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自院の人事制度を見直す場合、はじめに現在の人事制度がどのような類型であるかを確認します。 現在の賃金決定ルールがどの類型にあたるかを確認することにより、新たな人事制度の方向性を見出すことができます。
このような類型をもとに、今後は何を基準に賃金に反映させていくのかを検討し、人事制度の基本的な考え方をまとめていきます。 （１）裁量型人事制度のメリット・デメリット 裁量型人事制度は、特にワンマン経営者が経営する病医院に多く見られる人事制度です。また、創業後や承継後、間もない病医院にも多く見られます。この人事制度は、少人数かつ小規模で運営している病医院に適している人事制度です。概ね30名程度までであれば、経営者がすべての職員の行動を把握して、評価することも可能です。しかしながら、職員数が30名を超え、施設も複数になってくると、経営者が職員個々人の行動を正しく把握すること自体難しくなってきます。 また、職員は自分がどのような基準で評価され、どうすれば自分の処遇が改善されるのかということについて、不満を持つようになります。更には、経営者のご機嫌を取っておけば処遇が改善されるという意識を持つようになり、風見鶏職員を醸成することになってしまいます。 開設後5年以上、職員数30名以上、多施設を展開している病院は、早急に裁量型賃金から脱却するべきです。 ■裁量型人事制度のメリット・デメリット
（２）年功型人事制度のメリット・デメリット 年功型人事制度は、勤続年数や年齢によって賃金を決定する人事制度です。1950年以降の高度経済成長時代に多くの一般企業で採用された人事制度で、多くの医療機関でも採用されていました。 診療報酬改定が右肩上がりであり、医業収入が人件費の増加と同程度の増加が見込まれた時代には合っていた人事制度ですが、現在、年功だけで賃金決定する病院は少なくなっています。 ■年功型人事制度のメリット・デメリット
（３）年功＋能力型人事制度のメリット・デメリット 年齢給あるいは勤続給＋能力給で構成される賃金体系を持つ人事制度を職能型人事制度、あるいは年功能力並存型人事制度といいます。 1975年頃から多くの病院で採用され、現在もまだ採用されている数が多い人事制度です。 制度的には、ポスト不足解消、人件費コントール、信賞必罰の考えに基づき、日本の風土に合った人事制度でした。 しかしながら、病院業績と人件費のミスマッチがクローズアップされるようになり、経営上の問題の一つとして、職能型人事制度が取り上げられるようになりました。 多くの病院では、能力型といいながら実際には年功的運用に陥ってしまったことが、この人事制度の問題の本質でした。また、今日の経営環境下においては、変化対応に弱いという側面もあります。 ■年功＋能力型人事制度のメリット・デメリット
（４）成果型人事制度のメリット・デメリット 病院においては、成果指標を明確化することが困難であるため、導入している先はほとんどありませんが、人件費を変動費化する手段として、短期的な成果に対して賃金を支払うという成果型（主義）人事制度の導入を進めた企業がありました。 その副作用として、優秀な人材の流出や、企業の中期的な成長と相反するような短期的成果を求めて行動する社員が増加するなど、多くの問題点も噴出しました。 「成果」という定義を明確にすることや、「期間」という考え方を整理すること、成果を求める階層と能力開発を求める階層の整理、成果型人事制度が相応しい業種か、という本質的な部分の検討を怠ると、組織の崩壊という大きな問題につながる劇薬的な人事制度といえます。 ■成果型人事制度のメリット・デメリット
（５）「役割＋能力型人事制度」のメリット・デメリット これまで病医院は、年功型の人事制度を中心となってきたために、本人の能力ややる気、適性にかかわらず管理職への登用が行われてきました。従って、本来の管理職の役割と、そのポジションの役割遂行に必要な能力が不明確であり、あるべき管理職としての姿がなかったといっても過言ではありません。このため、能力のある若手がしかるべき役割を与えられず、優秀な人材が流出する、モチベーションが低下し、組織は硬直し、パフォーマンスが低下する、といった悪循環が発生しているケースは少なくありません。 この悪循環を断ち切るために、ビジョンと戦略に基づいたあるべき組織体系を明確にし、そのなかで管理職が果たすべき役割と、保有すべき能力を明示した人事制度こそ、今日の病医院に必要なシステムだといえます。 ■「役割＋能力型人事制度」のメリット・デメリット
ここで最も有効な手段がアンケート調査です。 人事制度は「組織力を高め」「人材を育成する」手段です。このような視点に立ち、アンケート調査を行います。 一般的には、以下のような点について、管理職と一般職に分けて質問し、回答を集計します。
■アンケート調査結果集計例
総額人件費が経営に与えている影響を分析し、人件費が自院にとって適正な水準であるかを確認し、今後の総額人件費の目標を設定します。 特に重要な指標は「労働分配率」「１人当り医業収入」「一人当り付加価値（労働生産性）」「１人当り人件費」です。業界平均値と比較することにより、経営改善の切り口を発見することができます。 例えば、下記の病院では、付加価値率は平均的と思われますが、職員一人当りの生産性が高く、結果として労働分配率が80％超と高くなっています。
次に、これまでの昇給実績を踏まえ、今後の人件費推移が経営に与える影響をシミュレーションしておきます。 これによって、今後の昇給のあり方がわかります。 ■総額人件費（月平均）の内訳
総額人件費とは、基本給や諸手当といった現金給与だけではなく、病医院で負担する職員の法定福利費や厚生費、賞与や退職金をも含めた、人件費の総額を意味します。 このデータで重要なポイントは、所定内給与を100とすると総額人件費は170に相当するという点です。 また、基本給の昇給が総額人件費アップにどのように影響するかについては「跳ね返り率」を算出し、経営シミュレーションに活用します。 ■跳ね返り率の算出例
シミュレーションを実施する際には、固定する条件と変動させる条件を設定します。条件には「医業収入」「付加価値（率）」「固定費」「昇給率」を入れます。
自院の総額人件費の分析を行った結果、総額人件費水準が高いということが判明した場合、総額人件費水準を是正していく必要が出てきます。 単純にリストラや人件費の切り下げを行うことは、病医院の最大の財産である有資格者の流出やモチベーションのダウンといったマイナス要素の方が大きく出る場合がほとんどです。 したがって、人件費水準の是正には複数年に渡る中期的な取り組みが必要になります。 対策の方法は以下のようになります。
どのような対応を取るにしても、自院の適正な労働分配率を設定して、その労働分配率へ、何年かけて是正していくのかという目標を設定し、その目標に向けた複数年の人件費計画を立てることがポイントになります。 経営シミュレーションで把握できた自院の賃金水準が、他院と比較してどうなのかということも考慮する必要があります。 職員の生活水準を維持していくことや、同規模、あるいは業界平均の水準などを加味した上で、賃金水準を決定します。 （１）基本給の分析 個別賃金の分析はプロット図を作成し行います。 まず、基本給の院内格差を把握するために基本給のプロット図を作成します。基本給プロット図は年齢、勤続と基本給を軸としたグラフであり、賃金決定の基本的なシステムを確認します。院内における職種別、役職別の賃金格差をみることも重要です。
（２）所定内賃金を分析する 次に生計費データを含め、年齢または勤続年数と所定内給与を軸に、プロット図を作成し分布をみます。これによって生活費とのバランスを検討します。 一般職は最低生計費のライン近辺に、管理職は修正標準生計費と愉楽生計費の間に分布するのが一般的です。
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