年度経営計画策定法 -　医療・福祉経営改善ナビ

（１）環境分析の重要性
経営計画を立てる上で、外部環境は重要な役割を果たします。なぜならば、病医院環境の変化に対応した経営活動をすることこそが、病医院発展の基本原則といえるからです。

（２）病医院にとっての環境変化
病医院にとっての環境変化は、その変化の現象において２つの面から病医院に影響を及ぼします。１つは成長機会として、もう１つは制約機会・脅威として存在するのです。またこの環境変化は、病医院に直接的かつ速やかに影響を及ぼすものと、間接的でゆるやかに影響を及ぼすものとが存在します。なお、前者をミクロ的環境変化、後者をマクロ的環境変化といいます。

【病医院にとっての環境変化がもたらす２つの機会】

①成長機会・好機
②制約機会・脅威

【病医院にとっての環境変化の種類】

①ミクロ的環境変化（直接的環境変化）
→直接的かつ速やかな影響力を持つ

②マクロ的環境変化（間接的環境変化）
→間接的かつ緩やかな影響力を持つ

（３）外部環境分析のねらい
外部環境分析の範囲をミクロ環境のみにするか、もしくはマクロ環境にまで広げるかは、環境分析のねらいによります。外部環境分析のねらいは、環境変化が自院の経営にどのような影響を与えるかを予測し、それに対する経営戦略を析出することにあります。病医院を取り巻く環境は、広範囲かつ複雑であるため、合理的な手法においてこれの分析をおこなわなくてはなりません。その手順は下記のようになります。

STEP①：	病医院環境要因の選定自院の経営に大きな影響を与える要因の選定
STEP②：	情報収集既存資料からの情報収集実態調査に基づく情報収集
STEP③：	環境要因の変化予測収集した情報をベースとした変化の予測
STEP④：	経営課題の抽出年度経営計画で取り組むべき経営課題の抽出をおこなう

（１）環境要因の選定

①	効率的な環境要因選定のために効果的かつ効率的に分析を進めるために、環境分析の対象とする環境要因を的確に選定することから始めます。選定する環境要因は、環境分析のねらいを踏まえておこないます。したがって、環境領域を体系化し、「どの環境要因を」「どのようなねらいで」分析するか、その対象と目的を明確にして環境要因の選定をおこないます。環境要因の選定と分析は、業績に直結するものに絞ってよいでしょう。環境要因は、下記の２種類に分けることができます。

	①マクロ環境 →医療制度改革、診療報酬改定、高齢化等人口構造の変化、過疎進展等がこれにあたります。 ②ミクロ環境 →業界の全般的動向、業界成長率、競合他医療機関動向、患者ニーズ動向、仕入れ先動向等がこれに当たります。

②	外部環境要因チェックリストの作成特に重要な要因については、チェックリストを作成してもれのないようにすることが大切です。環境要因の選定は環境分析のカギです。必要な要因のチェックをもらしてしまうことを避けるために「あれもこれも」と選定してしまえば、要因のもれを防ぐことはできますが、後々の作業が煩雑になり、結果として表面的な分析に終始してしまうようなケースは避けなければなりません。チェックリストを作成しておくと、要因選定が的確におこなえるだけでなく、必要な情報を日ごろから収集しておくことができます。

【環境要因チェックリスト例】

NO	環境要因項目	中項目	影響度	影響内容
1	業界の動向	業界総需要	◎
		業界構造の変化	◎
		収益構造	◎
2	診療科目別の需要量	A診療科の需要動向	◎
		B診療科の需要動向	○
		C診療科の需要動向	○
3	重点地域の診療圏動向	A地域の診療圏動向	◎
		B地域の診療圏動向	○
		C地域の診療圏動向	○
4	主な疾病の需要量	A疾病の需要動向	◎
4	主な疾病の需要量	B疾病の需要動向	○
5	主な疾病・業界のニーズ	A疾病患者のニーズ	◎
		B疾病患者のニーズ	○
		X業界のニーズ	◎
6	競合医療機関の戦略	C医院の戦略動向	◎
6	競合医療機関の戦略	D医院の戦略動向	○
7	新規参入状況	総合病院の新規開設	◎
7	新規参入状況	他院専門外来の開設	◎
8	原材料の価格	医薬品	◎
8	原材料の価格	診療材料	◎
9	診療報酬改定の影響	プラス改定	◎
9	診療報酬改定の影響	マイナス改定	◎

（２）環境要因の選定のポイント

①	自院の経営への影響が強い要因に絞り込む環境要因を体系的に整理すると、かなりの数の要因があがってきます。そして、その中から必要な環境要因の選定をおこなう際には、余程注意していないとどれもが必要な要因に思われてしまい、網羅的な選定になってしまいかねません。このような選定ですと、情報収集をして分析をするには時間、人員、予算の各面からみて困難であるケースが多いでしょう。また、表面的な調査、分析では一般論に終始してしまいがちで、ポイントが見えてきません。したがって、自院の経営に強い影響力があると思われる要因に絞って分析をする必要があります。
②	環境要因間の相互関連性から選定する各環境要因は、個々に経営へ影響を与えるものと、相互に関連して影響を与えるものがあります。ある要因（要因A）を予測する際、それに強い関連のある別の要因（要因B）を調査、分析をしなくてはならないような時は、当然にその要因Aは選定されることになります。このように、個々の要因だけでなく、要因相互の関連から調査、分析する要因を選定します。
③	顕在化している重要経営課題との関連を考慮する顕在化している重要経営課題があるとき、それに対する解決策を的確に設定するためには情報が必要です。例えば、主力製品の売上高が低下しており、その原因が外部要因にあると思われるときは、診療の需要動向や競合病医院の動向などの情報が必要になります。これらの情報は環境分析を通じて得ることとなりますので、環境要因の選定段階からこれを考慮しておくことが良いでしょう。

（３）情報の収集
各要因の分析目的からはずれないように、十分これに留意しながら必要情報を収集します。情報の収集は、既存の資料から収集できるものと新たに調査の必要なものとに区分されます。情報の収集に関しては、いかに分析目的に合った情報を探せるかが重要になります。そして、この情報収集の段階からすでに次のステップである「環境変化の予測」がはじまっているといっても良いでしょう。「情報の収集に関するポイント」は、下記になります。

①	何を知りたいのか、その分析のねらいを定める要因と分析項目が選定されても、「何を知りたいのか」という分析のねらいをもたなければ、的確な情報収集を効率的におこなうことはできません。
	「各分析項目について何を知りたいのか」ということをまずはしっかりと見定めなくてはなりません。したがって、明確な分析のねらいを担当メンバーがディスカッション等にて共有してから情報収集にはいらなくては、有効な情報は集まりません。有効な情報が集まらなければ、一般論の分析に終始することになってしまう可能性が高くなってしまいます。
②	情報源の探索を事前にできるだけおこなう一般的に、情報入手が容易な情報源の順序は、下記の通りとなります。
	院内の資料→　院内の専門家→　院外の資料→　院外の専門家→　実態調査

	上記の矢印の順番にしたがって、その困難さが増してきます。ゆえに、この順序で「必要情報の入手可能性」を検討していくことが重要になります。まず、院内に備蓄された資料を調査します。しかし、これがデータベース化されているような病医院は少なく、かなりの情報備蓄量があるにも関わらず、必要な情報が発見できないというケースが想定されます。このような場合は院内の専門家の協力を仰ぎます。書店や図書館に行って資料探索をする前に、業界誌のバックナンバー検索や業界団体への問い合わせをおこない、候補となる資料の絞込みをおこないます。
③	「単なる資料集め」に終始しない首尾よく情報源に辿り着いても、必ずしも「ねらいどおり、目的にフィットした」資料があるとは限りません。「単なる資料集め」にならないように、留意することが必要です。そしてその為には、「何を知りたいのか」を絶えず意識して資料収集することが肝要になります。次ステップである「変化予測と影響評価」を意識しながら必要情報を集め、分析目的に合った情報に加工する工夫が必要でしょう。
④	日常活動を通した情報収集を心がける先述にて「環境要因チェックリスト」を取上げましたが、このような手法において環境要因を明確にしておけば、経営計画の策定時期に、一度に情報収集する必要はなくなります。計画策定時期を念頭に、日ごろの活動を通して意識的に情報収集をおこなうことが、効率的に情報を入手するための近道です。

（４）環境変化の予測
収集した情報から、「各要因の将来の変化」をまとめます。単に収集情報を整理するだけでは、将来の変化はみえてきません。自らの問題意識にて情報を読み取り、独自の変化予測をおこなえるかどうかがポイントになります。収集資料の中には、将来予測を含んでいるものもありますが、多くの場合は「自院に対する影響に焦点を当てた」変化予測を独自のおこなわなくてはなりません。そして、そのポイントは以下のようなものになります。

①	「独自の読み取り」をそのベースとする「資料から得られる情報をそのまま転記」等の安易な方法はとらず、独自の情報や経験をまじえて現状や将来方向を読み取り、まとめることが大事です。「自院への影響がどう出るか」「環境変化に対応・挑戦するための経営課題は何か」を析出しやすいようにまとめる必要があります。資料を探すことのみに注力してしまい、「その読み取りが最重要」であることを忘れがちになってしまうことに注意しなくてはなりません。
②	複数情報を組み合わせる統計的データは、それ単体では、目的に合ったものが少ないケースが多いものです。したがって、「複数のデータの組み合わせで読み取る」努力をすることが肝要です。定性的な情報でも、「断片的な情報の組み合わせ」により将来の環境がみえてくる場合も多いものです。
③	トレンドをつかむ環境変化の予測は、正確にこれを実行しようとするほど難しくなります。手間隙かけても、それに見合う成果は得られないケースが多いといっても良いでしょう。過去から現在までの変化を踏まえ、「将来どのような方向にいくのかの傾向」をつかむことが大事です。長期トレンド、中期トレンドがつかめれば、それに対応する経営課題はつかむことができます。

（５）自院への影響評価と経営課題の明確化
環境分析のねらいは先述しました通り、「環境変化に対してどのような対応をすべきか」を経営課題として明確にすることです。環境変化の予測は、そのまま自院の周囲環境の変化として影響を及ぼすとは限りません。個々の病医院のおかれている状況によってかなり異なるのが普通でしょう。したがって、経営課題の析出に先立ち、必ず「自院への影響」として見直されなければなりません。そしてそのうえで、「自院の置かれている状況にあった経営課題」を析出します。
「自院への影響評価」と「経営課題の析出」は一体のものとしてこれをおこない、下記が経営課題析出のポイントになります。

①	成長機会、制約条件の両面から影響の内容を評価する環境変化が病医院活動に与える影響は、成長機会としてプラスに作用する場合と、制約条件としてマイナスに作用する場合とに分けることができます。どちらの視点からみるかで、析出される経営課題は大きく異なってきます。そして、１つの環境変化にはこの２面が含まれているのが普通であり、常に両面から評価するように留意することが必要です。多くの場合は、どうしてもこれを制約条件として評価しがちになってしまい、成長機会を見失うことが多いので、この点について注意を払う必要があります。
②	影響の大きさ、その時期をつかむ影響内容の評価とともに、その影響の大きさや程度、予想される時期もまた大切な評価ポイントになります。影響が大きいようであると、抜本的な経営戦略が求められ、影響が小さいようなものであれば、日常的な改善レベルの対応策で足りる、というように「析出される経営課題のレベル」が変わってくるからです。このような場合は、客観的なデータに基づいた「影響程度の数値表現」をすると、より評価しやすくなります。継続的に変化が予測されるような場合には、「１年先にはこの程度、３年先にはこの程度」といったように、段階的表現で影響評価をまとめるのが良いでしょう。
③	環境要因の相互関連性から経営課題を析出する「成長機会に対する病医院成長のための経営課題」、「制約条件に対する病医院防衛のための経営課題」の両者を析出することになります。「将来環境はどうなるのか、そしてそれは自院にどのような影響をもたらすのか、またこれに対する経営課題はなにか」を考え、経営計画に取り込む経営課題を析出していきます。

【環境予測と経営課題の析出例】

環境要因	現状	環境予測・当院への影響	経営課題
（１）需要動向		①将来の年金に対する不安感と、景気低迷の影響を受け、患者には受診抑制の動きがみられる。この傾向は来年度も続くと予想される。その結果、来院数が減少し、利益率の低下が予想される。 ②これまでの保険診療中心から、患者が求めるより質の高い医療を自由診療で提供する。 ③他の病医院においても同じことを展開し、規模の大きな病医院のひとり勝ちとなる可能性がある。	・トータルコストダウンの推進・自由診療のための技術・機械の取得・他病医院との差別化サービス展開
（２）業界構造		①病診連携などによる、情報の交換技術（電子カルテ）の発展により、ひとりの患者をトータルサポートできる体制を整える必要がある。 ②競争激化の環境下において、A病院とB病院の合併に可能性が予想される。その場合は、C地域でのシェアダウンが予想される。	・□□疾病でのトップ技術維持・△△地域の徹底深耕推進