病医院では、基本給を補充する目的でさまざまな手当が支給されています。
家族手当、住宅手当、通勤手当、役付手当などは、代表的な手当といえるでしょう。
月例給与は基本給のみで手当はいっさい支給していないという病医院はきわめて稀です。
経営不振に対応し、諸手当の一部あるいは全部について、

● 支給額を減額する
● 一定期間支給を停止する
● 支給条件を厳しくする

などの非常措置を講じます。

例えば、部長・課長・係長に支給している役付手当について、

● 支給額を２分の１に減ずる
● 景気が回復するまで

当分の間支給を停止するなどの非常措置を講じます。
諸手当の減額あるいは不支給という措置を講じるときは、職員に経営事情をよく説明し、理解を求める必要があります。

【役付手当減額の通知】

諸手当については、給与規定でその支給基準、支給額が明記されているケースが多くあります。
このように支給基準、支給額が給与規定に明記されている病医院の場合は、労働基準法第24条において賃金の全額払いが規定されているため、給与規定を変更したうえで諸手当の減額あるいは支給停止という措置をとることが必要です。
給与規定で諸手当の支給額を明記しておきながらそれを下回る額を支払うということは、たとえ「経営環境がきわめて厳しく人件費の節減が求められている」という合理的な理由があるとはいえ、所定の給与の一部を支払っていないため、労働基準法第24条に違反します。

例えば、給与規定において役付手当の支給基準と支給額を次のように規定している病医院が、経営不振に対応して役付手当の50％カットを行うときは、「改訂例」のように改訂したうえで50％カットを行うのが正しい方法です。

【現　行】
第○条 （役付手当） 役職者に、次の区分により手当を支給する。
　 １　部長　80,000円
　 ２　課長　40,000円
　 ３　係長　20,000円

【改訂例】
第○条 （役付手当） 役職者に、次の区分により手当を支給する。
　 １　部長　40,000円
　 ２　課長　20,000円
　 ３　係長　10,000円

また、家族手当の支給について次のように規定している病医院が、経営不振のため家族手当の支給は配偶者のみに限定し、それ以外の家族には支給しないという臨時措置を講じるときは、給与規定を「改訂例」のように改めなければなりません。

【現　行】
第○条 （家族手当） 扶養家族を有する者に、次の区分により家族手当を支給する。
　 １　配偶者　　　15,000円
　 ２　第一子　　　 5,000円
　 ３　第二子　　　 4,000円
　 ４　第三子以下　　1人につき3,000円
　 ５　父母（60歳以上）　　1人につき2,000円

【改訂例】
第○条 （家族手当） 扶養家族を有する者に、次の区分により家族手当を支給する。
　 １　配偶者　　　15,000円
　 ２　第一子　　　 5,000円
　 ３　第二子　　　 4,000円
　 ４　第三子以下　　1人につき3,000円
　 ５父母（60歳以上）　　1人につき2,000円
　 　 �� 前項の規定にかかわらず、平成○年○月から当分の間、配偶者以外の者については手当を支給しない。

経営が不振に陥ると、職員のほうから病医院側に手当の返上を申し出ることがあります。その代表例は、役付手当です。役職者が経営の窮状を見て役付手当の一部あるいは全部の返上を申し出ることになります。

このように、職員が自主的に手当の一部あるいは全部の返上を申し出る場合においても、それを病医院として実施するときは、あらかじめ給与規定の変更が必要です。労働基準法第93条は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とします。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と規定しているからです。

就業規則（給与規定）で手当の金額を具体的に明記している以上は、その全額を支給しなければなりません。「職員が申し出たから」といって、給与規定を変更することなく、手当の減額措置を講じることは許されません。