1  決算書分析の体系
決算書分析では、損益計算書や貸借対照表などの決算書(財務諸表)を様々な観点から分析することにより、病医院の経営成績や財務状況の良否を判断します。
決算書分析を大きく分けると、「実数分析」と「比率分析」「損益分岐点分析」があります。実数分析は、財務諸表の実数をそのまま利用して分析し、比率分析は、財務諸表の実数から関係比率または構成比率を算出して分析します。
また、損益分岐点分析では自院の採算ラインや経営安全度を把握することができます。

(1)損益計算書分析

(2)貸借対照表分析

(3)キャッシュフロー分析

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2  「実数」「比率」の時系列分析で傾向と要因をつかむ
決算書診断の基本は時系列で比較することです。少なくとも3期以上のデータを時系列に並べて期間比較し、その変化を見ることにより、その指標が上昇傾向にあるのか、それとも下降傾向にあるのかのトレンドを捉えることが必要です。急激な変動があった場合には、何故そうなったのか、その要因を探り、納得できるような答えが見つかるまで確かめることが重要です。

(1)実数分析
実数分析には、基本的な損益計算書分析、貸借対照表分析、キャッシュフロー計算書分析などがあります。
また、診療報酬実績の比較を診療行為別に区分した期間比較も必要です。このほかに、患者数の増減による影響とレセプト単価の変動による影響も分析の対象となります。
増加、減少の要因を分析することによって、どこにどのような問題があるのか、いつまで、どうしなければならないのか、という改善策が明らかになります。

 ① 損益計算書分析で確認すべきポイント
 
損益傾向
医業収益の増減
3つの利益(限界利益、医業利益、経常利益)の増減
経費の推移(変動費、固定費)
部門別損益
損益計算書分析では、財務会計による診断では正確な収益力を把握しづらいため、変動損益計算書に置き換えて分析を行います。
 
 ② 貸借対照表分析で確認すべきポイント
 
総資産・負債の増減バランス
自己資本の充実度
総資産の増減と自己資本の増減のバランス
売掛債権・在庫の増減バランス
   
 ③ キャッシュフロー計算書分析で確認すべきポイント
 
営業キャッシュフロー
投資キャッシュフロー
フリーキャッシュフロー
合計キャッシュフロー
   
 ④ 個別分析
  「診療行為別」の分析を行い、決算書に表れている数値の要因分析を詳細に行ってきます。これらは、決算書からはつかむことはできませんので、別途分析資料の作成が必要になります。

(2)比率分析
比率分析には、収益性分析、安全性分析、生産性分析、成長性分析等があります。
実数分析では、仮に、経営成績の良否の判定を同業他病医院と比較しようとした場合、病医院別の同種医院平均値と比較することになりますが、病医院の歴史も違い、又、職員数も異なるため、単純に実数を並べても比較しにくいところがあります。
この場合、実数を比率に置き換えると、規模の大小にとらわれず比較することができます。

 ① 収益性分析で確認すべきポイント
 
資本利益率(総資本対経常利益率、経営資本対医業利益率、株主資本対経常利益率)
医業収益利益率(医業収益対医業利益率、医業収益対経常利益率)
資本回転率(総資本回転率、流動資産回転率、固定資産回転率、棚卸資産回転率)
 
 ② 安全性分析で確認すべきポイント
 
流動比率
当座比率
固定比率
固定長期適合率
自己資本比率
   
 ③ 生産性分析で確認すべきポイント
 
付加価値労働生産性
資本生産性
労働分配率
   
 ④ 成長性分析で確認すべきポイント
 
医業収益増加率
限界利益増加率
医業利益増加率
経常利益増加率
自己資本増加率

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3  損益分岐点分析で不況抵抗力を見る
損益分岐点医業収益は、利益も損失も出ない「収支トントン」の医業収益をいいます。その金額が実際の医業収益よりも低水準にあるときは、不況のときでも抵抗力が強いことを意味します。つまり、万一、医業収益が損益分岐点まで減少したとしても、赤字にはならない採算ラインを把握することになります。

【損益分岐点比率の計算式】
損益分岐点比率 = 損益分岐点医業収益 ÷ 純医業収益

こうした計算をもとに経営分析することを「損益分岐点分析」といいます。
損益分岐点分析は、古くからの経営分析手法ですが、直感的に理解しやすいので、今日でもよく用いられます。
損益分岐点比率は低ければ低いほど収益性が高く、かつ収益減少に耐える力が強いことを意味し、経営が安定していると判断されます。
8割程度が理想であるとされていますが、業種により異なり、一般には9割を若干上回る程度の業種が多いのが現状です。

この損益分岐点分析を行うには、医業収益と費用の関係を明らかにするために、費用を「変動費」「固定費」に分けて考える必要があります。
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