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経営不振に伴う過剰雇用を解消するために希望退職を行うときは、あらかじめ次の事項を決定しておくことが必要です。 まず第一に、募集人員を決定します。すなわち、退職者の人数を具体的に決めます。募集人員は、
の２点を十分に勘案して決めます。 希望退職の目的は、過剰雇用の解消です。したがって、本来的には「どれだけ雇用が過剰になっているか」だけを念頭において募集人員を決定すればよいでしょう。 しかし、希望退職の場合には、退職を勧誘するために割増退職金を支払うことが一般的になっています。これに対して、病医院の退職金支払能力にはおのずから一定の限界があります。資金が豊かにあるわけではありません。だから、希望退職者が多く出てくると、退職金を支払えなくなる可能性があります。せっかく希望退職を実施しても、退職金を用意できないのでは、実施する意味がありません。 このため、「退職金の原資をどれくらい用意できるか」についても十分念頭に置いて、募集人員を決定するべきです。 【募集人員の決定】
（１）対象者の決め方 次に、希望退職の対象者を決めます。 対象者については、
という２つの取扱いが考えられます。 広く全職員を対象として希望退職を行うと、母集団が大きくなるので、それだけ目標人員を達成しやすくなります。例えば10名の退職者を募集する場合、中高年だけを対象として募集するよりも全職員を対象とするほうが、「10名」という目標を達成しやすくなります。 しかし、問題点もあります。それは、働きざかりの中堅職員や、営業・商品開発など重要な業務を担当する者の中から多くの退職希望者が出て、今後の経営再建に支障が生じることです。実際、経営の第一線で重要な戦力となっている職員が「退職金の優遇を受けられる」「病医院に将来性は期待できない。この際、退職金の優遇を受けて退職した方がいい」ということで大量に退職したら、経営再建に支障が生じることは、火を見るよりも明らかです。 また、希望退職がうまくいかなかったときは、過剰雇用を解消するための「最後の手段」として整理解雇（指名解雇）に踏みきらざるを得ませんが、整理解雇の場合は対象者を限定するのが一般的です。 このようなことを考えると、希望退職の対象者について一定の条件を付けるのが適切です。 （２）一定の条件 この場合、一定の条件としては、実務的にみて、年齢、勤続年数、資格等級、役職、職種、事業所などが考えられます。 【対象者の条件】
これらのうち、１つまたは２つ以上の条件を付けます。例えば、「年齢50歳以上の者」とか「45歳以上かつ勤続15年以上」という具合です。 これまでの希望退職の事例をみると、年齢の面で条件を付けているケースがきわめて多くなっています。これは、中高年の場合、賃金水準が比較的高く、そのために病医院側の賃金負担が重くなっていることによるところが大きな要因です。 なお、２つ以上の条件を付け、その条件ごとに募集人員を決めるという方法もあります。例えば、「管理職○名、40歳以上の総合職○名、30歳以上の一般職○名」「管理職○名、一般職○名」等です。 （１）職員の事情 募集期間を決めることも重要です。 希望退職は、「退職」を求めるものです。職員の人生と生活にとって、退職はきわめて大きな重みを持ちます。退職は収入の途絶を意味します。退職後、どこか別の病医院に就職しなければ生活していけませんが、条件のいい再就職先がすぐに見つかるという保証はまったくありません。再就職のことをいろいろ考え、退職の決断をするには一定の時間が必要です。 退職については、家族に相談しなければならない職員も多いでしょう。しかし、家族に退職の話をするのは気が重いものです。家族は、安定した生活を望んでいるため、退職にすぐ賛成するわけではありません。強く反対する場合が多いのです。退職について、家族の同意を得たり、あるいは家族を説得するには一定の時間がかかるでしょう。 このため、募集期間がわずか３日、４日あるいは１週間程度では、退職を申し出る職員が１人も出ないおそれがあります。退職の申し出がまったくなかったり、あるいはきわめて少ない場合には、過剰雇用を解消することができず、したがって二次募集、三次募集をせざるを得ませんが、それでははじめから募集期間を長くするのとなんら変わりはありません。 （２）病医院側の事情 一方、希望退職者は経営不振、経営危機に対応して実施するものですから、長い時間をかける余裕はありません。３カ月も４カ月もかけていたら経営がさらに悪化し、希望退職では済まない事態に陥ります。 また、希望退職を実施している間、社内は重苦しい雰囲気になり、沈滞したムードが職場を包み込みます。希望退職の期間をあまり長くするのは良くありません。 さらに、希望退職の期間を長くすればするほど退職希望者が多く出るかというと、必ずしもそうではありません。一定の期間が経過すると、退職申し出は途絶えるものです。 （３）適切な募集期間 このように考えると、募集期間はおおむね２週間から１カ月の範囲で設定するのが妥当です。実際、これまでに希望退職を実施した病医院の事例をみても、２週間から１カ月の範囲で設定しているケースが大半を占めます。 （１）希望退職の不確実性 希望退職者募集に応じるか応じないかは、職員の自由です。希望退職は、職員に対して退職を強く勧奨するものでもなければ、強制するものでもありません。したがって、目標人員を達成できるかどうかは不確実です。達成できる場合もあれば、達成できないときもあります。 例えば、過剰雇用の状況を判断し、目標人員10名、募集期間10日間で、希望退職を実施したとします。この場合、募集を開始して２日か３日で10名の退職希望者が出るかもしれないし、最終日になっても３人か４人しか退職の申し出がないかもしれません。 理屈のうえでは、期間を特に決めずに「10名に達するまで募集を続ける」という方法も考えられるでしょう。しかし、期間を限定しないと、いつまで経っても目標の10名に達せず、経営内容がジワジワと悪化していき、抜き差しならない事態に追い込まれる可能性が高くなります。 （２）達成・未達成のときの対応策の決定 希望退職は、このように目標人員の達成について不確定要素が強いため、あらかじめ、
をはっきりと決めておく必要があります。これらのことを経営の意思として決定しておかないと、途中で混乱を招いたり、あるいは雇用調整の目的を達成できなかったりします。 実際、これらのことを経営の統一的意思として決めておかなかったために、途中で関係者の意見が分かれて混乱したり、過剰雇用の完全解消と人員のスリム化という目標が達成できず、経営の再建が必要以上の期間にわたった事例があります。 （３）途中で目標人員に達したときの対応 希望退職を円滑に実施していくためには、あらかじめ「募集期間の途中で応募者が目標人員に達したらどうするか」「募集期間の最終日になっても応募者が目標人員に達しなかったらどうするか」を決めておくのがよいでしょう。 期間の途中で目標人員に達したときの対応としては、
などがあります。 目標人員が合理的に決められていれば、応募者が目標人員に達した段階で雇用調整の目的は達成されたことになります。このため、その時点で募集を打ち切るのが本来のあり方といえるでしょう。 しかし、これまでの雇用調整の実施事例をみると、引き続き最終日まで退職申込みを受け付け、申込者全員を退職させるケースがかなり多くなっています。これは、「経営の再建のためには、人員はできるかぎり少なくしたほうがいい」「労働力のスリム化を最大限おし進めたほうが経営の再建が早く進む」という高度の経営判断に基づくものでしょう。 【目標人員の達成・未達成への対応】
（４）未達成のときの対応 次に、応募者が目標人員に達しなかったときの対応としては、
などが考えられます。 希望退職の実施を決定した時点と比較し、経営不振がさらに一層深刻になり、事態が好転する見込みがないと判断されるときは、整理解雇、指名解雇に踏み切らざるを得ません。 これに対し、希望退職の実施を決定した時点と比較し、経営収支や販売・受注の状況にそれほど大きな変化がないと判断されるときや、目標人員と応募者との差がきわめて少ないときは、強行手段は避け、追加募集あるいは退職勧奨という方法を選択するのが妥当です。 （１）退職日の決め方 希望退職を申し出た職員の退職日を決めます。退職日の決め方には、
の２つがあります。 退職日が人によってバラバラであると、退職期間が終了するまで毎日のように退職の挨拶にくる職員がいたり、職場のどこかで仕事の引継ぎが行われたりして、社内は落ち着かなくなります。「一致団結して病医院の再建に取り組もう」という建設的なムードは生まれません。 また、退職者が役職者の場合には、後任者を発令しなければなりませんが、後任人事、昇進人事がバラバラに行われることになり、統一がとれなくなります。
という観点から判断すると、病医院のほうで退職日を決め、その日に希望退職者全員に退職辞令を出すことにするのがよいでしょう。 （２）募集期間と退職日との関係 病医院のほうで退職日を決める場合、退職日をいつにするかが１つのポイントとなります。 退職を申し出た者は、すでに退職後の生活に関心が移っています。また、周囲の職員も、「あの職員は近く退職する」と、一定の距離を置いた目で退職者をみます。 退職を申し出た職員は、退職日までに仕事の引継ぎをしなければなりませんが、一般の職員の場合、引継ぎは２、３日もあれば十分にできます。引継ぎに２週間も３週間もかかるわけではありません。 したがって、退職日は、募集期間終了後できる限り早い時期に設定するのがよいでしょう。一般的にいえば、募集期間終了日から１週間前後経過した日を退職日とするのが適切です。 例えば、募集期間を３月１日〜14日としたときは、21日前後を退職日とし、その日に希望退職者全員を退職させます。 なお、「病医院の指定した退職日に退職すること」は、あくまでも「原則」にとどめます。やむを得ない事情や特別の理由があって退職日までに仕事の引継ぎを完了させることができない職員については、統一退職日とは別に退職日を指定します。 【退職日の取扱い】
希望退職の場合は、退職の申し出を促進するという趣旨から、退職金の優遇行うのが通例です。 退職金の優遇には、主として次のような方法があります。 【退職金の優遇方法】
（１）病医院都合退職の支給率の適用 これは、退職金の算定にあたって、
とを区別している場合、病医院都合退職の支給率を適用するというものです。 （２）定年まで在籍したとみなした勤続年数の適用 退職金は、退職時の基本給に勤続年数別の支給率を乗じることによって算定されます。この場合、勤続年数は「退職時の勤続年数」を意味します。しかし、退職時の勤続年数に相応する支給率では魅力に欠けます。そこで、希望退職においては、その職員が定年まで在籍したときの勤続年数に相応する支給率が適用されることがあります。 （３）定額加算 これは、通常の退職金のほかに、一定額を加算するというものです。 加算額の決め方には、
などがあります。 （４）月数加算 これは、通常の退職金のほかに、退職時の給与の一定月数を特別加算するというものです。 加算月数の決め方には、
などがあります。 支払日をいつとするかは、病医院の自由です。退職日当日までに支払わなければならないとか、退職日から１カ月以内に支払えばよいなどという法律があるわけではありません。 希望退職に応じて退職する職員は、退職金ができるかぎり早く支払われることを希望します。退職してすぐに再就職先が見つからないときは、雇用保険の失業給付を除いて、収入が途絶えるという経済事情もあります。一時的にせよ、収入がとだえるというのは、大きな不安です。このため、退職日以降できるだけ早い時期に支払うのがよいでしょう。 一般的にいえば、退職日以降２週間以内に支払うのが妥当です。 （１）一括払いと分割払い 退職金の支払いについては、
の２つがあります。これについても、病医院の自由に委ねられています。一括して支わなければならないという法律上の規定があるわけではないのです。 退職金は、毎月の給与に比較して金額が大きくなります。 勤続年数の長い中高年職員の場合には、2,000万円、3,000万円に及ぶこともあります。また、高額の退職者が一度に20人、30人に及ぶときは、総額が何億円にも達します。したがって、病医院としては、資金繰りの関係上、何回かの分割払いとし、その負担を平準化したいという気持ちに駆られます。 しかし、退職者は一括して支払われることを希望しています。「病医院の経営は苦しい。分割払いに応じたら、退職金の一部を払ってもらえない事態になるのではないか」と心配する職員も出ます。このため、病医院側の呼びかけに応じて自主的に退職するという事情に配慮して、一括払いとするのが適切です。 （２）口座払い 労働基準法第24条は、「賃金は、通貨で、直接本人に支払わなければない」と規定しています。ただし、本人の同意を得たときは口座払いにすることも認められています。退職金も賃金の一種であるから、労働基準法のこの規定が適用されます。 退職金は、その金額が大きいこともあり、安全確実に支払う必要があります。受け渡しや持ち帰りの途上において事件・事故が起こることは、避けなければなりません。このため、本人の同意を得て、口座払いにするのがよいでしょう。すなわち、本人の同意を得たうえで本人が届け出た金融機関の口座に退職金の金額を振り込むことにします。
希望退職を成功させるためには、退職金以外の面でも一定の優遇措置を講じることが望ましいでしょう。優遇措置としては、実務的に次のようなものが考えられます。 （１）勤務免除の取扱い 希望退職者は、再就職先を探さなければならないが、再就職探しは簡単ではないので、少しでも早くから活動を開始したほうがいいでしょう。このため、退職届を提出してから退職日までの間特別に勤務を免除し、公共職業安定所（ハローワーク）や人材銀行への仕事探し、友人・知人への挨拶、各種雇用情報の収集、再就職先との面接などに充てさせます。 勤務免除の取扱いについては、
などがあります。 【勤務の免除】
（２）年次有給休暇の買い上げ 希望退職者の中には、未消化の年休を持っている者が多くいます。なかには、前年度からの繰越分も含めて、30日、40日も持っている者もいます。年休は、退職に伴って無効となりますが、無効扱いとするのはあまりにも機械的で人情味に欠けてしまいます。そこで、「年休も取らずに病医院のために働いてくれた」ことに感謝し、未消化の年休の全部あるいは一定日数を買い上げます。 買い上げの単価の決め方には、
などがあります。 なお、退職に伴って無効となる年休を病医院が買い上げることは、労働基準法上なんら問題はありません。 【勤務の免除】
（３）賞与の特別支給 夏季・年末の賞与は、ふつう、支給日当日に在籍している者に支給し、退職者には支給しません。しかし、希望退職者に対しては、特別に賞与計算期間中に在籍日数に応じて支給します。 例えば、夏季賞与の計算期間を「前年12月１日〜当年５月31日」、支給日を６月10日とする場合、５月31日までに退職した者に対しては支給しないのが原則ですが、希望退職の場合は、計算期間中の在籍日数に応じて特別支給します。例えば、２月末付で退職するときは、計算期間の半分だけ勤務したわけですから、支給月数の50％を特別支給します。また、３月末付で退職する者は、計算期間の３分の２を勤務したことになるので、本来の支給額の３分の２相当額を支給します。 （４）社宅の退去 社宅に入居している者は、退職に伴って社宅を退去しなければなりません。しかし、自分の家族数や好みや経済力に見合った新しい家を見つけることは容易ではありません。この場合、いったん社宅を退去して仮の住居に住み、そこを拠点に新しい家を見つけることにすると、相当の費用負担がかかります。 そこで、希望退職者に対しては、退職後も一定の期間、社宅に入居していることを認めます。例えば、退職後２カ月を上限に社宅を利用することを認めます。 なお、社宅から退去する者に対し、一定の金額まで引越料を補助することも考えられます。 （５）再就職のあっせん 希望退職者の大半は、再就職することになります。しかし、自分で再就職先を見つけることは必ずしも容易ではありません。ふつうの場合は、最寄りの公共職業安定所（ハローワーク）に行き、求職の手続きをして再就職活動をスタートさせますが、希望退職者の中には、これまで一度もハローワークヘ行ったことのない者もいるでしょう。 希望退職者の側からすると、病医院が再就職に協力してくれると大変助かるはずです。できる限り、再就職について協力的な態度をとるのがよいでしょう。 再就職のあっせんをするときは、病医院として、まず、関連病医院や取引先に対して、希望退職者を採用する意向があるかどうかを打診します。そして、採用意向を示した関連病医院・取引先に対して、職種、採用人員、採用条件、労働条件などを確認します。 そのうえで、
などの情報を希望退職者に知らせます。 求職情報を見て、「この関連病医院・取引先に就職したい」という希望退職者があらわれたときは、その人をその病医院に紹介し、ぜひ採用してくれるよう強く働きかけます。 当然のことながら、希望退職者を採用するかしないかの権限は、関連病医院・取引先にあります。病医院として、採用の決定権はありません。しかし、相手先に強く働きかけることにより、希望退職者の再就職はスムーズにいきます。 「求職情報」のモデルは、次のとおりです。 【希望退職者に対する求職情報】
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