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4-4 相続税調査の対応と調査ポイント
1  調査の事前準備
相続財産に関する証拠書類は事前に揃えておいて、調査の際には手元に置いてすぐに出せるようにしておきましょう。
税務調査の担当者は、最初は脱税を行っているかいないかを確認しようとします。
相続とまったく関係ない書類であっても、その提示を拒めば脱税ではないかと疑います。
したがって、懸命な納税者は専門家に相談し、書類を適正に整理整頓する必要があります。

(1) 事前準備を行う理由
税務調査をできるだけ早く終わらせるようにするため
調査に直接関係ないものを調査官に見られないようにするため
 
(2) 保管場所の整理
調査官は金庫のほかに、相続人の寝室へも行きたがります。寝室には、大切な書類が保管してありますし、日記帳があればその中身を見て申告漏れを発見する手掛かりがないかを探します。
プライベートなもので相続財産と関係ないものは整理しておくとともに、調査官の要求があった場合はいつでも案内できるようにしておくとよいでしょう。

【事前に用意しておく証拠書類】
預金通帳・証書 銀行届出印 不動産の権利書
株券(預り証、報告書) 社債・国債 ゴルフ会員権
生命保険の証書 損害保険の証書 など  
2  財産種目別の調査ポイント
相続財産のうち土地や建物などの不動産は、法務局で登記簿を調べれば簡単にその有無を把握することができますので、相続税の調査対策のポイントは、現金、預貯金、有価証券などの金融資産の申告漏れを見つけることにあります。

(1) 預貯金
「死亡間際の引き出し」や「多額な引き出し」のほかに、大きな問題としていわゆる「名義預金」があります。本当の預金者は被相続人であるのに、妻や子、あるいは孫名義になっているものがないかどうか調査されます。印鑑や通帳は誰が管理していたかがポイントになります。
 
(2) 株 式
取引している証券会社を訪問して取引状況を詳しく調べ、申告漏れとなっている株式がないかどうかをチェックします。この際、被相続人名義のものだけでなく、相続人や家族名義のものも調べます。
端株(無償交付の際の単位未満株式)などの申告漏れを発見するために、証券代行会社への反面調査や文書で照会します。
 
(3) 割引金融債
割引金融債をその発行銀行等に保護預りにしたり、一定金額以上を購入した場合は、その債権購入者の住所・氏名が記録されます。
 
(4) 不動産
不動産については申告漏れの発見よりも、評価が適切かどうかかポイントになります。
評価はその評価方法で価額が大きく変わります。
土地によっては、不動産鑑定評価をして実態に即した申告をすることが節税になります。
したがって、土地建物の平面図、登記簿謄本、利用状況を担当税理士と早期に相談することが得策です。
 
(5) その他の財産
生命保険契約に関する権利、一時払いの損害保険など相続財産として漏れやすいものがポイントになります。
 
(6) 債 務
借入金などの債務については、債権者に対して当初の貸付年月日、貸付金額、貸付期間、死亡目現在高、貸付事由、担保物件などを照会することにより、その債務の実在性を調査します。また、その借入金によって取得している資産が申告されているかどうかをチェックします。
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3  相続税の調査対策の調査方法
(1) 被相続人の死亡原因について
事故死か病死の区別、療養期間が長かったか否か、意思能力や行為能力はいつまであったかなどを確認する。
 
(2) 被相続人の経歴や職歴について
蓄財の方法や当然所有しているであろう財産の推定を行うため。
 
(3) 被相続人の趣味について
ゴルフが趣味であればゴルフ会員権が、骨董品に関心があればそれらの商品があるのではないか推測します。
 
(4) 被相続人の財産を生前、誰が管理していたのかについて
管理者の預金と被相続人の預金との区別ができているか確認する。また、仮装隠ぺいしていた事実がある場合には、実行者が誰であるかを特定するため。
 
(5) 相続人の家族の職業や推定所得について
相続人の収入を確認し、相続人の預金等の有り高のバランスを検討します。
 
(6) 郵便局や農協の預貯金等の有無について
一般的に都心部以外の地域では郵便局や農協との取引が多く行われる傾向があり、申告されていない場合、確認するため。
 
(7) その他の金融資産の有無について
具体的に○○銀行などに預金がないかと質問する場合には、資料を押えた上での質問と思われます。その場合、相続人は再確認の上、申告漏れがないか慎重な対応が必要です。

被相続人名義及び相続人名義の各預金の合計残高が多額である場合、課税庁は、その調査に当たっては、相続人等の所得・財産の多寡にかかわらず、名義預金の存否及びその金額について、常に高い関心をもっています。

したがって、納税者がこのことについて無関心・無防備であっては、真実名義人の預金であるものについても、相当な労力を費やして対応しなければ、名義預金であるとの認定をされかねません。

名義預金の認定のための調査では、調査を行う側の課税庁の認識と、調査を受ける側の納税者の認識の違いが、調査結果にスタート・ダッシュでの差として大きく影響します。
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4  相続税の調査対策の対策(名義預金)
名義預金に関連する預金の態様別の対策・対応は、次のようなものが考えられます。

(1) 名義人に長期間にわたり相当の所得等がある場合
名義預金の名義人に、長期間にわたって相当の所得等があり、通常なら、名義人にその預金の預入をするための資金力があると認められるときは、課税庁においても、特別に名義人に対して当該預金が名義人の固有財産であるとの立証を求めることは稀であり、名義人の固有財産であると認定する(名義預金と認定されない)場合が多いと思われます。
しかし、納税者側が、課税庁の名義預金であるという指摘に対し、名義人に長期間に渡り所得等があり、その間の可処分所得等から預金額を調達することができることを大まかに主張・説明しただけでは、課税庁側の納得が得られない場合もあります。このような場合で、名義預金であるとの指摘を受けたときは、名義人にその預金に相当する資力があると認められても放置せず、調査担当者にその指摘の根拠について釈明を求め、適切に対処することが大切です。
 
(2) 名義人が名義預金をすでに贈与されている場合
名義人が、その預金が自己の所有にかかるものである旨を主張するための根拠として、被相続人からの生前贈与によって当該預金を取得したと抗弁することができれば、その預金は課税時期においては、名義人の所有になっていることになり、課税庁は、これを名義預金と認定することは困難です。
この場合には、贈与を受けた年分の贈与税の申告をした事実を提示します。すでに課税の排斥(制限)期間を経過していて課税庁がその事実を確認できないときは、贈与税の申告書控か贈与税の納付済領収書を提示すればよいでしょう。
贈与税の申告をしていない場合で、課税の排斥(制限)期間が経過している場合には、贈与税が課税されることはありませんが、名義人は、自ら贈与税の申告義務を履行しなかった不適法な行為を基因として、贈与税の排斥(制限)期間の経過を主張することにより、もはや課税されないという課税上の利益を得ようとするのですから、その時点での贈与認定が得られない場合もあると考えられます。
 
(3) 名義預金の口座ごとの認定方法
名義預金の認定は、預金口座ごとに行うのが原則です。預金口座ごとに、その預金の設定手続きの状況、その後の預入及び払出しの状況、その預入金の調達及び払出金の使途の状況、その預金通帳・預金証書、使用印鑑等の保管状況などを精査して判定することになります。
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5  相続税の調査対策の対策(名義株)
取引相場のない株式等については、会社の設立時の発起人等の事情やその後の増資の際の株主の事情などから、株主としての実質を有しない名義上のみの株主がいることがあり、その場合には、その名義上の株主(名義株主)に代わる実質的な株主(実質株主)が存在するのが通例です。

この名義株主に係る株式は「名義株」といいますが、この名義株の実質株主が被相続人である場合には、相続税の申告の際に、名義預金と同様に実質的な遺産としてその名義株を相続税の課税財産として計上する必要があります。

(1) 名義株の認定判断
その名義上の株主が実質的に株主としての資格・権利ないし義務を実際の行為で行っているかどうかの観点から判定することになります。
具体的には、その名義株主が株主としての権限を有し、その権利を行使・享受しているかの点が重要なポイントになります。
例えば、名義株主とされる者について、株主総会への出席の有無やその召集通知の受領の有無、配当金の受領の有無、その受領方法、その名義株の発行に至った経緯、当時の会社役員の事情等を詳細に確認して判定します。
 
(2) 相続税申告の際の取扱いと補完的措置
相続税の申告において、名義株が存在することを知りながらその名義株を除外して申告をすることもあると思われます。相続人は、その名義株については、名義上ではその株式は遺産に含まれないので、その申告が認められる可能性があるのではないかと考えて、その名義株を申告しないことにしたものと推測されます。
ところが、名義株の名義株主がその株式の発行会社の設立に際し、主宰者である被相続人に依頼されて、名義株の名義株主となることを受諾し、その後その名義株主が当該名義株の実質株主であるとの主張はしなかったのに、被相続人が死亡した後になって、当初の被相続人との口約束を反故にして、その株式は実質上も自己の所有株式であると主張することになるかも知れません。
このような場合に、相続人が相続税の申告に際し、この名義株を除外したところで申告をしていると、相続人は名義株主に対して、その株式が名義株であって、名義株主には帰属せず、実質株主であった被相続人に帰属していたとの抗弁をすることができなくなります。
したがって、名義株については、今後の事業承継等のことも考慮して、念書等を作成しておくべきです。また、このような確認手続をした後に、その名義株について、株主を名義株主から実質株主に変更しておけば、将来の扮装を未然に防止することができます。
6  無記名債権の所有者の判断
被相続人が所持していた割引金融債その他の無記名債券については、無記名債券は動産とみなされることから、その無記名債券を所持する者の所有に属するものとなります。「無記名債券」とは、証券面に債権者の名を記載しないで、その正当な所持人に弁済する証券的債券をいいます。
したがって、無記名債券については、その所持人が被相続人であるときは、被相続人の遺産に組み込まれることになります。
所持人の判定については、その証券の購入者、購入資金の調達方法、購入手続を行った者、その証券の保管状況等を総合勘案して判定します。
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