>病医院リスクの理解と対応策   >Ⅱ 医療事故防止と医療安全確保   
2-3 分析ツールの具体例
1  SHELモデル
当事者である人間(概念図中心のL:LIVEWARE)が最適な状態を保つためには4つの要因が影響しているということを表したものです。
中心のLが不定形な外縁となっているのは、人間が状況によってその能力や限界が様々に変化することを表しており、その不定形な外縁にピッタリと合うように4つの要因と当事者自身の対応を考えるというモデルです。

(1)インシデント・アクシデント報告の意義

■SHELモデルの5要因

(2)分析事例
【事例概要】
薬剤名ラベルが貼付された注射器により消毒剤を誤薬された患者が、心不全で死亡した事例

■SHELモデルを用いた分析例
  要因 対応策
S ・業務効率化のため、事前に作り置きし、同じ注射器に入った注射薬剤と消毒剤を一緒に保冷庫に保管する慣習があった
・識別方法は注射器貼付ラベルのみ要因
・事前作り置きしない旨をマニュアルに盛り込む。
・薬剤は使用直前に使う看護師自らが準備し、直ちに使用する
E ・直ちに使用できる状態で注射薬と消毒薬を同一の保冷庫内に保管していた
・病棟保管薬剤が種類過多
・薬剤希釈業務が看護師担当範囲
・前夜に別の看護師が準備したものを投与
・注射薬と消毒薬の保管場所を分離
・使用薬剤の保管場所の整理
・希釈業務は薬剤師業務とし、または希釈製品を購入する
・準備から投与、片づけを同一看護師が実施できる勤務体制、業務分担・内容の改善
L
(他人)
(薬剤を準備した看護師)
・注射薬と消毒剤を同時に準備した
・ラベル貼付を誤った可能性
・注射薬剤と消毒剤は同時に準備しない
L
(当事者)
(患者に薬剤を投与した看護師)
・双方の薬品が無色透明で同じ注射器を使用していたためにミスを喚起した可能性
・消毒剤と注射薬剤に同じ種類の注射器を用いない
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2  4M-4Eモデル
■インシデント事例による分析例
【事例概要】
看護師Aから同Bへの業務引継時において、輸液バッグの氏名を取り違えて点滴を実施した例

  MAN
(人間)
MACHINE
(物、機械)
MEDIA
(環境)
MANAGEMENT
(管理)
具体例 身体的状況、心理的・精神的状況、技量、知識 強度、機能、配置、品質 気象、地形、施設、設備、マニュアル、チェックリスト 組織、管理規定、運行計画、教育・訓練方法
具体的要因
(4M)
患者とIVHのバッグの氏名確認が不十分であった(看護婦A、B双方)。 2つの薬品の商品名とパッケージが類似。バッグへの患者名表示がフルネームではなかった。 IVHが早めに終了したため、Aが実施すべきものをBが実施。勤務交代前後であった。 看護婦Bが実施したことをAに報告していなかった。
EDUCATION
(教育・訓練)
<例>
知識、実技、
人格、管理
氏名確認の具体的方法を再教育する(ネームプレートやネームバンドで本人確認)。 薬品準備の際には3回確認の徹底を職員教育内容に盛り込む。
フルネームで表示することを職員に周知。
勤務交代時の業務のあり方について再検討の上、職員に周知(IVH追加時間の調整など)。 受け持ち以外の人が業務を行った場合の連絡・報告・記録の方法を再確認し職員に周知。
ENGINEERING
(技術・工学)
<例>
自動化、表示・警報、
多重化、品質改善
患者の了解を得て、入院時からネームバンドを装着。 類似した商品名やパッケージについて、誤認防止の工夫を製造元に依頼。    
ENFORCEMENT
(強化・徹底)
<例>
規定化、手順の設定、
注意喚起、キャンペーン
報告書を提出させ注意を促す。
氏名確認方法(ネームプレート、ネームバンド)について、マニュアルに盛り込む。
類似薬品をリストアップし、保管場所に誤認注意を表示する。
薬品準備の際の確認・氏名表示方法をマニュアルに盛り込む。
勤務交代時の業務のあり方について再検討(IVH追加時間の調整など)。 受け持ち以外の職員が業務を行った場合の連絡・報告・記録の方法をマニュアルに盛り込む。
EXAMPLE
(模範・事例)
<例>
模範を示す、
事例紹介
改訂したマニュアルを配布し、行動変容を促す。 改訂したマニュアルを配布し、行動変容を促す。 勤務交替時や受け持ち以外の人が業務を行う場合に、ミスを起こしやすい事例として紹介し、再発防止を呼びかける。 改訂したマニュアルを配布し行動変容を促す。
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