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（１）募集基準の決定 雇用調整のために希望退職を実施するときは、役員会において希望退職実施の必要性を確認したうえで、募集基準（募集人員、対象者、退職金の取扱いい、募集期間、退職日など）を正式に決定します｡ 希望退職は、経営不振という病医院側の事情に基づき、職員に自主的に退職することを迫るものです。退職という雇用契約解約の行為を伴うため、きわめて重要な人事です。募集・採用や昇進・昇格や配置転換、人事異動よりも、はるかに重みのある問題です。したがって、経営の状況を十分に踏まえ、募集人員と募集条件をあらかじめ十分に詰めておく必要があります。十分に詰めたうえでその内容を職員に発表します。そして、「経営再建のためには過剰雇用を解消する必要があり、そのためには希望退職が必要である」との固い信念のもとに、粛々と実施していきます。 （２）コンセンサスの形成 職員に希望退職の実施を発表すると、職員の間から、
という意見や批判が出ることが予想されます。そのようなときに、「自分もそのとおりだと思う」「実は私もそう思っていた」などと、職員に同調する役員・経営幹部が出たのでは、希望退職は成功しません｡ それどころか、社内が混乱・対立するばかりで、経営の再建が大幅に遅れてしまいます。 希望退職は、「経営の総意」「役員全員の判断」として実施すべき重要事項です。したがって、その必要性、募集人員および募集条件について、役員・経営幹部の間においてあらかじめ一定のコンセンサス（合意）を形成しておく必要があります。 役員会で決定した希望退職の募集基準（実施要領）を職員に発表します。発表すべき主な内容は、次のとおりです。 （１）募集人員 募集人員は、「約20人」「およそ100人」「10名程度」という形の数値で示します。クリニックの場合は、「若干名」という表現を使うことも考えられます。 また、「管理職○名、一般職員○名」「事務部門○名、生産部門○名」というように、職種別・部門別に募集人員を発表する方法もあります。 （２）対象者 全職員を対象とするときは、その旨を発表します。これに対して、一定の範囲の者を対象とするときは、その範囲を明確にします。例えば、
という具合です。 この場合、「ただし、病医院が特に必要と認めた者は除く」「ただし、業務遂行に必要な職員は除く」というただし書きを加えておくのが現実的にみて妥当でしょう。 （３）退職金の取扱い 職員にとって退職金の取扱いいはきわめて重要な関心事項です。退職金が魅力的であるかどうかを判断して希望退職に応じるかどうかを決定します。したがって、正確に表現することが必要です。具体的には、
などと、わかりやすく発表します。「できる限り優遇する」「退職金については上積み支給する」というような抽象的表現は避けるべきです。 （４）退職金の支払日 退職金の支払日を明確にします。退職日以降できるかぎり速やかに支払うのがいいでしょう。 （５）募集期間 希望退職の募集期間を「○月○日から○月○日まで」という形で具体的に発表します。 募集の開始については、実務的に、
の２つがあります。一般的にいえば、職員は、「希望退職に応じて退職するかどうか」を決定するに当たって若干の時間的猶予を必要とします。退職は、個人にとってきわめて重要な問題であるからすぐに判断できるわけではありません。 このため、発表日から１週間前後経過してから募集を開始するのが適切でしょう。例えば、３月１日に希望退職の実施を社内発表したときは、その１週間後の３月８日前後から募集を開始します。４月１日から希望退職を開始しようとするときは、その１週間前の３月22日、23日あたりに発表します。 （６）申込先 希望退職する場合、どこに申し出るかを明らかにします。申込先については、
などが考えられます。 （７）申し出の方法 申し出の方法としては、
の２つが考えられます。 口頭による方法の場合には、申し出の事実をめぐってトラブルが生じることが予想されます。例えば、職員が「退職金の優遇が受けられるなら、この際、退職してもいいかな」と軽い気持ちで話したのを、その上司が「部下が希望退職の意思を表明した」と人事部に報告し、その報告を受けて人事部が退職金の計算、退職辞令の作成、社会保険の被保険者資格喪失届の作成など、退職に伴う一連の事務手続きを進めるなどのトラブルです。 希望退職は、整然と進めなければなりません。トラブルやもめごとが発生し、その処理、解決のために無用のエネルギーを費やすようなことがあってはなりません。整然と希望退職を進めていくという観点からすると、病医院としてあらかじめ一定の様式の退職届（希望退職申請書）を用意しておき、それに記名・捺印のうえ、所属長あるいは人事担当部門へ提出させるという方法を採用するのがよいでしょう。 （８）退職届のモデル 以下に退職届（希望退職申請書）のモデルを示します。 【希望退職届（その１）】
【希望退職届（その２）】
（９）退職日 退職日を明らかにします。 （10）特別措置の内容 退職金以外に、
など、一定の特別措置を講じるときは、その具体的内容を正確、かつ、わかりやすい表現で発表します。 （１）発表の方法 発表の方法としては、
などがあります。 どの方法を採用するかはもとより病医院側の自由ですが、対象者全員を集めて、社長あるいは役員が経営の危機と雇用調整の必要性を訴えたうえで、希望退職の実施要領を説明するのがベターです。 （２）発表文のモデル 以下に、発表文のモデルを示します。 【希望退職実施の発表文（その１）】
【希望退職実施の発表文（その２）】
（１）情報提供の趣旨 職員は、希望退職に応じるかどうか決断するに当たって、「失業するのではないか」「失業したらどのようにして生活したらいいか」を心配します。きわめて当然のことでしょう。 このような職員の不安を少しでも解消するため、雇用保険の失業給付についての情報を提供します。 （２）情報の内容 提供する情報の内容は、主に次のとおりです。
【失業給付の給付日数】
（１）面談の趣旨 希望退職は、経営不振を克服するためにやむを得ず実施するものです。すなわち、雇用の量を経営実態に合わせてスリム化し、それによって厳しい経営環境を乗り越えていこうとするところに希望退職の目的があります。 希望退職をスムーズに展開していくためには、職員に経営の実態をよく理解してもらう必要があります。いいかえれば、職員が経営の実態を甘く見ていたり、受注・販売の不振を軽く考えていたのでは、希望退職はうまくいきません。 病医院は、掲示、回覧、文書交付、あるいは説明会の開催などで経営がきわめて厳しい状況に追い込まれていることを訴え、雇用調整の必要性を強調したうえで、希望退職の実施を発表しますが、文書の掲示・配布や、集団説明会だけでは経営危機を正しく理解してもらうには一定の限界があります。 それよりは、経営幹部が希望退職の対象者一人ひとりと個別に面接し、経営が置かれている状況をフランクに説明し、経営の再建について理解と協力を求める方がいいでしょう。文書の掲示・配布や集団説明会よりも、個人面談の方が情報を正しく伝えることができます。 （２）面談の担当者 個人面談の重要な目的は経営の実態への理解を求めることにあります。このため、経営の実態を把握し、かつ、経営の責任を負っている幹部（役員・部長クラス・課長クラス）が面接に当たるのがよいでしょう。 （３）面談の時期 個人面談は、希望退職の趣旨・目的に対する理解を深め、希望退職実施の環境を整備するためのものです。したがって、募集条件を正式に発表したあと、できるだけ早い段階で実施し、面談終了後ただちに募集を開始するのがよいでしょう。一般的には、
というスケジュールを立てます。 （４）退職金情報の提供 希望退職者にとってみると「自分がいくら退職金を支給されるか」が重要な情報になります。「平均的な退職金の支給額がどれくらいになる」「最高の職員でいくら支給される」といった情報はあまり重要ではありません。 希望退職者全員を対象とした文書や、集団説明会では、病医院として個人別の退職金支給額に関する情報を提示することはできません。このため、個人面談の場において、各人に退職金支給額を具体的に知らせます。 【個人面談の目的】
（５）退職金計算書のモデル 各人に退職金支給額を具体的に知らせるための退職金計算書のモデルは以下のとおりです。 【希望退職対象者への退職金計算書】
（６）個人面談のポイント 個人面談のポイントは、
などである。 （７）個人面談の実施要領 個人面談は、統一的かつ効率的に行われることが必要です。このため、あらかじめ面談に当たる経営幹部に実施要領を配布しておくのがよいでしょう。 実施要領のモデルは以下のとおりです。 【希望退職の個人面談実施要領】
一定の期間を限って、退職の申込みを受け付けます。 希望退職を実施する部門としては、
を常時かつ正確に把握しておく必要があります。そして、その情報を的確に役員に報告しなければなりません。このため「希望退職者名簿」を作成するのがよいでしょう。「希望退職者名簿｣の様式は以下の通りです。 【希望退職者名簿】
退職を申し出た者に対して、
を周知徹底しておきます。 希望退職を申し出た職員に対し、退職日までの全期間あるいは一定日数だけ、退職後の準備などに充てさせるために勤務を免除することが考えられます。このような勤務免除を認めるときは、本人にあらかじめ一定の様式の申請書を提出させます。これにより、誰が、いつからいつまで休むかを把握します。 「勤務免除申請書」の様式は以下のとおりです。 なお、退職曰までの全期間について勤務を免除するときは、当然のことですが、後任者との業務の引継ぎを完全に行ってから休暇に入るよう、周知徹底します。 【希望退職者の勤務免除申請書】
退職日と定めた日に、退職者に対して退職辞令を手渡します。 本人が退職届を提出し、病医院側が退職辞令を交付することにより、職員と病医院側との間で結ばれていた雇用契約は名実ともに解除され、職員は「元職員」に変わります。 退職辞令は誰が交付してもいいですが、退職者は病医院の呼びかけに応じて不本意ながら定年前に病医院を去っていくのですから、社長あるいは役員が直接手渡すことが望ましいでしょう。退職辞令の交付を人事担当者任せにするのは、あまり感心できることではありません。 退職辞令のモデルは以下のとおりです。 【希望退職者の退職辞令】
退職者が高度の専門的な知識・技術・技能を持っていたり、あるいは重要な役職に就いていたりしたときは、必要に応じて、
などを約束する誓約書の提出を求めます。 誓約書のモデルは以下のとおりです。 【希望退職者の誓約書】
退職者に対し、特別加算金を含めた退職金を支払います。 退職金をいつまでに支払うべきかについては、労働基準法の規定は特にありません。したがって、いつ支払っても法律上は特に問題ないわけですが、退職者は当然のことながら、一日も早く支払われることを希望しています。支払いをいたずらに先送りすることはよくありません。 このため、退職後できる限り早く支払うこととします。支払いに当たり、所定の所得税を控除します。 退職者に交付する退職金支払書のモデルは以下のとおりです。 【希望退職者の退職金支払書】
退職者について、社会保険の資格喪失事務など、所定の退職手続きをとる。主な手続きは以下のとおりです。 【主な退職手続き】
募集期間の途中で申込みが予定人員に達した場合に、その時点で募集を打ち切るときは、その旨を速やかに職員に発表します。 発表文のモデルは以下のとおりです。 【希望退職の募集打切りの発表文】
希望退職者が特定の部門に多く発生すると、その部門の正常な業務に支障が生じます。例えば、希望退職者が物流担当部門に集中すると、商品の配送業務に支障が生じます。 このように、希望退職者が特定の部門に多く発生したときは必要に応じて、それ以外の部門からの配転人事を行います。 また、係長・課長・部長等の役職者が希望退職に応じたときは、必要に応じて後任者を発令します。 希望退職に伴って、一部門（部・課・係）当たりの人員が少なくなる。それにもかかわらず、組織編成をこれまでと同じにしておくと、組織効率が低下するとともに、「機動的な行動ができにくくなる」「情報の流れが遅くなる」など、さまざまな支障が生じる。その結果、病医院としての競争力が低下する。 このため、必要に応じて組織の統廃合をする。２つ以上の部・課・係を１つに統合したり、あるいは必要度が低下した部門を廃止したりして、組織のスリム化を図る。 組織の統廃合によるスリム化・簡素化の推進は、厳しい経営環境を乗り切るための重要な条件である。 希望退職に応じて退職するかしないかは、あくまでも職員の自由です。したがって、病医院が予定している人数だけ退職申込者が出るという確実な保証はありません。 例えば、募集期間の途中で予定人員に達するかもしれないし、期間が満了しても予定人員に達しないかもしれないわけです。 予定人員に達しなければ過剰雇用が残り、経営不安が解消しません。したがって、経営再建のためには、追加募集をするか、あるいは整理解雇・指名解雇に移行せざるを得ないでしょう。あらかじめ、そのいずれの方策をとるかを決めておき、決めた方策をとります。 追加募集をするときは、その募集要領を職員に発表する必要があります。募集要領のモデルは、以下のとおりです。 【希望退職の追加募集の発表文】
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