>病医院の税務調査対応ポイント   >Ⅳ 相続税の調査対策   
4-1 相続税調査の目的
相続税の税務調査は、一般的に相続税の申告期限後、1年から2年後位に行われます。年間4.4万件位の相続税の申告件数に対して調査件数が1.3万件位ですから、税務調査を受ける割合は30%程度です。
法人税の調査対策は法人申告件数の5%程度ですので、調査を受ける確率は高いと思われますが、法人税のように3年から5年経つとまた調査ということはなく、被相続人様(お亡くなりになった方)の申告で最大1回の調査となります。

1  相続税の調査対策はどんな調査ですか
税務調査の目的は、相続財産が適正に申告内容に反映されているか、申告の方法は適切か否かを調べることにあります。
「相続税は、その人の一生の所得税の清算をするために設けられています。」これを分かり易く言えば、「生前、脱税をして見つからなかったとしても、その蓄積から何らかの形で財産として残っているはず(これを『タマリ』と言います)。」それらの財産を確実に捕捉し、過去の課税漏れをすべて清算するのが相続税です。言い換えれば相続税は税金の最後の砦なのです。
また相続税の調査対策は法人税・個人課税調査に比べ非違割合(調査結果で間違いを把握される件数の割合)が高いのです。
したがって、相続税対策としては最低でも10年前から対策をスタートさせなければなりません。
自分勝手に自己ルールで行うと、下記のような脱税事件が発生します。

相続税28億円を脱税 相続税では過去最高

不動産賃貸会社などを経営していた父親の相続財産のうち約59億円を申告せず、相続税約28億円を脱税したとして、大阪地検特捜部は、相続税法違反(脱税)の疑いで、相続人を逮捕。
相続人は自宅物置などに約58億円もの現金を段ボール箱などに入れて隠匿。
調べなどによると、相続人は平成16年10月に父親が87歳で病死し、法定相続人となった。
父親の相続財産は約75億円あったが、計約16億円としか申告せずに計59億3,000万円を隠し、相続税28億6,000万円を脱税した疑い。
2  相続税財産の把握方法
銀行、生命保険会社や一般事業会社などからの支払調書から預金の所在、死亡保険金・退職金の有無などを把握します。
毎年の確定申告書を継続的に管理し、この中の不動産所得、配当所得、利子所得などの資産所得から資産の移動や蓄積状況を把握しています。
特に、金融資産については、故人名義の金融資産はもちろんのこと、配偶者や同居家族の名義預金についても調査し、その妥当性の検討が行われます。
銀行などで資料の収集をしたりして、過去のそれぞれの名義預金の変動を調べ、異常な変動がある年分を集中して精査します。

例えば、亡くなった父の預金が3年前に急に大きく減少していたら、何か他の資産を取得したか、又は、家族などに贈与したかなどが通常考えられます。そのため、新たな資産の取得が確認できなければ、家族名義の預金をチェックし、増加している場合には時期と金額などを照合し、相続税隠し又は贈与の事実を推定します。
さらに、その金融資産の管理者や取引印鑑などをチェックし、真の所有者が誰であるかを判定する場合の目安とします。
3  調査の対象となるのは、どんな申告ですか
(1) 税法適用に誤りや疑問のある申告書
税法の適用に誤りがあれば課税庁は是正する義務があります。また、適用要件を満たすか否か疑問のある申告書が提出された場合、調査を通じて確認します。
 
(2) 生前の所得の状況からみて金融資産の申告額が少ない申告書
金融資産は簡単に分散することができます。そのため、生前の所得の状況から異常に金融資産の少ない申告書はマークされます。
 
(3) 家族名義の預貯金等のチェックや申告がされていない申告書
被相続人と家族名義の預金が混同されて利用されているケースも多くあります。
それらのチェックが行われた形跡の見受けられない申告書は、調査対象に選定される確率は高くなります。
 
(4) 財産評価の資料等が不備な申告書
相続財産の評価については、公的資料等の確認が欠かせません。そのため、各種財産の評価に係る資料等の添付がない(または少ない)申告書は適正な評価が行われていないケースも想定されます。
 
(5) 計算誤りが見受けられる申告書
 
(6) 課税価格が3億円超の申告書
相続税の実地調査率が30%程度で、課税価格3億円超の申告割合は17%程度です。
適用される限界税率が高ければ申告漏れ財産に対する税額も大きくなるため、課税価格3億円超の申告は調査を受ける確率が高くなります。
 
(7) 各種資料との照合により申告漏れが予想される申告書
課税庁部内の各種資料、探聞情報等との突合により申告漏れがあると思われる申告書は、当然調査対象となります。
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