遅刻・欠勤は労働契約上の義務違反です。使用者の指示に従って労務を提供することは、労働契約に定められた労働者の基本的な義務ですので、定められた就業開始時刻に遅刻して、その間の労務提供をしないとか、欠勤してまったく労務の提供をしないというのであれば、労働契約上の基本的な義務の不履行として、普通解雇の理由になります。さらに職場秩序維持の観点からすれば、懲戒解雇の理由にもなります。もっとも使用者の解雇権の行使は「解雇権濫用の法理」（労基法18条の２）によって制約されているため、解雇理由があればただちに解雇が認められるというものではありません。

最高裁の判例に、アナウンサーが二度も寝過ごしてニュースの放送に遅刻したために職務懈怠として解雇された事案について、解雇権濫用の法理を適用し、また濫用の判断基準を明らかにしたものがあります（高知放送事件＝最高裁昭和52年１月31日判決・労働判例268号）。
この判例では、アナウンサーの行為について解雇事由に該当するとしながらも、「解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、当該解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効になる」としています。そしてこの判断基準を参考にすれば、遅刻や欠勤を理由に解雇する場合についても、その理由・原因とか、程度いかん、本人の反省の有無、平素の勤務状況、業務に与えた影響、同種事案における他の処分との均衡、従来の取扱いなど諸般の事情を総合して、解雇が過酷に失することがないかという観点から解雇の有効性を判断することになります。

このように解雇権濫用の判断において考慮に入れる事項は多種多様ですので、解雇の是非について一概にはいえませんが、たとえば遅刻や欠勤に、正当な理由や本人の責めに帰することが相当でないと認められる事情のある場合、あるいは無断欠勤であっても、その程度や本人の反省などの諸事情により、解雇は権利濫用として許されないことになります。

この点についていくつか裁判例をみてみましょう。

【有効とされた例】
● 出勤率がきわめて悪く半月余り理由もなく欠勤したことを理由に懲戒解雇したもの（岡崎工業事件＝福岡地裁小倉支部昭和49年８月１日判決・労働判例214号）
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 タクシー会社において無断欠勤が多く配車に多大な支障をきたした場合に普通解雇あるいは懲戒解雇したもの（国際交通事件＝東京地裁昭和59年１月26日判決・労働経済判例速報1190号、東大阪タクシー事件＝大阪地裁昭和54年11月22日判決・労働経済判例速報1036号）
● ６カ月間に計32日無断欠勤をした者を懲戒解雇したもの（住友重機事件＝横浜地裁昭和56年６月26日判決・労働判例370号）

また若干特殊な事情ですが、デモなどに参加して逮捕勾留されたため欠勤した場合に解雇したものがいくつかあります（懲戒解雇したものに浜口染工事件＝京都地裁昭和49年１月17日判決・労働判例195号、東京菱和自動車事件＝東京高裁昭和50年12月24日判決、普通解雇したものに三菱電機事件＝東京地裁昭和49年８月９日判決・労働判例208号、ゼネラル石油事件＝東京高裁昭和49年10月25日判決・判例時報762号）。

【無効とされた例】
● ２カ月間の無届欠勤を理由に懲戒解雇したことにつき、欠勤の発端が代表者から暴行を受けてけがをしたことによるものであって使用者側に原因があるとして懲戒事由に該当しないとしたもの（紫苑タクシー事件＝福岡高裁昭和50年５月12日判決・労働判例230号）
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 トラックの運転手が数回無断欠勤をしたことを理由に懲戒解雇したことにつき、それまでの勤務態度からして欠勤が常習化しているとは認められず、本人に反省の念が乏しいことも会社の対応に対する反発があることなどから、懲戒事由に該当しないとしたもの（愛知車輌事件＝長野地裁松本支部昭和54年６月13日判決・労働判例329号）

ところで届けを出してさえいれば、正当な理由がなくとも無断欠勤にはならないのでしょうか。解雇事由の「無断欠勤」とは無届欠勤のみを意味し、正当な理由があるかどうかにかかわらない（したがって届けを出してさえいればよい）とした裁判例もあります（三菱重工業長崎造船所事件＝長崎地裁昭和47年１月31日判決・労働関係民事裁判例集23巻１号）。

しかし、届け出さえすれば理由もなく恣意的に欠勤できるというものではありません。届け出はしたけれど許可が得られないとか、虚偽の理由を届け出て許可をもらった後にそれが発覚して許可を取り消された場合は、やはり「無断欠勤」の一態様と解されます（前記三菱重工業長崎造船所事件の控訴審である福岡高裁昭和55年４月15日・労働経済判例速報1047号、日本放送協会事件＝東京地裁昭和56年12月24日判決・労働経済判例速報1107号）。

遅刻・欠勤に対して、病医院が従来どのように対応していたかという点は、解雇権濫用の判断において重要な要素となることが多く、職場での暴行や、１年間に欠勤72日、遅刻早退99回と勤務状態が不良であったことを理由に諭旨解雇された場合についてすら、勤務状態の不良についてこれまで病医院においてなんらかの制裁措置をとるなどして警告した事実はなかったことからすると、解雇は過酷であって無効であるとしたものがあります（神田運送事件＝東京地裁昭和50年９月11日判決・労働判例236号）。

解雇権の濫用の法理のひとつの現われとして、裁判所の判断には、使用者はまず労働者の努力や改善を促すべきであり、それによってもなお労働者の勤務態度などが改善されない場合、あるいは改善されないことが明らかな場合にはじめて解雇しうるとの傾向があるようです（前記神田運送事件参照）。

無断欠勤や遅刻の多いことを理由に解雇した場合、それまでの注意や指導がなされていたか、黙認されていた状況ではなかったかが争点になることが多いのです。従来ルーズな勤怠管理がなされていた職場で、いきなり厳格な対応をして遅刻・欠勤を理由にしても、無効とされることになります。

そこで、まずルーズな管理を是正して従業員全体に周知させ、目にあまる従業員に対しては個別に指導や注意をすることが必要になります。訴訟などになった場合のことを考えれば、証拠を残す観点から、書面による注意をしておくことも必要でしょう。少なくとも遅刻・早退・欠勤などの勤務状況や、これに対する病医院の対応についての記録を残しておかなければなりません。また本人に注意や指導をしてもいっこうに改まらないときも、いきなり解雇するのではなく、譴責などの懲戒処分を積み重ね、本人の自覚を促しチャンスを与えることが必要な場合もあるかと思われます。

なお遅刻・欠勤が目にあまる従業員について、今後このようなことはしませんとか、今後同様のことがあったらいかなる処遇をされてもかまいませんという内容の始末書をとることがあります。しかしこのような始末書を本人の意思に反して強制することはできません。もちろん始末書を書くように求めること自体は指導監督権にもとづくものとして許されますが、業務命令として強制したり、これに従わなかったからといって不利益な取扱いをすることはできません。（始末書について丸十東鋼運輸倉庫事件＝大阪地裁堺支部昭和53年１月11日決定・労働判例304号、東芝府中工場事件＝東京地裁八王子支部平成２年２月１日判決・労働判例558号）。また「いかなる処分にも従う」旨の一筆を書かせたからといって、権利濫用法理などすべての法的問題がクリアできるものでもありません。