自院の強み（長所）と改善点（短所）を明確にすることは、利益計画策定の前提となります。強みをさらに伸ばし、短所、弱みを改善、補強するような戦略を計画には盛り込まなければなりません。そのためには「自院の経営力を客観的に評価する」ことが必要です。自院を知るには、その経営力を「計数関連」「経営活動関連」より分析・評価することが必要になります。

ＳＴＥＰ�� 財務分析
ＳＴＥＰ�� 数字以外の面からの経営実態分析
ＳＴＥＰ�� 収集した情報の分析

【財務分析によって明らかにしようとする内容】
●病医院の損益の状態を示す「収益性」はどうか
●病医院の収支の状況と支払い能力を示す「安全性・流動性」の状態はどうか
●付加価値や効率の状況を示す「生産性」はどうか
●病医院の「成長性」はどうか
財務分析をおこなう上での分析方法としては、以下のものがあります。

�� 実数法
財務諸表に表示されている金額の絶対額、損益分岐点分析や資金移動表分析による金額の絶対額によって判断する方法
 
�� 比率法
ある項目について全体に占める構成比や項目間の数値の割合（相互比率）、一つの項目についての増減の割合（変動比率）などによって、病医院の内容や状態を捉える方法
 
�� 比較法
比較法は、一定時点の絶対的な水準のみでは良否の判断に限界があるため、過去からの推移のなかで良くなってきているのか、もしくは悪くなっているのか、といった時系列比較や、同規模医療機関や業界水準との比較により良否を判断する方法

具体的には、これらの方法を組み合わせて財政状態や経営成績を明らかにしますが、通常では実数や比率による状態を捉えて、これに時系列比較や同種同規模医療機関比較による判断や解釈を加えることとなります。 「病医院には十分な利益をあげる経営力があるのか」を分析、評価します。この収益性の分析は、財務分析の中でも最も重要なものといえるでしょう。収益性は、下記表にある「総資本経常利益率」「医業収益経常利益率」「総資本回転率」の比率で分析し、その判断をします。

【収益性の分析　判断基準】

経営力の有無は、「総資本経常利益率」で判定され、この比率が大きな病医院は、「実力のある病医院」として評価をされるのです。また、最低でも「支払い利息率」や「配当率」を上回ることが必要です。
次に、総資本経常利益率の高低（＝良し悪し）の原因がどこにあるのかを分解して追及します。利益率に問題がある場合には、損益計算書を主体にして分析し、回転率に問題がある場合には貸借対照表を中心に、資金の回転や運用を分析します。 医業収益とコストのバランスをみて、「経営の採算点」がどこにあるのかを検討します。つまり、収益と費用が同じくらいになる医業収益を算出します。これが、「損益分岐点医業収益」です。

損益分岐点比率（損益分岐点医業収益÷医業収益）の低い病医院は、経営の重心が低く、ゆとりがあり、周囲の変化に柔軟に対応することができます。反対に、損益分岐点比率の高い病医院は、少しの市場の変化にもついていけず、すぐに赤字になってしまうという危険度の高い収益構造にあります。損益分岐点医業収益は、限界利益率と固定費との相関関係により決まります。損益分岐点比率を下げるには、下記の３通りの方法があります。

��医業収益を伸ばす
��限界利益率を上げる（変動比率を下げる）
��固定費を削減する

目標利益を実現するための医業収益、一定の医業収益で目標利益を確保するために必要な限界利益率、固定費増を吸収する医業収益と限界利益率など、経営目標を設定する時には、この損益分岐点を中心にした検討が必要です。 安全、健全な病医院とは、少々のことがあっても倒産しない病医院であり、そのような病医院こそ「イザ」というときに底力を発揮する病医院なのです。このような病医院の健全性を評価するのが、「安全性の分析」であるといえます。
上記分析のバロメーターとなるのが、下記３つの指標です。

�� 経営はどのくらい借入に依存しているか
病医院の経営に必要な資金は、自分で出すか、人から借りるかの２つです。必要資金の不足分をどれだけ借入で賄っているかを分析する
 
�� 設備投資と資金はバランスがとれているか
設備投資は、病医院が成長していくためには欠かせない投資です。しかし、投資の回収には時間がかかります。
したがって、返済の必要のない自己資金で賄えれば理想的なのですが、不足分を長期借入金で補填する場合が多いのが実際です。自己資金と長期借入金の合計額を超える投資は、資金のバランスを崩し、過剰投資になるので注意が必要です。
投資した設備が有効に活用されているかは「回転率」でみます。
 
�� 返済能力が十分に備わっているか
どのような病医院でも、支払いに対する債務を負っています。いくら債務があろうとも、それを支払うことができれば＝支払い能力が支払い義務よりも大きければ問題はありません。
流動負債というのは「支払手形」「買掛金」「未払金」「短期借入金」などの１年以内の支払い義務であり、流動資産というのは「預金」「医業未収入金」「診療材料」など１年以内で現化できる支払い手段のことです。
この比率が１００％以下では、支払手段が支払義務を下回り、支払い能力が不足していることになります。

【安全性を判定する３つの指標】

��経営はどのくらい借入に依存しているか

��設備投資と資金はバランスがとれているか

��返済能力が十分に備わっているか

生産性は、産出量（アウトプット）と投入量（インプット）の比率で考えます。算出とは、「病医院が生み出した価値」のことで、投入とは「病医院が活用している経営資源（ヒト・モノ・カネ・情報）のことです。「産出量÷投入量」を計算し、この数値が大きければ「生産性が高く」小さければ「生産性が低い」と判断することができるのです。生産性分析では、分子の算出量に「付加価値」を付けて計算します。分母には「労働力」と「資本力」を入れて計算し、一般的には「人員等の労働力による労働生産性」の分析が中心になります。
「一人当たりの付加価値」は、病医院の労働生産性と資本生産性を評価する基本の指標であり、この「付加価値÷人員」の基本公式に、生産性に関連する項目を挿入して分析します。

【各種「付加価値」の算出方法】

この項目では、「病医院はバランスよく成長しているか」ということを分析します。成長性の分析では基準年度を100％とし、各年度の増加率を算出します。そして、その対象は少なくとも３年間、できれば５年間の資料をもってしておこないます。「成長」には、「好ましい成長」と、その逆である「好ましくない成長」があり、その判定基準は下記項目の「不等号で示される関係」によります。

【成長性の分析　判定基準】
人員増加率

増資本増加率		 ＜ 医業収益増加率 ＜ 売上総収益増加率

付加価値増加率		 ＜ 経常利益増加率

自己資本増加率

医業収益を基準に、上記のような増加率であれば、その成長は好ましいものであり、逆に向いている不等号の関係であれば、そこに問題があることが分かります。上記のような不等号関係が成り立つのは、病医院の成長には一般的には以下の法則が当てはまることによります。

一般傾向としては、成長順位は総資本、利益、医業収益、職員数の順である

また、成長の法則としては、下記のものもあります。

各成長率は、病医院規模の拡大により低下傾向を示す。病医院規模が小さいときほど成長率が大きく、規模が大きくなるにつれて、成長率は鈍化傾向を示す