(1)有価証券
現行の会計基準においては、10万円未満の初期調度物品等を1号基本金及び国庫補助金等特別積立金から除外している一方、指導指針では含めているなど、取扱いが異なっていました。
そこで、実態に即した計算・表示とするため、基本金及び国庫補助金等特別積立金の設定時において固定資産以外も計上できるように変更されます。
■評価方法
① |
満期保有目的の債券等
⇒貸借対照表価額は取得価額
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② |
満期保有目的の債券以外の有価証券のうち市場価格のあるもの
⇒貸借対照表価額は時価 |
③ |
満期保有目的の債券
⇒貸借対照表価額は償却原価法に基づいて算定された価額 |
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※ |
償却原価法とは、債券の取得価額と額面金額が異なる場合(債権を額面より高い額、あるい
は低い額で取得した場合)に、満期までの期間、その差額を一定の方法で配分し、毎決算期
に貸借対照表価額に加減する方法です。なお、この加減額は受取利息や支払利息として損益
計算上に計上されることになります。
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新会計基準への移行に当たり、有価証券については次の方法による調整を行います。
① |
会計基準移行年度期首に所有する有価証券のうち、時価評価を適用するものに係る会計基準移行年度の前年度末の帳簿価額と前年度末の時価との差額は、過年度の収益又は費用として調整することとします。
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② |
会計基準移行年度期首に所有する有価証券のうち、償却原価法を適用するものに係る会計基準移行年度期首の帳簿価額と取得時から償却原価法を適用したこととして算定した移行年度期首の帳簿価額との差額は、過年度の収益又は費用として調整することとします。 |
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(2)リース取引
施設・設備整備費の国庫補助金等については、一旦国庫補助金等特別積立金に積立て補助対象資産の償却期間にわたって取崩すことにより、損益の平準化を図ります。
■リース取引の分類
① |
解約不能のリース取引であること
リース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引
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② |
フルペイアウトのリース取引であること
当該物件を自己所有する場合に期待できる経済的利益を実質的に享受でき、かつ、
取得価額、維持管理費用などの費用を実質的に負担している。
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①②の両方を満たす場合 |
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①②の両方を満たす場合以外 |
ファイナンス・リース取引 …リース料300万円超はリース会計適用 |
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(Ⅰ)所有権移転条項がある場合
(Ⅱ)借り手に割安購入権選択権があり、 行使が予想される場合
(Ⅲ)特別仕様のリース物件の場合
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いずれかを満たす場合 |
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いずれかを満たさない場合
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移行時における過年度分の処理は次の2つの調整方法があります。
① |
リース取引開始時から売買処理を適用した場合の会計基準移行年度期首までの減価償却累計額をリース料総額から控除した金額をリース資産に、未経過リース料相当額(利息相当額控除後)をリース債務に計上する方法
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② |
会計基準移行年度における未経過リース料残高相当額(利息相当額控除後)を取得価額とし、会計基準移行年度期首に取得したものとしてリース資産、リース債務を計上する方法 |
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しかし、リース取引開始日が会計移行年度前の「所有権移転外ファイナンス・リース取引」はリース契約を終了するまで賃貸借処理も認められます。
社会福祉法人のリース取引の大部分が、所有権移転外ファイナンス・リース取引であることが予想されますので、実務においては、従来賃貸借処理を行っていたものについては、当該リース契約が終了するまでの期間、引き続き賃貸借処理をする方が事務負担量が少ないといえます。
(3)退職給付引当金
施設・設備整備費の国庫補助金等については、一旦国庫補助金等特別積立金に積立て補助対象資産の償却期間にわたって取崩すことにより、損益の平準化を図ります。
① |
退職共済預け金は掛金累計額、退職給与引当金は期末要支給額で計上する方法
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② |
退職共済預け金、退職給与引当金共に期末要支給額で計上する方法 |
③ |
退職共済預け金、退職給与引当金共に掛金累計額で計上する方法 |
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これに対し、会計基準では、下記④~⑥の方法を認めています。
④ |
退職給付引当資産は掛金累計額、退職給付引当金は期末要支給額で計上する方法
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⑤ |
退職給付引当資産、退職給付引当金共に期末要支給額で計上する方法 |
⑥ |
退職給付引当資産、退職給付引当金共に掛金累計額で計上する方法 |
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会計基準への移行に当たり採用できる会計処理の方法は、従来採用している会計処理の方法により次のように区分されますが、移行時に限り、従来採用している方法から会計基準で認められるそれぞれの方法への変更を認めることとします。
● |
従来、①を選択している法人
④の方法を選択することを原則とするが、⑤又は⑥の方法に変更することを妨げない。
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● |
従来、②を選択している法人
⑤の方法に移行することを原則とするが、④又は⑥の方法に変更することも妨げない。
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● |
従来、③を選択している法人
⑥の方法に移行することを原則とするが、④又は⑤の方法に変更することも妨げない。
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なお、独自に退職金制度等を設けている場合においては、運用指針Ⅰ20(2)アに留意して退職給付引当金を計上することとします。また、退職給付引当金を新たに計上する場合の会計基準変更時差異については、会計基準移行年度から15年以内の一定の年数にわたり定額法により費用処理するものとします。
(4)その他の引当金
会計基準への移行に当たり、会計基準移行年度の前年度末において計上されている徴収不能引当金、賞与引当金、退職給与引当金以外の引当金については全額取り崩すこととなります。なお、取崩金額は、事業活動計算書上、運用指針Ⅱ1(3)に基づき計上することとします。これらについては、移行年度に過年度分として特別増減を計上して調整します。
(5)4号基本金
旧基準第31条第1項第4号で規定していた第4号基本金は、会計基準では廃止されたため、会計基準への移行に当たり第4号基本金計上額は、全額取り崩すこととし、取崩金額は事業活動計算書上繰越活動増減差額の部に「基本金取崩額・第4号基本金取崩額」という勘定科目を設けて計上することとなります。
なお、当該勘定科目は、旧基準で認められていた第4号基本金を移行年度において取り崩す場合に限り使用できる勘定科目となります。
(6)国庫補助金等特別積立金
旧基準では、減価償却費に対応する国庫補助金等特別積立金取崩額は、国庫補助金等特別積立金の額を耐用年数で除した金額とすることとされていたため、平成19年3月31日以前に取得した固定資産については、耐用年数到来時には、当該固定資産の帳簿価額は取得価額の10%となるが、国庫補助金等特別積立金の帳簿価額はゼロとなる状況が生じていました。
これに対し、会計基準では、国庫補助金等特別積立金取崩額は、支出対象経費(主として、減価償却費をいう。)の期間費用計上に対応して行う計算方法とされたことに伴い、固定資産の減価償却計算と国庫補助金等特別積立金の取崩計算における算式は同様のものを使用します。
会計基準への移行に当たり、原則として、固定資産の減価償却累計額と国庫補助金等特別積立金取崩額との調整を行うこととしますが、重要性が乏しい場合には、調整は不要となります。
なお、介護保険事業について、「「社会福祉法人会計基準」及び「指定介護老人福祉施設等会計処理等取扱指導指針」等の当面の運用について」(平成12年12月19日社援施第49号・老計第55号課長通知)に基づき、国庫補助金等特別積立金取崩額の計算に当たり指導指針の方法による処理の結果を旧基準の計算書類の計上額としている場合には、会計基準への移行に当たり特段の調整処理は不要です。
これは、つまり、処理方法が指導指針に統一されたということです。
(7)借入金元金償還補助金
会計基準では、設備資金借入金元金償還補助金は国庫補助金等特別積立金の積立対象となります。
①原則的方法
会計基準への移行に当たり、会計基準移行前の会計年度において、設備資金借入金元金償還補助金を受領している場合(償還補助予定額が確定している場合を含む)には、当該補助金について国庫補助金等特別積立金へ計上しなければなりません。
会計基準への移行適用に当たっての国庫補助金等特別積立金の計上金額は、国庫補助金等がいまだ入金されていない金額を含んで取崩しが先行するため、既に入金済みの国庫補助金等の総額から、償還補助予定額の総額(設備資金借入金の償還に係る補助が既に打ち切られている場合には、実際に入金された国庫補助金等の額)を基礎として会計基準移行度期首までの経過期間の減価償却累計額に対応する国庫補助金等特別積立金取崩額の累計額を控除して算出します。
②移行時の特例
会計基準移行年度において償還補助金の対象となっている固定資産の耐用年数のほとんどが経過している等により、会計基準移行年度以降の取崩金額に重要性が乏しい場合には、当該補助金に係る国庫補助金等特別積立金の計上を行わないことができます。
つまり、既に、償却済みおよび、ほとんど償却済みのものは、積み立てなくてよいということです。
【事例】設備資金借入金元金償還補助金を国庫補助金等特別積立金に計上
例) |
特養A 園舎 |
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① |
補助金総額
平成11.3.31~
1,000,000円×20年=20,000,000円(11年経過)
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② |
国庫補助金等特別積立金繰入累計額
1,000,000円×11年=11,000,000円
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③ |
対象資産の耐用年数
39年
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④ |
国庫補助金等特別積立金取崩累計額
単年度取崩額=20,000,000円×0.026=520,000円
取崩累計額 =520,000円×11年=5,720,000円
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⑤ |
同期首残高
11,000,000円-5,720,000円=5,280,000円
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(借方) |
(貸方) |
会計基準移行に伴う過年度修正額
5,280,000円
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国庫補助金等特別積立金
5,280,000円
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(8)現科目と新科目の異動
旧基準の勘定科目と会計基準の勘定科目の異動については、「旧基準と会計基準の勘定科目比較表」にて対応する科目へ異動します。
新会計基準への移行のために必要な準備作業として行っておくことが望ましい点を整理すると以下のものが挙げられます。
(1)平成25年度予算策定に向けた準備項目
旧基準の勘定科目と会計基準の勘定科目の異動については、「旧基準と会計基準の勘定科目比較表」にて対応する科目へ異動します。
①会計区分方法の検討
事業区分、拠点区分、サービス区分をどのように設定するかなど。
②サービス区分別の経費按分基準の設定
面積比、従事割合、使用割合など各経費の按分基準を設定する。
③事務費、事業費の按分基準の設定
使用割合など各経費の按分基準を設定する。
④科目処理の統一化の検討
同一法人で事業所ごとに処理科目が異なっている場合には移行前に同一科目で処理するこ
とを検討する。
(2)開始貸借対照表の作成
旧基準の勘定科目と会計基準の勘定科目の異動については、「旧基準と会計基準の勘定科目比較表」にて対応する科目へ異動します。
①固定資産の償却方法の確認
特にH19.3以前に取得した資産の1円までの償却方法。
②国庫補助金等特別積立金の取扱の変更
元金償還補助金を受けている法人(指導指針以外の会計処理を採用している法人)の過去の累計額の積立、取崩。
③リース会計処理方法の検討
既存リース契約で300万円を超えるものを資産計上させるかどうかなど。
④ワンイヤールールへの対応
現在残高のある長期借入金のうち1年以内返済する金額の確認など。
(3)決算処理対応
①決算処理伝票作成
●減価償却費の計上
●国庫補助金等特別積立金の積立と取崩
●棚卸資産の処理
●その他の積立金の積立及び取崩
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②附属明細書の作成
●基本財産およびその他の固定資産の明細書
●引当金明細書
●拠点区分資金収支内訳表
●拠点区分事業活動内訳表
●借入金明細書
●受取寄附金明細書
●受取補助金明細書
●事業区分間及び拠点区分間資金異動明細書
●基本金明細書
●国庫補助金等特別積立金明細書書
●積立金・積立預金明細書
●就労支援事業製造原価明細書(就労支援事業を実施している場合)
●販売費及び一般管理費明細書(就労支援事業を実施している場合)
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③注記事項の記載
●重要な会計方針
●重要な会計方針変更、その理由及び影響額
●基本財産の増減内容及び金額
●基本金又は国庫補助金等特別積立金の取崩し、その理由及び金額
●担保に供されている資産の種類・金額及び担保する債務の種類・金額
●継続事業の前提に関する注記
●法人で採用する退職給付制度
●拠点区分・サービス区分の設定方法等
●減価償却累計額を直接控除した場合は、取得金額、減価償却累計額、当期末残高
●徴収不能引当金を直接控除した場合は、債権金額、徴収不能引当金当期末残高、債権当期末 残高
●保証債務等の偶発債務
●満期保有債券の帳簿価額、評価損益等
●国庫補助金等の内訳、増減額、残高等
●関連当事者との取引内容
●重要な後発事象の内容及び影響額
●その他必要な事項
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(4)決算処理対応
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