（１）無償の買い物代行サービスを利益に転換した事例
高齢者専用賃貸住宅や有料老人ホーム、グループホームなど約20移設を運営するA社では、食事サービスの直営・内製化を機に、他事業者と共同で食材の調達・配送システムを構築しました。同システムを活用することで、それまで実質無料で提供していた買い物代行を、利用者負担は増やさず利益を生み出す仕組みへの転換に成功しています。

��｢地域包括ケア｣について
同社では、買い物代行は、もともと３０分1,000円の保険外サービスに設定されていました。しかし実際には、職員の無償サービスで提供されていたのが実情でした。
以前から、入居者の買い物代行の依頼は多く、なかでもヨーグルトなどの乳製品や駄菓子、日用品などのニーズが高かったといいます。しかし、そうした安価な買い物代行で、なかなか1,000円は受け取りにくく、また業務効率も悪いのが実情でした｡結局、「ついでの時にサービスで買ってくる」というのが現場では慣習になっていました。
特に自立型の高専便では、職員がそれほど忙しくないので、すぐにそうした無償サービスを提供しがちです。しかし、それが続けば､入居者にとって当然のサービスとなり、『ついで』がない時に急ぎで願まれても、職員は料金を受け取れなくなっていました。
とりわけ危惧されたのは、いずれ重度化とともに必要性を増す介護サービスが手薄になってしまうことでした。一見、手厚いサービスを提供しているようで、職員からは｢食事時に人が足りなくなるのでもう一人届ってほしい」という訴えが出るなど、明らかに悪い流れを生み出していました。
職員にすれば、きめ細かいサービスを提供しているつもりでも、忙しい時間に個別の買い物代行など業務効率の悪い無償サービスを提供する結果、本来力を入れるべき介護サービスの質の低下につながっては本末転倒です。

��食材の配送ラインを活用しカタログショッピングを実現
そうした折、同社が進めていたのが食事の内製化です。当時は外注を活用していましたが、入居者の一番の楽しみでもある食事に力を入れるには内製化が不可欠と判断したといいます。その際、同じエリアで高専賃を中心に展開し、すでに内製化を実現していたB社に相談。その後、両仕で業務提携を結び、A社の全施設に導入することで日々の食材の供給・配送を行う新会社設立に至ったといいます。
この新たな食材の配送システムを活用することが買い物代行の問題解消につながりました。
入居者はカタログを見て注文し､翌日の配送で食材と一緒に届くシステムを確立したところ、それまで買い物代行で頼まれていたものがそのまま移行する形でコンスタントに注文を受けているといいます。配送ラインが共通なので、送料を負担せずに済み、利用者に新たな負担がかかることもありません。
使い勝手のよさに気づいた利用者の利用頻度は増え、月々の注文数は増加しているそうです。
しかも注文が入れば５〜10％の手数料が仕入れ元から同社に支払われます。
単価も安いため、それ自体で売上を上げるための事業にはなり得ませんが、これまで買い物代行にかかっていた効率の悪い人件賀が不要になったことは、非常に大きいといえます。

��非効率なサービスをなくし本来のサービスの質向上に
しかし、同サービスの開始にあたっては、反発する職員も少なくなかったそうです。その代表的な声が、「希望する時に買い物代行できないのは、サービスの低下につながるのではないか｣というものでした。しかし、前述のように非効率な無償サービスをなくすことで確保できる人員を本来のサービスの質の向上にあてることがA社の狙いです。
その1つが、現在進めている自立型高専賃の共用スペースを利用した小規模デイサービスとフィットネスのスタートだといいます。
A社が自立型高専賃を開設して初めてわかったのが、入居者のＡＤＬの低下が想像以上に早いことでした。そして、その大きな原因は、買い物代行の無償提供に代表されるような、「自立者への至れり尽くせりのサービス｣だと考えられます。自分で外出できる身体機能がありながら、居心地が良すぎることで部屋に引きこもってしまう。そうしたことを防ぐために、今後はフィットネスなどADL維持につながるサービスにA社はより人件費をかけていくつもりです。
また、同じ考えから各施設間を定期巡回するシャトル便もスタートさせました。以前はやはり職員による無料送迎が常態化しており、必要な時に人がいない状況をつくり出していたといいます。シャトル便を出すことでその問題を解消するとともに、それぞれの施設のイヘントを共用できるようになります。
施設規模で当然共用スペースの大きさも異なるため、それぞれ提供できるイベントは異なることから、今ではどちらの人居者も双方のイベントに気軽に参加できるようになり、非常に喜ばれているといいます。また、人居者の外出機会も増えたそうです。

（２）保険外の訪問マサージが福利厚生から人材確保までさまざまな相乗効果を創出
訪問介護を中心に全国100拠点以上で介護関連サービスを展開するC社は、医療・介護従事者をメーンターゲットに据えたマッサージ治癒院を開院しました。従業員への福利厚生に加え、他事業者との関係強化や人材確保など、さまざまな柤乗効果を生み出しています。

��介護業界への貢献とともに人材確保のメリットも
介護の仕事は肉体的にハードで、体を痛めてしまっている人も多く、離職率を高める一因となっています。そこで、C社では医療・介護従事者の健康向上を目的に、マッサージルームの開院を決めました。
同社は訪問介護を中心に、居宅介護支援、通所介護など約20都府県で100拠点以上の介護関連事業所を展開しています。また近年は、介護保険以外のサービスとして訪問マッサージ、東洋医療事業を本格スタートし、地域に密着した介護関連サービスの幅を広げています。そこで培ったノウハウと、冒頭で紹介した思いとが重なり、マッサージルームの開院につながりました。
当初は、自社職員への福利厚生の一環にと考えていましたが、対象を業界全体に拡大し、同社およびグループ企業職員は定価（１時間5,200円）の５０％オフ、他の医療・介護従事者は30％オフに設定しました。
介護業界は、会社の垣根を越えたつき合いがたくさんありますし、社是にあるように地域社会の輪を広げていきたい、というのがC社の考えだそうです。これにより業界全体に貢献するとともに、相乗効果としてケアマネジャーなどとの関係強化や人材確保につなげたいという狙いもありました。
非常勤のヘルパーの場合、複数の事業所にかけもち登録している人が多いが、C社のことを知れば、登録する人もいるだろうという期待があったといいます。
現在、オープンから順調に顧客を増やし、わずかひと月足らずで、１日平均１０人と出足は好調です。利用者の内訳は、自社および他の医療・介護従事者が２５％ずつ､残りの50％が一般客で占められています｡なお、一般の利用客では仕事帰りのサラリーマンなどが多いそうですが、７５歳以上の後期高齢者も30％割引の値段設定にして利用者の増加をにらんでいます。これは介護事業者として高齢者へのサービスを充実させるとともに、サービスの隙間を埋めることで相乗効果を図るためです。
マッサージルームを訪れることが難しくなれば、訪問マッサージを利用してもらうことが可能です。今後はさらに周知活動を行い、利用者数を１日２５人平均まで伸ばすことが当面の目標だそうです。

��視覚障害者の雇用促進で新たなビジネスチャンスも
同事業のスタートにあたっては､思わぬ副産物もありました｡国家資格であるあんまマッサージ指圧師は、視覚障害者への社会参加推進のため、政策的に視覚特別支援学校等で技術習得をさせてきた経緯があります。同社ではそうした視覚障害者への雇用創出を考えての事業でもありましたが、それを聞きつけて障害者法定雇用率1.8％以上達成に苦戦している企業からの問い合わせが数多くあったといいます。
障害者雇用促進を目的に設立される特例子会社は、大抵が赤字部門であり、どの企業も苦労しています。それであれば『視覚障害者による医療・介護業界で働くための治療院』としてパッケージ化することで、新たなビジネスチャンスも生まれると気づきました。
同社では事業のパッケージ化に取り組み、すでにコンサルタント事業やフランチャイズ展開の目途も立っているそうです。

��リストラの苦い経験を成功の糧に
現在は順調に業績を伸ばしている同社だが、かつては苦い経験も味わいました。介護保険スタート当初から親会社の拡大戦略に基づき全国展開を進めた結果、最盛期は300を超える事業所を有していたものの、次第に事業赤字が膨らみ、事業所の閉鎖に伴う人員整理を余儀なくされました。その後、紆余曲折を経て、親会社との資本関係を解消しました。親会社の後ろ盾なしに赤字経営を立て直さなければいけない厳しさはありましたが、「退職勧奨はしない」という強い決意のもと、人は切らない事業所の整理で乗り切ったといいます。その時の記憶と経験が今の同社を支え、同事業のスタート・拡大へとつながっています。
マッサージルームは今後、１つの保険外事業でとどまることなく、同社のシンボルツリーたる事業へと成長していくのかもしれません。

（３）施設情報の提供とコスト適正化で入居希望者と施設経営者を支援
訪問介護、居宅介護支援、福祉用具貸与･販売を展開するD社は、独自の機能を備えた有料老人ホーム等の情報を掲載するサイトを開設しました。その翌年には、同サイトに登録しているユーザーサービスの一環として｢コスト適正化サービス｣を開始し、光熱水費の削減など介護施設等の運営を改善するサービスとして注目を集めています。

��業界初の機能を備えた施設情報提供サイトを運営
現状の国の財政から考えると、介護報酬だけに頼った事業を展開していては今後、経営が先細りになる可能性があります。D社では介護報酬だけに頼らない新たなビジネスの必要性を感じていました。
D社が新たなビジネスを模索するなか、まず着手したのが首都圏の有料老人ホームや高齢者向け住宅の情報を提供するサイトの運営です。同サイトはＭ＆Ａで取得し､翌）年にリニューアルを実施、機能の大幅な見直しを図りサービスの充実を実現させました。同サイトは現在、東京都の新事業活動促進法承認事業に認定されるなど各方面から注目されています。
同サイトの大きな特徴は、施設側と入居希望者側のニーズを結びつける｢マッチング機能」と、実際の入居者からの声を紹介する「口コミ槻能｣にあります。「マッチング機能」とは、入居希望者が自身のADLの状態や希望する場所、金額などを登録、その情報をもとに同サイトに登録している施設が直接入居希望者に自施設を紹介できるというものです｡一方｢口コミ」機能は、同サイトから実際に施設を見学したり、入居を決定したユーザーからの書き込みのみを掲載、入居しないとわからない施設の雰囲気や正確な情報を得ることができるよう工夫されています。
この他にも同サイトからの入居契約者にプレゼントをするなどの展開をしているのも同サイトならではのサービスです。D社では長年にわたり介護サービスを提供してきたからこそ、入居希望者と施設側それぞれの目線に立ったサービスの提供が実現できたのだと思います。

��法律や規約に遵守したコスト適正化の手段を伝授
サイトは初期費用が１施設当たり３万円（通常コース）、システム管理費が年間３万円のみで、広告掲載科などのランニングコストはかからず、同サイトからの入居が決定した際の成果報酬費のみが発生する仕組みになっています。リニューァルを機に登録施設数を伸ばし、現在は400件を超えています。
このように低価格を売りにしている同サイトではありますが、各施設に高いコスト意識が求められる昨今、このような投資に対する決断に迷う事業者も多いそうです。そこで同社が次に始めたのが．介護施設向けのコスト適正化事業です。
「結果が見えないものに費用をかけることができない」と言われる施設に対して、「D社が利益を出せるように文擾するので、そこから費用を出してはいかがでしょうか｣という話になったことがこのサービスを始めたきっかけだそうです。
本格的に開始した同サービスは、同社が懇意にしているコンサルタント会社と提携しながら、電気料金や水道料金などの光熱水費をはじめ通信科、テナント科、ビルメンテナンス科などのコスト適正化をサポートします。開始からまだ間もないが、これまで有料老人ホームやグループホームなど300を超える事業所からの依頼があり、削減額は全体でｌ億円以上にものぼっているといいます。
このサービスは単純なコストの「削減」ではなく、コストの「適正化」であることが特徴です。機器の取りつけなどリスクを伴うような設備投資はせず、法令や規約を遵守した方法で適正化を図っています。
適正化の具体的な手法をここですべて明かすことはできませんが、光熱水費であれば料金支払いプランの見直し、ビルメンテナンス料であればスプリンクラーやエレベーターの点検費用の見直しなどがあげられます。水道料金は最大で約70％、平均にして58％の削減を図っています。また、ビルメンテナンス科も平均で約５０％の削減を実現させています。

■有料老人ホーム（80床）のコスト適正化の例
（単位：円／年）
項目 導入前料金 導入後料金 削減額 削減率
電気 14,586,600 13,412,111 1,173,889 8.0％
ガス 3,867,800 3,167,520 700,280 18.1％
水道 3,650,000 1,043,000 2,607,000 71.4％
通信 914,000 714,500 199,500 21.8％
ビルメンテナンス 756,000 378,000 378,000 50.0％
年間コスト削減額 23,773,800 18,715,131 5,058,669 21.3％

同サービスは１〜３年間の契約制で、支払報酬は契約期間によって割合が異なります。１年契約の場合、減額分に対する７５％、２年契約であれば1年目は50％、２年目は30％、３年契約では各年30％となります。費用に関しては実際にコストの適正化に成功した金額のなかから支払います。仮にコスト適正化がされなければ一切費用は発生しません。
同サービスを初めて利用する人からは、「本当にコストの適正化ができるのか｣と言われることもあるといいますが、実際に適正化に成功すると、「他の施設でもアドバイスをしてほしい」と信頼を寄せるようになるそうです。
サイトのリニューアルなどに多額の初期投資をしましたが、これら２つのサーピスが相乗効果を発揮したことで顧客数を増やし、運営は徐々に軌道に乗ってきています。現在は首都圏の施設を中心にサービスを提供していますが、今後はニーズに応じて、中部や関西エリアへの展開も視野に入れています。
「適正化サービスとサイト運営を両輪に、将来的には人材派遣サービスなど有料老人ホームとのネットワークづくりをするなどインフラ整備を進めていきたい」とD社は意気込みを見せています。

（４）介護保険では対応できない日常生活上のトラブルに緊急対応
E社は、介護保険サービスと保険外サービスを効果的に組み合わせて、利用者の「かゆい所に手が届くサービス」を提供しています。
近年、生活上のトラブルに緊急で駆けつける某緊急駆けつけサービスの販売代理店契約を締結、介護保険サービスだけでは対応できない、日常生活上のあらゆる「困りごと」に対応したサービスが好評です。

��訪問マッサージや家事代行など利用者ニーズにきめ細かく対応
E社は訪問介護と訪問入浴サービスの提供を皮切りに、居宅介護支援、訪問看護を展開、さらに通所介護、居宅介護支援、福祉用具貸与・販売、住宅改修を開設するなど、幅広い在宅サービスを提供しています。
同社は｢質の高いサービスの提供とともに､利用者のあらゆるニーズに応えられる拠点にしたかった」と、サービスを拡大してきた背景について説明しています。
近年、同社ではさらなるサービスの充実化を図るべく、介護保険外サービスにも力を入れ始めています。訪問マッサージがその１つ。身体機能の維持、改善を目的とした同サービスでは、医師の同意書があれば医療保険適用により1割負担で利用することができます。開始からまだ１年が経過していませんが、利用者の数を着実に伸ばし続けています。これまで専任スタッフが１人で実施してきましたが、こうした現状を受け、外部から協力スタッフを２人増員、サービスの拡大を図っています。
E社は｢『治療』という重々しいイメージを抱きやすい『リハビリ』とは違って、当社のマッサージはコミュニケーションを重視した『人の手のぬくもり』を感じていただけるサービスが特徴で、この点が利用者から好評なようです」と分析している。
また、ほぼ同時期に家事代行サービスも開始しました。千葉県が普及に努める新たなピジネスモデルへの取り組みを促進する｢経営革新制度｣に名乗りをあげ、「各種家事代行サービスと訪問マッサージの提供による顧客拡大への取り組み」というテーマで承認されました。同制度の承認を得たことで低利融資や保障枠の拡大など各種支援策が得られるので、経営上のメリットも大きいといいます。

��緊急駆けつけサービスを開始、利用者に”安心感”を届ける
同社の介護保険外サービスはこれだけにとどまりません。某緊急駆けつけサービスの販売代理店契約を締結しました。介護保険では提供できないちょっとした生活上のトラブルについて相談を受けたり、こうしたトラブルに対して、どこに相談したらよいかわからない、という問い合わせが多くあり､E社が窓口となって応えていこうと考えたそうです。
同サービスを開始してまだ間もないですが、すでに利用者からトイレや空調に関するトラブルなどの問い合わせがあったといいます。これまでなら、介護職員やケアマネジャーなどが直接対応したり修理業者に依頼したりすることも多く、介護職員に負担がかかることもありました。しかし同サービスの導入により、このような職員の負担がなくなったうえ、利用者に２４時間いつでも専門スタッフがすぐに駆けつけてくれるという“安心感"を提供できるようになったといいます。
特に夜間のトラブルでは、ほとんどの利用者が「仕方がない」と我慢してしまうケースが多かったのですが、このサービスを利用することでこうした問題の解消にもつながりました。

��潜在利用者の発掘にも貢献､介護事業との相乗効果を図る
同サービスの提供によるメリットは他にもあります。利利用する高齢者だけでなく、その家族など一般の人からの問い合わせも予想以上に多かったそうです。同サービスの利用には年齢制限がないため、こうした一般の人との契約により、同社のアピールにつながるだけでなく、同サービスを通じた顔なじみの関係ができ、将来的な潜在利用者の獲得にも結びつきます。
代理店契約には一切費用がかからないうえ、会員を紹介すれば一定の手数料が入ります。さらに、新たな利用者の発掘にもつながるなど、このサービスの提供を通じて得られるものは非常に大きいようです。
今後は緊急駆けつけサービスの利用者をさらに拡大していきたいといいます。外部のケアマネジャーにサービスの説明をしたり､同社の介護サービスを契約する際に､保険外サービスとして勧めるなどＰＲ活動を行ってきましたが、今後はさらに積極的に進めていくつもりです。
保険外サービスに関しては将来的に、配食サービスやクリーニング代行などさまざまなサービスを視野に入れている同社。「当面は、『経営革新制度』に承認された訪問マッサージと家事代行サービス、そして緊急駆けつけサービスを保険外サービスの軸に、介護保険事業との相乗効果を発揮していきたいということです。

（５）介護タクシーのノウハウを活かし“交通弱者”の支援を進める
通院等乗降介助など車両を使用した介護保険サービスを実施する際に必要となる「福祉有償運送運転者講習｣。F社は、国土交通省の認可を受けて同講習会を実施、県内だけでなく県外からの受講もあるといいます。さらに出張講習も開催し、これまでに９００人以上の認定者を輩出してきた同事業所の取り組みを紹介します。

��県内外から120以上の介護事業所が受講
訪問介護サービスからスタートしたF社は、現在、居宅介護支援、デイサービス、福祉用具貸与・販売に加えて障害福祉サービスを展開しています。さらに近年、介護保険外サービスとして介護タクシー事業を開始、通院支援事業など市からの委託事業も実施しています。そして、最近｢福祉有償運送運転者講習」の認可を国土交通省（以下、国交省）より取得しました。
福祉有償運送とは、介護保険でホームヘルパーが福祉車両を使用して通院や外出支援などを行うサービスのことです｡2006年10月に道路運送法の改正が行われ、同サービスを実施するには、国交省の認可を受けた法人が実施する講習の受講が義務化されました。
F社があるエリアは交通網が未整備なところがまだたくさんあります。介護タクシー事業で培った運転に関するノウハウを活かしながら、近年増加している買物難民などの「交通弱者」を支援する介護事業所を増やしたかったと、F社は実施の経緯を脱明します。
開始以来、年３〜４回のペースで同講習を実施していますが、これまで120以上の介護事業所が受講しています。県内だけでなく、県外からも受講を希望するケースも多いそうです。さらに、同社では出張講習も行っており、これまでに県内約60の事業所で出張講習を実施した実績をもっています｡
最近行った講習会では、定員25人に対し、50人を超える参加者があったといいます。
リピーターが多く、１度受講した介護事業所が定期的に受講するケースが多いようです。

��安全運転やエコドライブなど運転方法を見直すきっかけに
福祉有償運送運転者講習の内容は表のように、講義と実技の２部構成で、受講者の負担を減らすために１日ですべてを修了できるようにしています。そのため、受講者には事前課題を提示､予習をしてもらうことで当日の講義がスムーズに進められるよう工夫しています。

■福祉有償運送運転者講習実施内容
   イ）講義
科目名 講習の内容
関係法令に関する講義 安全ルールの遵守等道路交通法、道路運送法、その他の福祉有償運送の実施に当たり必要となる関係法令等の基礎的な知識等に関すること
安全・安心な運行と緊急時の対応に関する講義 日常点検等、安全・安心な運行に必要な基礎知識、交通事故や利用者の体調不良等の緊急時に的確に対応するための知識や方法に関すること
運転方法に関する講義 安全運転の基礎知識および運転時における適性や基本的な動作、利用者の乗降時における運転方法等に関すること
障害の知識および利用者理解に関する講義 障害についての知識および利用者理解に関すること
基礎的な接遇技術および介助技術に関する講義 基礎的な接遇に関する技術及び利用者が必要とする援助に対応するための介助技術に関すること（演習を含む）
福祉自動車の特性に関する講義 多様な福祉自動車の仕組みや取扱の方法等に関すること（演習を含む）

   ロ）実技演習
科目名 講習の内容
福祉自動車の運転方法等に関する演習 福祉自動車の運転方法及び利用者の視点に関すること

講義は運転や車両に関するものだけでなく、障害に関する知識や接遇、介助技術なども盛り込まれており、古武術を使った介助方法を伝えるなど、介護全般の知識や技術の幅が広がるように努めています。
介護事業者が同講習を実施するケースは珍しいですが、受講した人からは、「人を乗せて運転することは命を預かること。常に安全運転を心がけるようになった｣｢ていねいな加速や減速などエコドライプを意識するようになった｣など、運転に対する意識が変わったという声が多く寄せられているそうです。
現在、デイサービスの送迎に関しては福祉有償運送運転講習の受講義務はないが、運転の技術や知識を磨こうと、デイサービス事業者の受講が目立つようになってきているといいます。さらに、運転技術を見直すために、介護従事者ではない一般の申し込みが増加するなど、受講者の幅を広げています。

��障害福祉と保険外に力を入れ安定した事業運営をめざす
同社では介護タクシー事業や障害福祉サービスに力を入れていることもあり、男性スタッフが多いです。特に男性の場合、介護の世界を志しても待遇面などで離職してしまうことが多いのは周知のとおりです。そこで同事業所では、介護保険サービスを中心に障害福祉サービスや保険外サービスによる相乗効果を図ることで、待遇改善に努めています。男性職員が将来のことを心配しないで働き続けられるようにしていくことが今後の課題であり目標だそうです。 さらに最近では、福祉有償運送運転者講習の様子や日頃の業務をブログやツイッターを通じて情報発信しており、リアルタイムな情報をホームページ上で公開することで事業所のＰＲに努めています。

（１）中国での基盤づくりと建設バブルに沸く中国の現状
日本国内の介護市場は、ここ数年は拡大を続けているものの、規制強化や事業者間の競争激化などにより、事業環境は厳しさを増しています。一方、中国は一人っ子政策の影響で日本以上に急速な少子高齢化が予測されています。しかも、共働きがほとんどで、親（祖父母）に子育てを任せるのが一般的な家族の暮らし方です。しかし、ひとたび子育てしている祖父母が要介護状態になれば、家族の暮らしは立ちゆかなくなるでしょう。そうした時に外部サービスの介護が必要になります。中国でも施設整備の取り組みが急務となっています。
現在、有料老人ホーム事業を試みる日本企業もあるようですが、建設バブルの様相でつくることが目的となっている面がありソフトの部分が欠けており、きめ細かく行われる日本式介護（以下、日式介護）への注目が集まっています。
中国で介護という事業はすでに存在しているものの、その内容はかつて日本の病院にいた付き添いさんのような仕事で、利用者のことをアセスメントするような日本の基準やマニュアルのようなものはありません。職業資格や介護サービスの規定もない状態です。まだ、具体的な介護のシステムがないのです。
中国は市政府が大きな権限を持っており、例えば大連市は2010（平成22）年４月に｢大連市都市部、農村部の祉区（コミュニティ）養老サービスセンター設立および推進事業３年計画」を発表している。これは日本の「市町村介護保険事業計画｣や｢郁道府県介護保険事業支援計画｣にあたるものです。ここに書かれている社区養老サービスの事業モデルを紹介しましょう。

● １つの社区養老サービスセンターの受け入れ基準は高齢者2,000人
● 全市の都市部、農村部に255カ所の社区養老サービスセンターを設立する
● 民営公肋、公設民営で整備する
● デイサーピス、ホームヘルプ、相談サービス、緊急通報、健康リハビリテーション、メンタルヘルス、文化活動などを担う
● 施設要件：立地は高齢者の外出に便利な場所。敷地面接200�屐■崖�建以下。日中休 憩室、娯楽室、図書学習室、健康リハビリテーション室、厨房の｢４室１厨｣。パリアフリーに配慮する

大連市ではこのような地域の介護拠点の整備が始まったところです｡現状は介護保険のなかった15年前の日本と酷似しています。しかし､現地の介護ニーズを考えると日本の５倍のスピードで介護が普及していくでしょう。

（２）現地における研修事業
現地で実施する介護ヘルパー研修は７日間コース程度がよいでしょう。

■研修内容の例
    実技項目 内容
第１回 午前 【高齢者の特徴】 高齢者の特徴
介護での注意点・プライバシーの拝領
高齢者疾病の知識
午後 【接遇の基本】 接遇体験
介護の基本、応対の基本用語
ご利用者様・ご家族への対応
第２回 午前 【基本動作の注意点・留意点の説明】
【ベッドメイキング】 		腰痛予防・ボディメカニクス
ベッドメイキングの方法
体位変換・褥瘡の予防法
午後 【衣類着脱の説明および実演】 衣類着脱の介護
適した素材、注意事項
第３回 午前 【口腔ケア】
【食事介助】 		誤嚥・誤飲予防・口腔ケア
食事の介助
午後 【車いす介助】
【杖歩行者の介助】 		車いすの説明、取扱い方法
車いす・杖での移動の介助
第４回 午前 【清潔の説明および実演】 清潔の意義
ベッド上の洗髪の方法
清拭・シャワー浴の介護
清潔の方法（手浴・足浴）
午後 【排泄の介護方法】 排泄、尿失禁の介護
注意点
第５回 午前 【予防介護】
【心のケア】 		予防の重要性
ケアの質の向上
午後 【医学の基礎知識】
【緊急時対処法】		 緊急時対処法（骨折・やけど・中毒・誤嚥等）
三角巾の利用、ほか
第６回 午前 【運営・管理】 寄り添うケア
記録・連絡・報告
午後 【介護技術】 総復習
第７回 認定試験 【総まとめ】
技能・技術総チェック
反省会

基本的な介護技術をマスターすることが目的で、講座の内容は移乗や排泄などの介助方法、高齢者に関わる医療知識、介護計画作成などです。テキストや介護記録簿などの教材は日本で使っているものを翻訳して持ち込めばよいでしょう。日本人講師を派遣してもよいですが、同時通訳に時間がかかりすぎるので中国語のみで講義をしていった方がよいでしょう。
参加者の募巣は地元の職業安定所や新聞広告で行い、大卒22歳以上の人たちに参加してもらいます｡
これまでも現地では介護ヘルパー研修が:実施されていました。しかし、それは中国労働局主催の１日研修程度のものであり、本格的な介護ヘルパー研修はあまり実施されていないようです。今後は養老院などへ研修の提案をしていくとようでしょう。これは受託事業として進めていくべきです。

（３）曰本のメーカーと提携しながら事業拡大を目指す
在宅介護サービスと合わせて介護用品の卸売りも行っていくことも十分視野に入ってきます。現地法人の事業許可は卸売りまでで直接の販売ができないのですが、養老院や薬局などへ日本の介護用品を積極的にアピールしていき、その道筋を開発していくのです。これは在宅介護というソフト面が整備されてこそ実現できることであります。
現在、中国では日本のような介護用品が普及していません。何もないのです。だからこそ、その便利さを実感してもらえれば、必ず受け入れられるでしょう。しかし、たとえば、養老院の職員に尿取りパットを見せてもその使い方を理解してもらえないため、購入の動機に結びつかないのが現状です。このような事情から中国に進出した日本メーカー各社は営業で苦戦していました。そこで、先述の研修事業等のソフトと一緒に提案する営業戦略を展開していくことにより、商品購入へつなげることが可能になると思われます。一度使って便利さを味わってもらう、実際に使用する機会をつくることが重要です｡中国では｢日式｣がブランドなのです。
今後、メーカーや商社と組んでの卸売り事業は中国に進出した介護事業者の重要な事業になることでしょう。

（４）海外展開の先に見えてくるもの
今、現地では建設バブル全盛でハコモノ事業はすぐに実現できる状況にあります。有料老人ホームの建設計画もよく聞きますが、パリアフリー対応や運営のところでつまずいた案件がいくつか持ち込まれています。介護事業者はそこにソフトを提供できると思われます。日本での経験から利用者や家族への配慮や介護サービスなど、さまざまなかたちで「日式介護｣を提案していくことができます。それを受け入れる土壊が中国にはあり、事業拡大のチャンスもさることながら、何よりもそこにはともに発展していく充実感があります。
また、そう遠くない将来、高齢社会を迎える日本では手厚い介護を受けることが経済的にも制度的にも困難な人々が増加し、介護ビザでそのような日本人を受け入れるような時代が来るかもしれません。その時には、これから育成していく中国の介護職員たちがその担い手となるでしょう。