町村が定めるもの（指定介護保険予防サービス等を受けている居宅要支援被保険者については、当該指定介護予防サービス等と同じ種類の介護予防サービス等を除く。）を行う事業
  （二） 被保険者の地域での自立した日常生活の支援のための事業であって厚生労働省令で定めるもの
  （三） 居宅要支援被保険者（指定介護予防支援等を受ける者を除く。）の介護予防のため、（一）及び（ニ）の事業等が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助等を行う事業
  2 介護予防・日常生活総合事業（介護予防事業、介護予防ケアマネジメント事業及び１（一）から（三）までに掲げる事業をいう。）に係る費用負担は、介護予防事業と同様とすること

��「介護予防・日常生活支援総合事業」の創設について
「地域包括ケアシステム｣を踏まえ、高齢者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、地域支援事業として、「介護予防・日常生活支援総合事業｣の創設がされました。これについても市区町村の判断で導入を決めるとしており、2006（平成18）年４月〜現在の｢介護予防システム」の一部が変更となります。

● 市町村の判断により、要支援者。介護予防事業対象者向けの介護予防・日常生活支援のためのサービスを総合的に実施できる制度を創設。
● 市町村・地域包括支援センターが、利用者の状態像や意向に応じて、予防給付で対応するのか、新たな総合サービスを利用するのかを判断。
● 利用者の状態像にあわせ、見守り・配色等も含めて、生活を支えるための総合的で多様なサービスを提供することが可能になる。
サービスの内容は、��予防給付（介護保険給付）の一部と��日常生活支援（市町村の一般福祉サービス）を組み合わせたサービスを��介護予防事業（これまでの地域支援事業）に組み込んだ総合的なものです。
一方、利用者については、要支援者（要支援１〜２）・介護予防事業対象者のうち、「利用者の状態像や意向｣を踏まえて市区町村・地域包括支援センターが決定するとし、財源については、予防給付と同じく国庫負担25％、都道府県負担12.5％、市区町村負担12.5％、１号被保険者保険料20％、２号被保険者30％となります。 「介護予防･日常生活支援総合事業｣が創設されることにより、��予防給付（介護保険給付）の一部（予防訪問介護と予防通所介護）が、地域支援事業費に移し替えられる、��要支援者（要支援１〜２）が本人の意思にかかわらず、介護保険給付である予防給付を受けることができなくなる−といったことが考えられます。このため､改正法案が決議される際に｢介護予防・日常生活支援総合事業については、その創設においても要支援員認定者が従来の介護予防サービスと同総合事業を選択・利用する意思を最大限尊重すること。また国として財源を確保し、各市町村のニーズに応じて適切に実施するよう努めること｡｣が、附帯されています。