不法行為を起こした職員を解雇するにあたり、解雇予告手当を支払うつもりですが、不法行為の損害賠償と相殺しても構わないのかという問題があります。

職員の不法行為による損害が発生している場合には、予告手当との相殺もやむを得ないと病医院側は考えてしまいますが、このような相殺は給与の全額払いの原則に反することがあります。

解雇予告手当は次の就職活動に困らないように予告できなかった期間を金銭で補う意味があります。
解雇予告手当は給与であり、全額払いの原則から他の債権と相殺して（その意思を無視して一方的に）支払うことは認められていません。

これについて判例は、「同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許さないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない」と判断しています（最判昭36531)。

ちなみに、法律上、例外的に賃金の一部控除（全額は認められない）が認められるのは、社会保険料や所得税のように法令が認める場合や職員代表との控除協定がある場合に限定されています。後者は、寮費や共済費等職員が当然病医院に払わなくてはならないもので、給与の支払いの際に控除するのが便利なものに限られます。

不法行為による損害賠償は突発事項であり、控除協定になじむ事柄ではなく、あらかじめ対策をとることができません。したがって、予告手当が全額控除される相殺は制度の趣旨からは認められませんが、どうしても悪質で堪えがたいというケースであれば、本人から同意書をもらった上で、一部控除に留めるべきでしょう。判例も、相殺の同意が職員の完全なる自由意思に基づく場合には、全額払いの原則に反しないとしています（大阪地判昭591031)。

解雇予告手当と損害賠償金の相殺は、必ず本人の同意を取ってから実施することが重要です。