収益性悪化の要因は以下のようにまとめることができます。
自院の収益改善のために何をすべきかをここで整理しておきます。

　
�� 経常利益減少の要因
　 支払利息の増加、固定費の増加、変動費率の上昇、医業収益減少
　 　
�� 医業利益減少の要因
　 固定費の増加、変動費率の上昇、医業収益減少
　 　
�� 限界利益減少
　 変動費率の上昇、医業収益減少
　 　
�� 医業収益減少
　 患者数の減少、実日数の減少、レセプト単価の低下

業績悪化の要因は上記の４点となりますが、ここで注意すべきなのは、医業収益が増加していても利益が減少する場合もあるということです。たとえば、業務多忙を理由に人員を増員したり、最新医療機器への設備投資を行っても、医業収益がそのコスト増を賄うだけの金額を確保できない場合もあります。

（１）患者満足度を高める
カール・アルブレヒトによると、顧客が求めるサービスのクオリティには４つの段階があるとされます。
これに基づくと顧客満足も４段階に分類されます。

●基本価値・・・ 取引の基本となる不可欠な価値要因
●期待価値・・・ 取引で顧客が当然期待する価値要因
●願望要因・・・ 期待してはいないがあれば高く評価する価値要因
●予想外価値・・・ 期待・願望のレベルを超え、喜び・感動を与える価値要因


基本価値と期待価値は患者が診療を通しての対価の代償として当然手に入れられると信じているレベルの価値です。業界で活動していける最低条件がこのレベルです。願望価値、予想外価値を提供できてこそ、はじめて競争上の優位を確保できるのです。
したがって、少なくともこのレベルの価値を提供しなければ患者を維持していくことはできません。
既存患者を防衛するだけではなく、既存患者からより多くサービスを受けていただくには、少なくとも願望価値の提供が必要です。理想としては、予想外価値の提供を行い、新たな患者様を紹介していただけるようになればベストです。

（１）変動費削減のポイントを整理する
変動費は売上に比例して増減しますが、診療材料費や燃料など外的要因で価格が高騰し売上と関係なく増加するものもあります。調達先を吟味し、条件のよい先への切替えなどを検討しなければなりません。また、院内でも在庫の管理、貯蔵品の管理などマイナス要因を除去する取り組みを怠ると、変動費は自然と増加します。
変動費を１円削減すると、固定費は基本的に変わりませんので、利益がそのまま１円増加することになります。

以下に変動費削減のポイントを挙げます。
�� 医薬品費、診療材料費を下げる
�� 外注単価を引き下げる
�� 仕入の適正化
�� 値引きの抑制

（２）医薬品費、診療材料費を下げる
　�� 調達面におけるコストダウン
　
イ） 仕入れルートを考える
　 相見積りをとって仕入業者同士を競わせることも徹底して行うことが必要です。

（３）外注単価を引き下げる
　�� 外注を利用する理由
　 いくら値段が安くても、品質や納期に問題があるようでは、総原価を安くすることに寄与しません。Ｑ（品質）・Ｃ（コスト）・Ｄ（納期）の視点から外注先を選定すべきです。
また、選定過程で提示される見積りは細かいチェックを要しませんが、外注先として１〜２社に絞り込んでから提示してもらう見積書は、その内容を細かくチェックする必要があります。

（４）物品管理の適正化
物品の確実な管理は適切な医療を提供するための基盤の１つであるとともに、物品の発注と在庫管理の適正化による収支および資金状況の改善は病医院経営上も重要な課題になります。

（１）固定費の増加要因を検証する
病医院の経費を「変動費」と「固定費」に分けて考えたとき、変動費は仕入先や外注先があるため、なかなか自院の思うとおりにいかない場合が多いのですが、固定費は自院の意思で相当削減することが可能です。
固定費の削減では、増加した科目を精査し、増加の要因に妥当性があるか検討しなければなりません。なぜなら、固定費はすべて圧縮すべきものではなく、戦略的経費は削減するものではないからです。
人件費は適正な労働分配率の範囲内にあるかを見ます。また、政策的に人材を採用した場合は生産性が向上したかを確認します。唯一圧縮して良い固定費は節減可能費としてとらえ、可能な限り圧縮させることです。

（２）人件費の削減
労働分配率（総額人件費が限界利益に占める割合）は一定以下でなければなりません。決算書診断において、他の病医院よりも労働分配率が高い病医院は、一人当たりの人件費が高いか、職員数が多いかのどちらかになりますので、自院に合った人件費の削減をしていきます。

　�� 一人当たりの人件費が高い病医院
　 一人当たりの人件費が高い病医院は、諸手当の見直し、賃金水準の見直し、賞与支給方法の見直し等を行い、総額人件費をコントロールして労働分配率を適正値に保ちます。
しかし、単に賞与を削減するだけでは、職員のモチーベーションの低下を招きますので、決算賞与を導入してモチベーションが低下しないようにすることも重要です。
　 　
　�� 職員数が多い病医院
　 職員数が多い病医院は、人員配置の適正化の余地を検討します。
病医院における職種のほとんどは、各種国家資格の有資格者であり、また人材の流動性が高いため、各職種別に人材・労務管理をすることが重要です。
なお、各種関連法令に定められた要員数を欠かないことはもちろん、むやみに人件費を削減することは、前述のように職員のモチベーション低下につながる懸念もあることから、正職員以外の雇用形態を視野に入れ、業務や職種の再編によって、業務遂行の円滑化と弾力化を測るようにします。
そのうえで、長期的な職員の年齢構成を見越して、採用計画や人員配置計画を策定する必要があります。
　 　
　 【人件費削減の具体例】
　
●従来業務を見直し、非正職員化をする
　（派遣職員、契約職員、パート・アルバイト、業務委託など）
●ＩＴ化による人員削減（レセコン導入による受付事務の省力化）
●人時生産性を見直し、効率的なシフト管理の推進
●計画的な行動管理による時間外手当の削減
　 　
（３）賃料の削減
賃料は、不変の固定的経費であると考えて最初から手が付けられないとあきらめている場合があります。
ビル開業の診療所のケースなど外部への影響も多少考えなければなりませんが、影響が現れないように行うことは可能です。

（４）広告宣伝費のコストパフォーマンスを考える
宣伝費は、コストパフォーマンスを充分考えた上で支出されるべきです。むやみやたらに、湯水のごとく宣伝費を使った時代は終わりました。

【広告宣伝費削減の具体例】
●無料のパブリシティへの記事掲載
ホームページについては、魅力あるものをつくり、検索エンジンへの登録や相互リンクの実施など地道な積み上げも欠かせないものになっています。

（５）接待･交際費は管理表で絞り込む
接待･交際費も広告宣伝費と同様に費用対効果を充分考えて支出すべき費用です。交際費管理表を作成し、絞り込むことが必要です。この場合にも、ベースは年単位で考えますが月単位に落とし込んで管理します。

【接待・交際費削減の具体例】
●前期実績の中で収益貢献度合いが最も低く見込みが無い取引先は今期削減

（６）その他経費
たとえばインターネットを活用すると、使用量に関係なく定額の契約であれば、使えば使うほど相対的にコストが下がります。また、インターネットを利用したIP電話の利用により、電話料の削減を簡単に実現することができます。
また、気を付けたいのが、教育・研修費です。将来に向けての投資なので、単純に削減することはできません。そのため、慎重にその内容を検討し削減をしても良いものか、削減してはいけないものなのかを、経営方針を考慮しながら進めていかなければなりません。近年では、職員教育・研修には助成金や税額控除などが国の政策上用意されているので、利用できるものは積極的に利用すべきです。
水道光熱費の削減は、昔から「経費削減」というと必ず挙げられる代表選手です。しかし、その意義は「経費削減」そのものより、院内で取り組むにあたり、共通認識としての取組み項目として分かりやすく、取組み実感の湧くものであるからです。全職員の共通の認識から「節約」に対する意識を醸成できるのです。
ただ、この場合、気をつけなければならないのは、徹底することの必要性を幹部が認識しなければ意味がないということです。「自分ひとりがやらなくても良い」という意識は簡単に蔓延します。幹部ができないものを部下がやるはずがありません。
同様のことが事務費・消耗品費の削減にも言えます。これも、公共料金と並んで真っ先に名前の挙がるところです。
また、業務の見直しから、人件費の削減に結びつく場合もあるので、業務の見直しは重要です。その中から、削減するもの、購入を中止するもの等が明らかになります。

【その他経費削減の具体例】
●教育研修費の助成金活用
●ミスコピーの裏紙活用