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1経営幹部が身に付けるべき問題発見力・解決力とは

問題とは何か

企業経営には多くの問題が存在します。しかし、問題の中にはなかなか解決しないものや、解決したと思っても何も変わらないものが数多くあります。
これは、解決策を立てる以前の「問題」そのものの捉え方が間違っているからです。自分では「問題」と思っていることが本当に「問題」であるのか、問題解決のために今後取組むべき課題設定をどうすればよいのか、ということが重要になります。

問題とは「あるべき姿」と「現状」とのギャップ

そもそも問題とは何でしょうか。ロバート・A・サイモンは、『意思決定の科学』(1979年)の中で、『問題解決は目標の設定、現状と目標(あるべき姿)との差異の発見、それら特定の差異を減少させるのに適当な、記憶の中にある、もしくは検索による、ある道具または過程の適用という形で進行する』としています。
言い換えれば、『目標(あるべき姿)と現状とのギャップ』が「問題」ということになります。

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問題の3つの類型

問題は、問題を考える時点から見て、「発生型問題」「探索型問題」「設定型問題」の3つの類型に分けることができます。
また、その問題解決は誰が担当すべきかという点については、「発生型問題」は一般職(主任・係長含む)、探索型問題は管理職、設定型問題は経営者や経営幹部が主として担当すべきです。

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(1)発生型の問題

発生型の問題とは、例えば利益が減っている、顧客が増えない、顧客や消費者からのクレームがあった、といった目に見える問題、ということができます。
したがってその処置を考え、次になぜそのような問題が発生したかの原因分析が必要となります。ある意味においては「原因志向型」の問題といえます。ただしこの中で、近い将来に発生すると考えられる、すなわち「このままでは~となる」であるとか、「近い将来~となることが予想される」といった問題の発生が確実視されるような場合であっても、発生型の問題としてとらえることが妥当です。いわば、発生型の問題とは、現状意識によって得られる極めてベーシックな問題という事ができます。

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問題形成、問題解決のポイント

なぜ逸脱したのか、なぜ未達なのか等、原因追求を的確に行うことにより解決策を見出すこととなります。

(2)探索型の問題

探索型の問題とは、現在特に問題が発生しているわけでありませんが、目標を現在より高く設定し、意識的にギャップを作り出すことによって発生させる問題です。
例えば「今よりももっと売上や利益を増やすためには」であるとか。「顧客満足をもっと高めるためには」といった体制の強化や方法の改善を指向するような場合に用います。目標を意識的に引き上げるという意味においては設定型であり、どうして現状レベルにとどまっているか、という現在の活動システムの診断という意味においては発生型の問題分析の性格を持ちます。

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問題形成、問題解決のポイント

レベルを上げた基準が像を結ばなければ、いつまでもそれらは問題としてなり得ません。つまり、具体的目標を掲げた上で対策を講じることが必要となります。

(3)設定型の問題

設定型の問題は、今までにない全く新しい目標を設定する場合の問題をいいます。未来から発想し、現在何をすべきかを考えることであり、目標指向型とみなすことができます。

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問題形成、問題解決のポイント

上述の通り、今の問題ではなく、将来をその問題とするのでその前提条件たる「環境変化」をどう読むかがポイントとなります。

問題と問題点の違い

問題と問題点はよく混同されて用いられることがありますが、そもそもこの2つは定義が異なります。そこで、問題と問題点について定義付けをしておきます。
問題とは、「あるべき姿」と「現状」とのギャップであり、このギャップを生み出している原因(要因、条件)が問題点となります。
問題を引き起こしている原因は必ずしも一つではなく、むしろ、多くの場合、いくつかの原因が絡み合って問題を生じさせています。
しかし、すべての原因が問題点ということではなく、問題点は問題を生み出している原因のうち「手が打てるもの」に限定されます。したがって、原因ではあっても「手が打てないもの」は問題点にはなりません。

  • 問 題:「あるべき姿」と「現状」とのギャップ
  • 問題点:「問題」を生み出している原因のうち、手が打てるもの

問題解決に必要な情報収集力

管理者が問題解決を進める上で不可欠な能力として、問題設定のための「情報収集力」があります。この情報収集力には集めた情報を整理して分析する能力も含まれます。

情報収集力

企業における重要な意思決定は、直接、自分の目で確かめた事実に基づいてなされることはほとんどありません。組織のタテ・ヨコから得られる情報、業界の資料や政府・マスコミの情報などを総合的に判断して意思決定を行なっているのです。したがって、情報収集の仕方や分析処理の方法、情報についての解釈の能力などによって大きく差が出ます。 この情報収集においては、広い視野で様々な観点から自由に発想することが必要となります。そのためにはフレームワーク(枠組み)で発想します。

【情報収集のためのフレームワーク例】

  • SWOT分析
  • 3C(Customer・Company・Competitor)
  • 価値連鎖(バリューチェーン)
  • マーケティングの4P
  • プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
  • ファイブフォース分析
  • 効率・効果
  • 質・量
  • 事実・価値
  • メリット・デメリット
  • 時間軸(長期・中期・短期、過去・現在・未来)

ここでは、フレームワークの一例として戦略策定時に頻繁に活用される「SWOT分析」について解説します。

SWOT分析

分析結果を整理するための代表的なフレームワークにSWOT分析があります。SWOT分析とは、外部環境分析から市場の機会(Opportunity)、脅威(Threat)を、自社分析から自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)を整理し、それぞれのファクターの組合せで自社の採るべき戦略や施策の検討材料を明らかにするための手法です。

(1)機会

外部環境におけるビジネスチャンスは何か、自社との関連性は強いか、という観点で外部環境分析の結果を整理します。機会の例として、IT革命による市場拡大、高齢化社会による消費構造の変化などがあります。

(2)脅威

外部環境におけるビジネスリスクは何か、自社との関連性は強いか、という観点で外部環境分析の結果を整理します。脅威の例として、技術革新による画期的新商品の登場、海外からの低価格品の流入などがあります。

(3)強み

自社にとっての強み、すなわち他社に比較して勝っている部分は何か、という観点で自社分析の結果を整理します。強みの例として、独自の技術力・ノウハウなどがあります。

(4)弱み

自社にとっての弱み、すなわち他社に比較して劣っている部分は何か、という観点で自社分析の結果を整理します。弱みの例として、財務体質からくる資金調達力不足、知名度の低さによる人材獲得難、などがあります。

SWOT分析で洗い出した結果を、「強み-機会・脅威、弱み-機会・脅威」のマトリクスに組み変え、戦略を検討します。

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収集した情報は、上記のような「機会・脅威-強み・弱み」のマトリクスで整理すると、「機会」を自社の「強み」で確実にするための戦略が見えてきます。

問題解決に必要な問題発見力

管理者に不可欠な能力として、「問題発見力」があります。問題解決において何が「問題」で、その問題の原因となっているものが何であるかを究明しない限り、問題解決はできません。また、問題そのものの設定や問題点の特定が誤っていた場合、いくら解決策を講じても解決には至りません。
したがって、この「問題発見力」が管理者にとって最も重要な能力であるといっても過言ではありません。

問題の構造

問題の存在に気付いたとしても、それで問題が正しく認識できるわけではありません。問題解決は、その問題の論理構造を理解しなければ不可能です。なぜなら、起こった問題の事後処理を行なっても、その問題がどのような過程で生じたかという原因やその相互関係の解明をしない限り、問題解決には至らないからです。
問題を目標と現状のギャップという観点で図解すると、以下のようになります。たとえば、発生型の問題を例にとってみると、まず現時点における問題点の確認から出発して、その問題が発生した原因を過去に遡って究明し、原因を突き止めた上で、未来に向かって対策を講じるというステップになります。

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これらのステップの中で最も難しいのは原因分析のステップになります。原因をいかに体系的に構造化していくかがポイントになります。問題を発生させた原因が複数であるとき、それらの原因の相互関係を分析しない限り、原因のウェイト付けはできません。
また、原因は大きく「条件」「要因」に分けることができます。さらに、条件は「制約条件」と「突発事象」に、要因は「手段」と「活動」に分けることができます。

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(1)手段

手段とは、目標達成のために採用した方法であり、当事者の意思によるものであるため、要因となります。

(2)活動

活動には、目に見える行動の事実と、推論してみなければ分からないブラック・ボックスの事実が含まれています。

(3)制約条件

制約条件とは、目標達成の手段を考えるときの条件であって、制約条件によって取りうる手段の範囲が限定されるばかりか、制約条件に照らして手段を評価してみると、その手段の有効性が証明されることになります。制約条件は、当事者の立場で解決したり、取り除くことができない客観的状況を表わし、制約条件が存在するために、目標達成のための手段と活動が制約されることになります。
さらに、制約条件は「絶対制約」と「一時制約」に分けることができます。「絶対制約」とは、自然現象や社会制度・法律などですが、これらも時代とともに変化する場合もあります。「一時制約」は、目標達成のための手段を講じた段階で、一時的に制約となる条件を指します。また、一時制約となっている制約条件であっても、時間と努力によって変えられる条件は、問題点となり得ます。

(4)突発事象

突発事象とは、偶発的に、不意に発生する不可抗力的な障害を指します。制約条件と突発事象の違いは、目標達成のための手段を決定した時点で存在するか否かによります。

ブラックボックスを解明する

問題形成を行なう場合、収集した情報がすべて明確な事実であるばかりとは限りません。むしろ、不完全な情報、不確実な情報の下で問題形成を行ない、意思決定をしなければならないのが実情です。
情報分析や情報処理において細心の注意を要するのは、収集されなかった情報=未知の情報をいかに扱うかです。いかに精度の高い数学的処理を行っても、それは所詮集められた情報に過ぎません。したがって、これは情報の確度を意味するものではないということを認識しておかなければなりません。

(1)ブラックボックスは、活動(プロセス)における部分的未知の領域

ブラックボックスとは、未知の情報を指します。
活動プロセスにおいては、目標達成を阻む障害が、はっきりと分かっている(=情報として与えられている)場合と、一部は分かっているが一部は不明である場合、さらに何らかの障害があるのは分かっているけれど、それが何であるか完全に不明の場合があります。完全に不明の場合は、障害そのものがブラックボックスであるということになります。
通常は、活動プロセスの中に必ずといっていいほど不明瞭な部分が存在しています、その部分未知の領域に往々にして真の問題点が潜んでいます。ブラックボックスの中身の推定は、問題形成の決め手となるもっとも重要なステップです。

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問題解決の場合、すべての情報が既知であるという前提で考えることは危険です。常にブラックボックスの存在があることを前提に考えるべきです。
また、何が既知で、何が未知であるのかをはっきりさせることも重要なポイントです。

(2)ブラックボックス解明の3ステップ

ブラックボックスの解明には、以下の3つのステップが必要です。

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情報を収集する

収集する情報には2種類考えられます。第1種の情報は、目標達成のための手段(以下インプットと記す)と結果(以下アウトプットと記す)とに関するもので、「どのようなインプットに対して、どのようなアウトプットが見られるか」についての情報です。これは必要に応じて過去に遡って、類似のケースについて情報を集めると、特定のインプットに対するアウトプットの仕方に一定のパターンや特徴があることに気付きます。
第2種の情報は、制約条件に関するもので、たとえば、AとB二人のインプットが仮に同じであっても、年齢や経験、家庭環境などの違いによって、アウトプットが異なってくる場合があります。このような制約条件の下で、インプットをアウトプットに変えるメカニズムは、その人が持っている「欲求の構造」であるといえます。
Aの欲求の構造とBのそれと違いは何に由来するか、その内容はどのようなものであるか、などを推測しようとするときに、手掛かりとなるのは、インプット~アウトプットのパターンと制約条件の違いです。これにより、「Aはこのような欲求の構造を持っているであろう」という推測が成り立ちます。具体的には、特定の情報に対して、Aがどう受け止めたか、Aが自分の欲求に照らし合わせてどのように解釈したか、ということになります。

事実の確認

事実の確認というのは、収集した情報が、客観的に存在する事実であるのか、ということを確かめてみることです。特に、見えない事実は、推論によって把握されますので、その推論の裏付けとなる証拠が必要となります。たとえば、第三者がAについて述べた意見を証拠とするような場合は、意見の内容そのものを客観的事実として認定することは適切ではありません。
ケインズは「知識のある部分は直接得られ、またある部分は証明によって得られる」と言っていますが、直接得られる情報と何らかの形で得られる情報とがあるということです。
私たちは、いわゆる三段論法を良く用います。A=B、B=CならばA=Cであるというのは、A=Cという情報は未知であるが、A=B、B=Cという情報があれば、A=Cという事実が存在しても構わないということです。
事実確認は、必ずしも良いではありません。思い込みや先入観で判断したり、人の意見を鵜呑みにしないように心がける必要があります。

仮定を立てる

仮定は、事実の確認から出発するものですので、もし、事実の確認に誤りがあれば、仮定もいい加減なものになってしまいます。仮定というのは、事実とそれに基づく推論によって作られる、原因~結果に対する説明文のことです。前述のケースの場合、「Aは・・・のような欲求の構造を持っているので、・・・というインプットに対して・・・のようなアウトプットがあった」というのが仮定になります。もし、この仮定が正しいとすれば、Aから期待すべきアウトプットを引き出すためには、Aに対してどのようなインプットを与えればよいか分かります。つまり、人間行動の予測が可能になり、有効な対策が講じられるのです。

常識や既成概念をリセットするゼロベース思考

問題解決には、問題の本質を見極めることが重要です。そのためには、論理的思考が必要であり、以下の紹介するいくつかの論理的思考によって、問題解決を効率的に進めることができます。

ゼロベース思考とは

過去の成功体験や自社・自部門の常識にとらわれて、その経験や常識に基づいた思考しか出来ない場合、その枠の外にある解決法を見落としてしまうことがあります。
ゼロベース思考とは、このような自分達の常識や既成概念をいったんリセットしてしまい、白紙に戻した上で、考える枠を大きく広げて新しい可能性を求める思考方法のことです。

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既存の枠を取り除く方法

それでは、既存の枠からどう抜け出せば良いのでしょうか。人間はそれぞれ自分の思考回路を持ち、そのフィルターを通して考えています。その思考回路というのは、今までの経験や周りの環境から影響を受けて形成されたものです。したがって、論理的に考えるのを阻害するのがこの思考回路です。ある組織に長期間所属したり、いつも同じ志向を持つ人たちと一緒にいる時間が長い人などは、この個性的なものの見方やその組織や業界のルールにどっぷり使ってしまっている場合が多くあります。

しかし、一番重要な問題は、自分では「その偏見・先入観に対して自覚症状がない」ということです。知らず知らずのうちにそのような枠にとらわれて考えてしまっているのです。その枠を取り除くには、意識的に次の行動をとることが必要です。

まず、業界の常識を疑ってみることです。「この問題は専門家がいないと解決できない」⇒「専門家のいないわが社では解決できない」ではなく、「専門家でないと解決できない問題」という常識を疑い、一旦取り払うことによって新たな可能性を考えます。たとえば、「業界大手のA社と業務提携をすることで解決できないか」などです。

自分が所属する部門や、自分の立場(役職)を一度忘れ、自社内にはびこる暗黙のルールや慣習から抜け出すことを実践することです。そして、自分の成功体験の下、いつもそのやり方を踏襲することを、意識的に抑制するように心がけることです。

演繹法と帰納法

演繹法

演繹法は、まず事実があって、そこから解釈を通して結論が導かれる論証形式です。いわゆる「三段論法」です。演繹法は、次の順序で論理を展開していきます。

  • まず、世の中に実在する事実/前提(ルール)を述べる
  • その事実に関連する状況(観察事項)を述べる
  • 前記2つの情報が意味することを解釈し述べる(結論)

つまり、観察事項をルールと照らし合わせ、観察事項からルールにコメントし、「それゆえに」という言葉で結論を結びます。
たとえば、実在しているルールが「投資利益率が20%超でなければ投資は行なわない」であり、事実に関連する観察事項が「回転寿司事業の投資利益率は14%である」であった場合、前記2つの情報を解釈し、「よって、回転寿司事業には投資しない」という論理展開になります。

演繹法の留意点としては、論理展開のプロセスは正しく組み立てられていたとしても、そもそもそこで使われている事実/前提が正しくなければ、当然結論は正しくないということになります。
この事実の見極めには、当然裏付けのあるリサーチやデータの利用が前提となりますが、前述したゼロベース思考で物事を捉え、事実/前提が現在まだ通用するのかなどを確認することも必要です。

帰納法

帰納法とは、複数の観察された事実や意見の類似性から結論を導く方法です。帰納法は、自動的に結論が出る演繹法とは異なり、「観察された情報の共通性から導ける結論を出す」という作業が必要です。すなわち、結論は「・・・だろう」「・・・のようだ」という推測の形をとることが多くなります。したがって、帰納法を用いて出された結論は必ずしも100%正しいわけではないことに留意すべきです。

たとえば、「シニア世代が都心へ移り住んでいる」「夫婦世帯が都心へ移り住んでいる」「独身世帯が都心へ移り住んでいる」という情報を受けて、ある人は「利便性を求めて都心に人が集まっている」と結論を出し、またある人は「都心への流入が過剰となり、公共機関のサービスが追いつかない」という結論を出すかもしれません。
帰納法を用いるときには、伝え手と受け手との間で納得がなければ不適切な論理展開になりますので注意が必要です。

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