相続税の調査対策で、一番問題になるのが、被相続人の配偶者や子、孫などの家族が名義人となっている預貯金をめぐって、その真の所有者が預金名義人であるのか、被相続人であるのかという、いわゆる「名義預金」の取り扱いです。

（１） ｢名義預金｣に関する判例
この｢名義預金｣の帰属の問題については、過去に幾度となく訴訟になっていますので、参考となる判例を紹介します。
【相続人名義の預金は相続財産か否かが争われた事例】
昭和54年７月30日判決(東京地裁)
(判決の要旨)
�� 相続人名義の銀行預金は、被相続人が管理、運用、支配していたと認められるので、相続財産に該当する。
相続人名義の銀行預金について、印鑑の使用状況、解約、設定、振替の動き、受取利息の預入先等の状況及び相続人方では被相続人が経済の実権を有していた事実などから、当該銀行預金は名義のいかんを問わず、被相続人が管理、運用、支配していたものと認められる。
　 　
�� 相続開始時点において相続人の名義とされていた銀行預金は、その入金額について既に被相続人から贈与されていたものとは認められないので、相続財産に該当する。
　 相続開始時点において相続人名義とされていた銀行預金について、一般的には、名義は権利の帰属を推定させるものである。
しかし、本件においては、原告（相続人）らが預金を贈与されたと主張している時期以降の預金名義と使用印鑑が多種多様で混然としており、原告（相続人）ごとに明瞭に特定区分できる状況ではなかった。
その後の相続開始時点において預金名義が原告（相続人）らに統一されたからといって、当該名義人たる原告（相続人）に対して当該預金の入金額が既に被相続人から贈与されていたものと認めることはできない。
｢名義預金｣の帰属者を判定する際の重要な要素となるのは、その預金の管理や運用がどのように行われていたか、ということになります。
管理とは、使用印鑑が預金名義人ごとに区別されているか、印鑑・通帳等の保有者が誰であるかということです。
運用とは、設定、解約、振替等の行為や預金利息の受取りが誰であるかということです。
以上のことから、「名義預金」と認定されないための留意点を整理すると次のようになります。

【管理面】
�� 届出印鑑は、各自別々のものを使用する
�� 通帳及び印鑑の管理は、預金者本人が行う

【運用面】
�� 口座開設時の申込書は、預金者本人が自筆で記載する
�� 預金の設定、解約、振替等の行為は、預金者本人が行う
�� 定期預金の自動継続による満期利息等の受取額は、各自の口座に入金する

なお、あえて贈与による財産移転を行う場合は、毎年契約書を作成し、翌年贈与税の申告を必ず行うことです。
300万円の現金を贈与しても、納める贈与税は僅か19万円で、実効税率は6.3%(190,000円÷3,000,000円）ですから、資産家にとっては十分考慮する余地はあると思います。 かなり前のことですが、「郵便局の貯金は税務署には分からない」という風評が広まった時期がありました。しかし、それを鵜呑みにしてはいけません。今は、郵便局も一般の金融機関と同様に、取引があれば分かってしまう時代です。
税務署では、申告書に記載されている金融機関に対しては、郵便局も含めて取引内容を文書で照会していますので、被相続人、相続人、孫までの範囲であれば把握できるようになっています 配偶者については、法定相続分あるいは１億６千万円までの財産取得額については相続税額が軽減（控除）されることになっています。
しかし、税務調査で、仮装隠ぺいなどの不正行為があったと認定された場合、その不正行為に基づく金額については配偶者の税額軽減の対象にされないことになっています。
したがって、配偶者の財産取得額が法定相続分あるいは１億６千万円の範囲内のケースであっても、本来、適正に申告していれば全額控除できたものが、不正行為が行われるとその不正行為部分の税額については控除されなくなってしまい追徴されることになります。追徴税額に対して重加算税（35％）が課され、さらに延滞税の計算においても除算期間の適用除外となり相当額の延滞税の負担も生じることになります。