病医院における労務トラブル防止対策 -　医療・福祉経営改善ナビ

近年、自己破産の申立が増加しているようですが、破産手続き開始の申立や破産手続き開始決定がなされたとしても、破産したこと自体は懲戒や解雇の理由にはなりません。ちなみに破産手続き開始決定を受けても選挙権・被選挙権にも影響はありませんし、戸籍に記載されることもありません。

しかし取締役が破産手続き開始決定を受けた場合には、取締役としての欠格事由となります（商法254条の２第２号）。またいうまでもなく、破産手続き開始決定を受けたことを理由に解任した場合、正当な理由があるわけですから、損害賠償は問題となりません。監査役も同様です。

その他、証券病医院の証券外務員、旅行業者、商品取引所会員、宅地建物取引業者、中央卸売市場の卸売業者、建設業法に定める建設業者、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、公証人、司法書士、不動産鑑定士、有価証券投資顧問業者、質屋、生命保険募集人および損保代理店、警備業者および警備員、風俗営業および営業所の管理者、商工会議所会員なども資格を失います。

資格を失っても、もともと職種を特定していなかった場合には配置転換をして雇用を継続するということがあるでしょう（その場合、職種変更によって賃金などの処遇が下がっても、法的な問題はありません）。ただしこれらの資格がなければ雇用契約本来の目的を達しない場合、たとえば生命保険の外交員として採用したのであって、それ以外の職種につける予定などなかったという場合には、雇用契約に定められた労務の提供が不可能となったのですから当然、解雇の理由となります。

前述のとおり、破産手続き開始決定によって業務に必要な資格を失う場合には、解雇か、あるいは解雇しないまでも配置転換せざるをえません。それ以外の場合には、要するに配置転換に関する業務上の必要があるかが問題となります。この点は、「多重債務者」について前述したとおり、担当部署や担当業務などの具体的状況によっては、配置転換の必要性ないしは合理性が認められると思います。

裁判所は、一般的には、不当な動機・目的があったり、労働者に著しい不利益がある場合以外には、かなりゆるやかに配置転換の有効性を認めていますので、それなりの理由があれば、配置転換が無効とされることはないと思います。ただしこの際、退職してもらいたいという動機で、いやがらせ的に配置転換するのは権利濫用とされるおそれがあります。さしたる理由もなく遠方に赴任させたり、いままでの技能・経験がまったく役に立たないような不合理な配置転換をした場合には、その動機がきびしく問われることになるでしょう。

またかつての裁判所の扱いとしては、破産した場合には退職させて、退職金の一部を破産財団に組み入れるという扱いをすることがあったようです。しかし債務者の更生をはかるという破産・免責制度の理念からすると、退職を強制して雇用の場を失わせることになるのは望ましいことではありません。そこで、実務上では、退職を強制することはせず、ただ現時点で退職したとして退職金額を計算し、その４分の１相当額を任意配当として債権者に任意に支払うということをしているようです。

ただし退職するしないは本人の意思で決めることですから、強制はできません。病医院としても、退職して出直すという方法もあると話すことはかまいませんが、本人に退職の意思がないのに、病医院が執勘に退職勧奨した場合には、不法行為とされることもあります。

破産手続きと免責手続きは別個の手続きであり、債務の免除を受けるためには、免責許可の申立をすることが必要です。もっとも、債務者が破産手続き開始の申立をした場合には、原則として当該申立と同時に免責許可の申立をしたものとみなす旨の規定（破産法248条４項）があり、両者の手続きは一体化しています。免責許可の決定が確定したときは、一部の債権を除いて（たとえば租税や、破産者が悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権、故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為にもとづく損害賠償請求権、養育費、裁判所に隠していた借金など）、破産者はその支払いの責任を免れます（破産法253条１項）。

社内貸付金が免責の対象になるか否かですが、破産法253条には免責されない債務が列挙されています。このなかに病医院からの借入金は含まれていません。したがって免責決定があった場合には社内貸付金についても、返済の義務はないということになります。言い換えると、免責決定が確定して債務が免除された以上、強制的に履行を求めることはできません。また免責された債務について、破産者と債権者との間で支払いの合意がなされても、その合意は無効であるとした裁判例があります（横浜地裁昭和63年２月29日判決・判例時報1280号）。破産者がまったく自由な意思で任意に支払う場合、これを無効だという理由はないと思いますが、給与から控除して返済させるようなことはできないと考えます。

借りたお金を遊興費に浪費したとか、ギャンブルに使ったなどの免責不許可事由のあるときには免責されません（破産法252条）。先物取引、株の信用取引などの投機的行為も、ギャンブルと同様に免責不許可事由に該当するとの見解もあります。クレジットカードで毛皮やブランド品を買いあさった、エステに通ったというのも、不許可事由に該当します。

ただし不許可事由のある場合でも、破産者の不誠実性が顕著でなく、破産者が社会人として更生できる見込みが十分認められるなど特段の事由があるときは裁判所が裁量で免責を許可できるとした例もあります（仙台高裁平成５年３月19日決定・判例時報1476号）。この例では、父親の援助で任意に一部弁済（配当率約14％）がなされているという点も考慮に入れて免責を許可しています。