（１）医療法人化の活用ポイント
● 節税　⇒　役員報酬の支給、生命保険の活用可能
● 退職金の支給が可能になる
● 事業継承がスムーズ　⇒　理事長交代でよい
● 社会保険支払基金からの入金時に源泉徴収されない
● 介護事業等の法人格が必要な附帯事業が行なえる
● 決算期を自由に設定できる
● 病院の場合　⇒　開設者の死亡等による開設許可取消のリスクが解消される

個人経営の事業承継を検討する場合には、開設許可取り消しのリスクが問題に挙げられます。
個人事業の場合、空床があれば開設許可が下りないという問題がありますが、医療法人の場合は、法人が開設者となっている場合は、事業承継の際にも理事長の変更で済むため、スムーズに進めることができます。

（２）役員退職金の支給と生命保険の活用
医療法人化は、会計担当者にとっては大きなビジネスチャンスです。役員退職金を算定し、その支給原資確保のための生命保険の活用メリットを提案します。

イ） 役員退職金受取可能額の算出
　


＜功績倍率の設定＞
　　理事長　　　 医療法人在職年数　　 20年
　 退職日現在の月額役員報酬　　 200万円
　 功績倍率 ３倍
　 　
ロ） 退職所得控除による軽減
　
● 勤続年数20年以下
　 　40万円 ×〔勤続年数（１年未満の端数切上げ以下同じ）〕
　 　
● 勤続年数20年超
　 800万円＋　70万円×（勤続年数−20年）
　 　
ハ） 生命保険を活用した退職金原資確保の提案
　 →必要退職金確保のために、パターン別保険料を算出、シミュレーションを提示する

医療法人化を検討する際、「出資持分の定めのない法人は、最後は国に没収されてしまう」という懸念を抱くことがあります。実際、定款にはそのように規定されますが、退職金の支給等で残余財産のコントロールが可能です。

【リスク及び回避ポイント】
● 個人事業と異なり、お金の自由が利かない
⇒多額の個人的支出がある場合時期を待つ、役員報酬の設定
● 社会保険に強制加入となるため、法人の負担が増加
⇒節税メリットとの比較
● 収入が減る等節税メリットが無くなっても、簡単に個人に戻れない
⇒個人に戻っても同じ
● 残余財産が国、地方公共団体等に帰属してしまう
⇒役員報酬、退職金でコントロール
● 定款変更、役員変更、登記、事業報告書等の提出など手続きが面倒
⇒プロが代行
● 出資持分の定めのない社団は、純資産の部の金額によっては、交際費の限度額がない（全額損金不算入）となるケースがある
⇒交際費支出額の確認、事前に説明

（１）設立貸付金の発生に注意
医療法人の開始Ｂ/Ｓを作成して、設立貸付金が発生しないか確認しましょう。医療法人に引き継ぐ資産と負債を記載し、下記のように負債が多ければ設立貸付金となります。
要因としては、土地・建物の償却と借入金返済額とのキャッシュフローギャップや、浪費した資金の穴埋めとして借りた債務のツケ等が挙げられます。

◆【個人事業時代のＢ/Ｓ】

（２）医療法人の出資金の取り扱いによる交際費損金不算入
出資持分の定めのない医療法人社団には、出資金という概念がありません。下記の取り扱いとなることに注意が必要です。

【出資金の額に準ずるものの範囲】
租税特別措置法施行令第37条の４第１項１号
一　出資を有しない法人
　当該事業年度終了の日における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から当該貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額の百分の六十に相当する金額

よって、内部留保が大きい医療法人は、交際費の限度額計算をする際に、全額が損金不算入となるケースもあります。また、寄付金の損金算入についても同様です。

（３）消費税の課税事業者は資産の譲渡に対する消費税発生
個人事業時代に課税事業者だった場合、医療法人に医療機械や工具器具備品を譲渡した場合、消費税が課されます。
ＣＴ等の高額医療機器が含まれていれば、多額の消費税が発生しますので、事前に確認が必要です。