実績のある職員が退職をほのめかしたので、強く慰留しましたが、辞めてしまいました｡　未だ退職金は支払っていませんが、在職中の業務につき｢不正」が発覚しました。本人に問い合わせをしている最中ですが、何らの応答もありません。この様な場合は病医院としても退職金の不支給・減額等に踏み切りたいところでしょう。

一方で退職職員は､とにかく１日でも早く退職金を欲しがると思います。しかし、それでは病医院としては収まりません。有能な職員に裏切られ、取引先に迷惑をかけ、病医院に損害を発生させたとなると、退職金を支払うことはできません。むしろ懲戒解雇扱いにしたいぐらいに思う方が多いでしょう。

退職金を給与の後払いあるいは生活保障と考えると、全額払いの原則、賠償額予定の禁止、制裁の制限に触れ、退職金は減額できなくなります。

未だ退職金を支払っていない場合、解決は簡単です。とくに、規定上、不支給条項が備わっているならば、これを適用します。たとえば｢退職後、在職中の行為につき懲戒解雇に相当するような事項が発覚した場合には退職金を減額ないしは不支給とすることができる」といったような条項です。

これを内容証明郵便あるいは配達証明で退職金不支給通知として本人宛てに通知してください）判例も「制限条項の適用は労働者のそれまでの勤続の功を抹消（全額不支給の場合）ないし減殺（一部不支給の場合）してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限り」肯定しています（東京地判平成7929)。

なお、懲戒解雇の適用ができるかについては、すでに雇用関係は終了していますので、適用できません。ただ、不支給の補強理由にはなります。

これに対し、すでに支給してしまった後に不正が発覚した場合は面倒です。法的にはもらえる理由がないにもかかわらずもらってしまったのですから、不当利得による返還請求ができます。ただし、本人が素直に返還に応じてくれるかどうかは別問題です。
返還に応じてくれない場合には、退職金一部返還通知書を作成して内容証明郵便を送って催促してみましょう。それでも無理で金額も大きいようなら、訴訟ということになるでしょう。

退職金を支給した後で本人の不正が発覚しても、返還させるのは難しいため、「退職後30日後に支払う」などと支給期日を設定しておくのが良いでしょう。