病医院リスクの理解と対応策　-　医療・福祉経営改善ナビ

医療機関におけるリスクマネジメントを実践するためには、自院のリスクに関する考え方を明確にしたうえで、これらを未然に防ぐことを目標とするフレームワーク（体制）を構築することが必要です。
具体的には、自院に存在、あるいは潜在するリスクに対して、方針や組織、手法・ツールを定め、リスク回避という目標に向かってそれぞれの機能を活性化させることを意味します。これらを総じて「リスクマネジメント体制」といい、基盤となる院内の仕組みづくりが最も重要なプロセスだといえるでしょう。 （１）業務フローにおけるリスク

与薬・注射	・未混注のまま点滴（生理食塩水のみ点滴）・指示変更時のインスリン種類ミス投与・利尿剤の重複投与（注射から内服薬に指示変更）・強心剤の過量投与（投与速度指示受けミス）・鎮痛剤の混注を側注で投与（口頭指示）・抗生剤変更時の誤点滴（変更後の薬剤使用せず）・患者誤認点滴（同室同姓患者）・輸液ポンプ使用時の過量投与（設定操作ミス）・術後抗生剤点滴未実施（看護師の実施忘れ）・ブドウ糖アンプルの規格違い（薬局が誤送付）
検査	・患者取り違え（本人に氏名確認せず、同姓患者に不要な検査を実施）・撮影時の氏名登録間違い（フィルム印字ミス、データラベル貼付ミス）・検体の取り違え（スライドとラベルそれぞれの氏名確認不十分）・外国人患者に対する本人確認不備（ルール確立されておらずあいまい）・部位間違い（伝票の確認ミスと思い込み）・左右間違い（写真の反転、伝票記載ミス、オーダー入力ミス、実施間違い）
転倒・転落	・玄関、廊下での転倒・診察台移動時の転倒・転落・移乗時の転倒・転落（ベッド⇔車椅子）・建物施設敷地内、外移動時の転倒・転落（杖使用、車椅子、その他自助具）・入浴時の転倒（衣類着脱、脱衣室から移動時、浴室内、洗体時）・排泄時の転倒（室外トイレ、病室内ポータブルトイレ）・更衣、靴の着脱中の転倒（ベッド、車椅子）
医療機器	・機器電源切れ（ブレーカーダウン、不適切な電源確保）・チューブと機器間接続断絶（気管チューブの接続部はずれて呼吸停止）・機器接続間違い（気道内圧チューブを人工鼻に接続）・体位交換時の気管チューブ抜去（回路が短いために引っ張られた）・設定操作ミス（スイッチオン後に画面確認せず、作動状態誤認）・呼吸器本体の故障、不具合（異常の把握が遅れて機器交換せず）

（２）施設・環境面におけるリスク

情報管理	診療録の紛失診療情報その他患者個人情報の流出医療機関開設サイトへの攻撃（不正アクセス、掲示板等への中傷書き込み）
感染	職員の針刺し事故感染性廃棄物の不適切処理
社会的関連	新薬採用に伴う副作用発現職員の不祥事医療訴訟の提起発注ミスによる診療材料の過剰在庫

医業経営環境が厳しさを増すにつれ、医療機関にとって、院内外に存在するリスクをいかに管理できるかということが、経営に大きな影響を及ぼすようになっています。
医療機関としては、特に医療安全管理という観点からリスクを想定することが多くなりますが、業務に関連する事故や危険、あるいは法令違反だけではなく、医療機関が掲げた理念と、これを実現するための方針や戦略が阻害される可能性があるものは、全てをリスクとして捉える必要があります。
医業経営を安定して維持していくためには、様々なリスク発生を予防し、または生じた場合の影響を最小限に抑えるための取り組みが重要です。
リスクマネジメント体制構築に向けては、次のようなポイントが挙げられます。

■リスクマネジメントのフロー

（１）リスクマネジメント委員会の設置
日常業務におけるリスクマネジメントは、職員個々がミスやエラーを起こさないように注意するだけでは不足です。組織的な活動として、業務に潜在するリスクを適切に管理しうる体制を構築しなければなりません。
そのためには、院長をはじめ、看護、コメディカル、事務の各部署の代表者を中心としたリスクマネジメント委員会を設置することが必要です。
この委員会では、主に医療安全管理に関する事項や取り組みを検討し、組織としての方針を決定することになります。ただし、診療所の実態に即した体制が構築され、有効に機能することが優先されるので、委員会の形でなく医療安全管理のための組織（チーム等）が常設され、その場で医療安全管理上のテーマが検討されているのであれば、当該組織のスタイルは問いません。委員会の設置は、次の要領によって進めます。

■リスクマネジメント委員会設置のフロー

（２）安全管理指針の策定
医療安全管理に対する医療機関の考え方を示す安全管理指針については、医療事故の予防と再発防止、および医療事故発生時の対応方法等に関して、院長や経営幹部の方針に基づき医療安全活動を実践していく基本です。
この指針は、まず作成を院内に宣言して、医療安全管理に対する意識付けを行ったうえで作成を進め、その内容を職員に周知することが重要です。
安全管理指針は、次のような手順で作成します。

■安全管理指針の作成フロー